東京タワー近くに新たな街「麻布台ヒルズ」11月誕生―日本一高いビルもお目見え
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森ビル「ヒルズ・シリーズ」の最新作
8月8日に行われた記者説明会では、「森JPタワー」52階のオフィスフロアが公開された。窓から外を眺め、そのスケール感に圧倒された。東京タワーの展望台を間近に見下ろし、レインボーブリッジやお台場、さらに海ほたる(東京湾アクアラインパーキングエリア)も一望できる。
「麻布台ヒルズ」は、国内大手デベロッパー・不動産会社の森ビルが、東京・港区で展開する「ヒルズ・シリーズ」の“最新作”。ヒルズ・シリーズとは、建物を高層化して緑地を広げる「立体緑園都市」プロジェクトで、「職」「住」「食」など都市生活に必要なもの全てが徒歩圏内に集約された「コンパクトシティ」を都心に創出する。
その第1弾は1986年に完成した「アークヒルズ」。「赤坂」と「六本木」の「KNOT(ノット=結び目)」という意味を込め、それぞれの頭文字(ARK)を取って命名。豪華マンション、オフィス、商業施設、レストラン、テレビスタジオ、コンサートホール、屋上庭園で構成される。
第2弾は2003年完成の「六本木ヒルズ」。メインタワーは高さ238メートル、54階建ての「森タワー」。4棟の高層集合住宅「六本木ヒルズレジデンス」は「ヒルズ族」の言葉を生んだ。森タワー53階の「森美術館」では、現代アートを中心にファッション、建築、デザイン、写真、映像などさまざまなジャンルの展覧会を開催している。
そして第3弾が2014年開業の「虎ノ門ヒルズ」。「文化都心」を掲げる六本木ヒルズに対し、「グローバルビジネスセンター」を謳(うた)う。アジア最大のオープンイノベーションの祭典「イノベーションリーダーズサミット」の会場ともなっている。
緑に包まれ、人と人をつなぐ「広場」のような街を
第4弾となる「麻布台ヒルズ」はアークヒルズに隣接し、六本木ヒルズと虎ノ門ヒルズの中間に位置する。文化とビジネスの両方の個性を備えたエリアに立地しており、「これまでのヒルズで培ったすべてを注ぎ込んだ『ヒルズの未来形』」(辻慎吾社長)。開発コンセプトは「Modern Urban Village~緑に包まれ、人と人をつなぐ『広場』のような街~」。
「Green(緑)」と「Wellness(健康維持・増進)」を二本柱に、「人々が自然と調和しながら、心身ともに健康で豊かに生きることができる街づくり」を目指し、約6万4000平方メートルの敷地の4割を占める緑地が、オフィスや住宅、商業施設を取り囲むように広がっているのが特徴だ。最新の医療機器と大学病院のスタッフによる人間ドックや健診プログラムを提供する「慶應義塾大学予防医療センター」も誘致し、居住者らの健康増進をサポートしていくという。
ベンチャーキャピタル集積拠点やインターナショナルスクールも
東京ドーム1.4個分の広さの敷地内には、3棟の高層ビル(64階建て2棟、54階建て1棟)が立つ。入居するオフィスの総就業者数は約2万人、住宅の総居住者数は約3500人。新街区には計2万3000人超が生活するほか、年間2500万~3500万人の来訪者を見込んでいる。
街全体で総貸室面積約21万平方メートルという広大なオフィススペースを提供するが、中でもスタートアップ企業を育てるためにさまざまな仕掛けを準備したという。
大企業の新規事業創出を支援するインキュベーションセンターを開設するとともに、世界最大のスタートアップコミュニティ「ケンブリッジ・イノベーション・センター(CIC)」のアジア初拠点である「CIC Tokyo」と連携。さらに、日本初の大規模ベンチャーキャピタル(VC)集積拠点「Tokyo Venture Capital Hub」を設立し、日本ベンチャーキャピタル協会や日本のVC業界を牽引する独立系VCなど約70社を集めた。
インターナショナルスクールの誘致も新たな取り組みの一つだ。
麻布台ヒルズのある麻布地区は、外資系企業や大使館が立地する国際性豊かな地域。麻布台ヒルズ内に入居する企業も半数近くが外資系となる見込みという。外国人ビジネスワーカーが多くインターナショナルスクールの需要は高いが、都心部におけるインターナショナルスクールの数は、他のアジア主要都市と比べて決して多いとは言えない。
