ヨシタケシンスケ展かもしれない:絵本の世界たっぷり増量で東京凱旋

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『りんごかもしれない』などのヒット作で知られる絵本作家ヨシタケシンスケさんの大規模個展「ヨシタケシンスケ展かもしれない」。展示物を大幅に増やした「たっぷり増量タイプ」となって20日、東京に約3年ぶりに帰ってきた。

原画やスケッチ大幅に増量

巡回個展は、2022年4月に東京・世田谷文学館で始まり、これまでに全国14カ所で約70万人を動員した。今回は東京都中央区京橋のCREATIVE MUSEUM TOKYOを会場に、従来の巡回展よりも絵本の原画やアイデアスケッチを大幅に増やしている。新たな体験アトラクションも設けた。

ヨシタケさんは、展示会直前のトークで、今回の個展への思いをこう語った。「3年前はまだ新型コロナウイルス対策のさなかでした。入場も完全予約制で、手で触れる展示も難しかった。一方、今回は触ったり体験したりという、僕がやってみたかった形を存分に実現できています。そういう意味では(個展が)やっと完成したという面がとても強いのです」

ヨシタケさんの絵本の原画170点が並ぶ
ヨシタケさんの絵本の原画170点が並ぶ

絵本をつくる「頭の中」をのぞく

絵本の原画は170枚。『りんごかもしれない』など巡回展で扱ってきた作品に加え、『メメンとモリ』『ぼくはいったい どこにいるんだ』など絵本4冊の原画を追加した。会場にはところどころにヨシタケさんのコメントが付箋で加えられている。絵本のキャラクターを立体化した展示もある。

絵本をつくるヨシタケさんの「頭の中」をより深く幅広くたどれるように工夫が凝らされている。なぜ、こんな展示を企画したのだろうか。

ヨシタケさんは企画段階での試行錯誤について、「僕の絵は小さくて、原画には色もないのです。一般的に絵本の原画の展示は『こんなに大きな絵なんだ』とか『印刷にはない美しい色なんだ』ということを見せるのですが、僕の作品ではそれが難しいのです。僕にしかできないことを探っていく中で、絵本ができるまでに、僕の頭の中で何が起きていたのかを展示したらどうだろうかと考えました」と振り返った。

「頭の中」が随所に表現されている展示の中でも圧巻は、デビュー前から描きためた小さなスケッチが7500枚以上張り詰められた「壁」だ。これまでの巡回展では2500枚を展示してきたが、今回は3倍に「たっぷり増量」した。それぞれのスケッチに、日常の何気ない風景や頭の中のイメージ、世界の見え方が描かれていて、ヨシタケさんの創作の出発点を垣間見ることができる。

ヨシタケさんのアイデアの源泉に触れられるスケッチの展示
ヨシタケさんのアイデアの源泉に触れられるスケッチの展示

「スケッチは普段、家族に叱られたときなど、自分の気を紛らわせるために書いたものです。世の中にはストレスがたくさんありますよね」と笑いを誘うヨシタケさん。そしてこう続けた。「やらなくてはいけないことがあるのに、わざわざ部屋の掃除を始めるみたいな感覚で書いてきたものがたまったものがこのスケッチです。でも、これが結果的に絵本のネタになったりもしています。そういうところも会場の皆さんとシェアでできると良いと思います。展示したスケッチの全てを見ることはできないと思いますが、『気持ち悪いなあ』などとちょっと興奮しながら楽しんでほしいですね」

ヨシタケさんが書き留めたスケッチの1点
ヨシタケさんが書き留めたスケッチの1点

「あしのうらをじめんからはなす」体験

今回の会場には、森を模した大型の体験展示「つり輪の森」が出現。つり輪にぶら下がって、絵本『あつかったら ぬげばいい』の「おとなでいるのにつかれたら あしのうらをじめんからはなせばいい」という一場面を体感できる。パネルに映し出されたうるさい大人の口にリンゴ形の赤いスポンジボールを投げ入れて黙らせるアトラクションもある。どれも遊び心がいっぱいで、絵本の世界を楽しめる。

森の中のつり輪にぶら下がって絵本の一コマを体験するアトラクション
森の中のつり輪にぶら下がって絵本の一コマを体験するアトラクション

「うるさい大人の口」にリンゴ型のボールを投げ込んで黙らせる絵本の一コマを体験できる展示
「うるさい大人の口」にリンゴ型のボールを投げ込んで黙らせる絵本の一コマを体験できる展示

各国で翻訳、高い評価

ヨシタケシンスケさんは1973年、神奈川県生まれ。イラストレーターなどを経て、2013年に『りんごかもしれない』で絵本作家としてデビューした。シンプルで親しみやすい絵柄に加え、「当たり前」ではない角度を変えた視点からの創作も多く、子どもから大人まで幅広い年代の心をつかんでいる。

東京で2回目の大規模な個展について語るヨシタケさん
東京で2回目の大規模な個展について語るヨシタケさん

ヨシタケさんの作品は、海外でも評価され、英語、中国語、フランス語、スペイン語、韓国語、オランダ語などに訳されている。『つまんない つまんない』の英語版『The Boring BOOK』は、2019年にニューヨークタイムズ最優秀絵本賞に選ばれた。

ヨシタケシンスケの絵本
ヨシタケシンスケさんの絵本

会場のショップでは、英語や中国語、スペイン語などのポストカードも販売している。

グッズショップでは多言語のポストカードも販売されている
グッズショップでは多言語のポストカードも販売されている

ヨシタケシンスケ展かもしれない たっぷり増量タイプ

  • 会場:CREATIVE MUSEUM TOKYO
    東京都中央区京橋1-7-1 TODA BUILDING 6階
  • 会期:2025年6月3日(火)まで無休
  • 開館時間:午前10時~午後6時(土日休日は午前9時から。金土と5月4、5日は午後8時まで)
  • 3月20日~23日、5月3~6日、5月31日~6月1日は日時指定制
  • 入場料:一般2000円、学生1500円、小中学生1000円、未 就学児無料(前売りは200円引き)
  • 公式サイト:https://yoshitake-ten.exhibit.jp/tokyo/

文、写真:ニッポンドットコム編集部 松本創一

© Shinsuke Yoshitake

バナー写真:絵本のキャラクターの立体像や、体験アトラクションも充実している「ヨシタケシンスケ展かもしれない たっぷり増量タイプ」の展示

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