この秋見たい「逆さもみじ」―水鏡に映る“シンメトリーの美”
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朝焼けが生み出す一瞬の奇跡:蔦沼(青森・十和田市)
湖などの水面に富士山が上下反転して映る様を「逆さ富士」と呼ぶが、その紅葉バージョンが「逆さもみじ」。
無風で水面に波が立たない、いわゆる「水鏡」が生み出す芸術。なかでも、1年に数回、それも数分だけという希少さからファンの心を惹きつけているのが、青森県の十和田八幡平国立公園内にある「蔦(つた)沼」だ。
十和田湖から北へ10キロ、ブナの原生林が生い茂る奥入瀬(おいらせ)エリアに点在する「蔦七沼(つたのななぬま)」の一つ。周辺は野鳥の生息地としても知られ、遊歩道が整備されている。平安時代から続く秘湯「蔦温泉」も歩いて10分ほどだ。
紅葉の見頃は、例年10月中旬~下旬で、とりわけ晴れた日の早朝が素晴らしい。対岸のブナ林が朝日を正面に受け、真っ赤に燃え上がって湖面に映り込む。
息をのむ景色は湖畔の展望デッキからじっくり楽しめるが、この時期、早朝の時間帯は混雑を避けるため事前予約制(今年は10月20~31日)。さらに渋滞対策・環境保全協力金として、入場券や駐車場利用券が必要となる。詳細は十和田市ホームページを参照。
一面の黄葉が深緑の水面を染める:御射鹿池(長野・茅野市)
蔦沼の逆さもみじが燃えるような赤ならば、一面を黄金色に染めるのが御射鹿(みしゃか)池。日本百名山・八ヶ岳の西麓、奥蓼科(たてしな)温泉郷近くにある人工のため池だ。
温泉郷の源泉を抱える渋川から灌漑用水を引いているため酸性度が高く、魚はすめないものの、その分、透明度は高い。湖底に繁茂するチャツボミゴケも水面の“鏡効果”を増幅させている。日本画家の巨匠、東山魁夷(ひがしやま・かいい)の代表作「緑響く」のモチーフとなり、吉永小百合さんが出演したテレビCMなどでも知られる。
高原の夏を彩る新緑のカラマツ林も幽玄だが、深緑の水面と黄葉のコントラストも神秘的。御射鹿池の紅葉は南向きで好天の日は逆光となるため、曇天の日がおすすめとの声もある。国道299号沿いに位置し、無料駐車場(普通車31台、大型車6台)も整備されている。
茅野市観光案内所によると、今年は紅葉の始まりが例年よりやや遅めで、10月下旬頃から色づき始め、11月上旬に見頃を迎える見込みという。
床板に映り込む庭園のモミジ:宝徳寺(群馬・桐生市)、寿福寺(長崎・佐世保市)
逆さもみじのうち、反射面が水面ではなく、磨き上げられた床となるのが「床(ゆか)もみじ」。なかでも東日本随一とうたわれるのが群馬県桐生市の宝徳寺(ほうとくじ)だ。
室町時代、1450年頃に創建された禅寺。「関東百名山」の鳴神山(なるかみやま)を望む山あいの閑静な地に立つ。
毎年11月中旬になると、周囲の山々とともに境内の100本以上のモミジが見頃を迎える。本堂の板の間は広さ28畳。漆塗りの床に紅葉が映り込み、赤、黄、緑色のコントラストが拝観者の目を楽しませる。ふすまの水墨画や枯山水の庭も場の雰囲気を引き立て、ライトアップされた夜間はさらに幽玄さが増し、「紅葉浄土」の世界が広がる。
今年の「秋の床もみじ特別公開」は10月20日~11月30日。詳細は宝徳寺ホームページを参照。
一方、長崎県佐世保市にある真言宗智山派の寺院、寿福寺(じゅふくじ)では2006年の秋から、紅葉の見頃を迎えると、旧本堂の広間の畳を一部はがして6畳大のアクリル板をはめ込み、庭園のカエデがきれいに映り込むよう仕掛けを施している。今年は11月15~24日に開催。詳細は寿福寺ホームページを参照。
他にも逆さもみじの名所はたくさんある。代表的なスポットをいくつか紹介しよう。
【六義(りくぎ)園】 東京都文京区にある都内有数の紅葉の名所。5代将軍徳川綱吉の側用人・柳沢吉保によって造られた回遊式築山泉水庭園(国の特別名勝)。見頃を迎える11月22日~12月3日に夜間特別観賞を開催。山手線・地下鉄南北線駒込駅から徒歩7分。
【東山動植物園】 名古屋市千種区に1937年開園した市営動植物園。イロハモミジ、ハウチワカエデなどが、合掌造りの家や奥池、日本庭園を彩る。見頃は例年11月中旬~12月上旬。ライトアップも実施。地下鉄東山線東山公園駅から徒歩3分。
【なばなの里】 三重県桑名市にある国内最大級の花のテーマパーク。 100mの「光のトンネル」や鏡池に映る紅葉が見事。見頃は例年11月下旬~12月中旬。近鉄名古屋線近鉄長島駅から三重交通アクセスバスで10分、なばなの里下車すぐ。
【永観堂 禅林寺】 京都市左京区にある浄土宗西山禅林寺派の総本山。古来紅葉の名所として知られ、古今和歌集にも詠まれている。岩に紅葉が映える「岩垣もみじ」も風情あり。見頃は例年11月中旬~下旬。地下鉄東西線蹴上駅から徒歩15分。
【栗林(りつりん)公園】 香川県高松市にある庭園(国の特別名勝)。東京ドーム3.5個分の広さを誇り、高松藩主松平家の別邸として約300年前に完成。和船で池を周遊しながら紅葉を楽しめる。見頃は例年11月下旬~12月上旬。JR栗林公園北口駅から徒歩3分。
【由志(ゆうし)園】 島根県松江市、中海に浮かぶ大根島にある日本庭園。出雲地方の風景を再現した約1万坪の園内は、5月の牡丹をはじめ四季折々の花に彩られ、紅葉の見頃は例年11月中旬~12月上旬。松江駅から市営バスで50分、由志園入口下車徒歩5分。
文:ニッポンドットコム編集部
バナー写真:「シンメトリー(上下対称)」の美を堪能できる、青森県十和田市「蔦沼」の逆さもみじ PIXTA