「東京がし烈な国際都市間競争を勝ち抜くためには、世界から企業や才能あるグローバルプレーヤーを惹きつける必要があり、そのためには、外国人ビジネスワーカーやその家族の生活を支える生活環境の整備が不可欠」(辻社長)。
そこで「教育環境の充実」を掲げて、「ブリティッシュ・スクール・イン東京」を誘致。同スクールは創立34年の歴史を持ち、英国式の教育カリキュラムのもと、60以上の国籍の生徒が在籍している。麻布台ヒルズキャンパスには幼児・初等教育科の約740人が通学する。
ラグジュアリーな住居&ホテルで海外富裕層を呼び込む
麻布台ヒルズは3棟の高層ビルなどで計1400戸の住宅を提供する。注目は「森JPタワー」最上部(54~64階)に入る「アマンレジデンス 東京」(91戸)。東南アジアを中心にアメリカやヨーロッパなどでリゾート型高級ホテルを展開するアマンリゾーツが運営し、日本屈指の超高級分譲住宅となる。
また、アマンリゾーツは「レジデンスA」低層部(1~13階)で、アマンの姉妹ブランド「Janu(ジャヌ)」の世界初となるホテル「ジャヌ東京」も運営。中央広場に面して122室の客室を持つホテル内には、フィットネスジムやスパハウスを備えたウェルネス施設や8店舗のレストラン&バーも入る。
一方、飲食店やアパレルショップなど海外高級ブランドを含め約150の店舗が入る商業施設の核となるのは、中央広場の地下に誕生する4000平方メートルの「麻布台ヒルズマーケット」。広々とした空間には、鮮魚や総菜、ベーカリー、鰹節や煮干し、昆布、シイタケ等のだしなど31の専門店が集結。こうした専門店が商店会をつくり、学校や企業などと協業してラボ活動も進めていくという。
「逃げ出す街」から「逃げ込む街」へ
最後に、耐震性などの安全対策や防災面について見てみよう。
森ビルによると3棟のタワーは、高強度の鋼材やコンクリートを構造部材にバランスよく使用し、建物のコア部に制振装置を適切に配置。災害に強い中圧ガスを使用した自家発電プラントを地下に設置し、東日本大震災や阪神・淡路大震災レベルの地震が起きた際も、安心して生活や事業を継続できる体制を整えているという。
さらに、災害などにより周辺エリアで帰宅困難者が発生した場合は、約3600人が一時滞在できる約6000平方メートルの受け入れスペースを確保。「虎ノ門ヒルズ ステーションタワー」と合わせると約1万4000人の帰宅困難者の受け入れが可能で、備蓄食材は約36万食に上る。
現在、世界で最も高いビルは、アラブ首長国連邦(UAE)のドバイにある「ブルジュ・ハリファ」で828メートル。2位は上海タワーで632メートル。中国や中東のビルがランキング上位を占め、「麻布台ヒルズ 森JPタワー」はトップ100にすら入らない。
だが、単に“高さ比べ”をもって、日本が超高層ビルの世界で後れを取っている、とは言えない。延べ床面積や利用者に提供するコンテンツの質と量、さらに安全対策なども考慮して総合的に判断すべきであり、そうした意味で「麻布台ヒルズ」は、辻社長が語るように「超高層ビルの未来形」と言える。
「街づくりに集大成はありません。次なるヒルズプロジェクトとして現在、六本木ヒルズの隣に延べ床面積100万平方メートルを超す『六本木五丁目プロジェクト』を計画していますが、これもヒルズの未来形となります」と辻社長は話す。
4年後には新たな「日本一高い」ビルが登場
2023年に入って東京都内では高層の複合施設の開業が相次いでいる。3月には、三井不動産が地上45階建ての「東京ミッドタウン八重洲」を、4月には東急グループが地上48階建ての「東急歌舞伎町タワー」をオープン。8月24日には、渋谷区文化村通りに面した「旧ドン・キホーテ渋谷店」跡地に、ラグジュアリーホテルやオフィス、ショッピングエリアで構成する地上28階建ての「道玄坂通」がオープンする。
さらに2027年には、東京駅北側の日本橋口に隣接するエリアに、地上63階建て、高さ390メートルの「Torch Tower(トーチタワー)」をメインタワーとする新街区「TOKYO TORCH(トウキョウトーチ)」が誕生。麻布台ヒルズの「 森JPタワー」に取って代わり「日本一高いビル」の座に就くことになる。
バナー写真:神谷町駅側から眺めた「麻布台ヒルズ」の外観。一番左の高層ビルが「森JPタワー」で、花弁のような形状の頭頂部とエッジのゆるやかなカーブラインが特徴的(提供:森ビル)