江戸怪談で暑気払い!日本最古の遊園地 「浅草花やしき」が人気のお化け屋敷を12年ぶりにリニューアル
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開園170周年を迎えた都心の遊園地
東京を代表する観光地・浅草。そのシンボルともいえる浅草寺の西隣にあり、まさに「下町の遊園地」という表現がぴったりな「花やしき」。東京ドームの約半分というコンパクトな園内に、ローラーコースターやメリーゴーランドなどレトロなアトラクションが立ち並び、「子供の遊園地デビューに最適」と家族連れからの人気も高い。
花やしきは日本最古の遊園地。開園したのは江戸時代末期の1853年、ペリー来航の年にあたる。その名称が示すように、ボタンや菊を主とした植物園として誕生した。
明治に入ると木馬などの遊具が置かれるようになり、1880年代から昭和初期にかけては動物(象・虎・熊・ライオンなど)も飼育されており、日本の動物園のルーツとも言われる。
現在のような遊園地となったのは戦後の1949年。園内で最も古いアトラクションは47年に誕生したビックリハウス。53年には(現存する日本最古の)ローラーコースターが登場し、建物スレスレを走り民家の間を通り抜けて話題を呼んだ。
ローラーコースターと並ぶ人気アトラクション「お化け屋敷」が登場したのは1984年。自分で施設内を歩いて回る「ウォークスルータイプ」で、60mほどの通路を進むと生首などのお化けに遭遇するというオーソドックスな趣向。26年にわたるヒット作となった。
2代目は2011年に登場した「お化け屋敷~桜の怨霊~」。これもウォークスルー型で「花やしきで長年ひそかに語り継がれる怪談」という設定のもと、大きな桜の古木を切ってしまったことから始まる、さまざまな呪いの現象を体験するもの。人形がずらりと並ぶゾーンは“鳥肌もの”だった。
初代も2代目も、お化けや幽霊は全て作り物で機械仕立て。ところが、お客やスタッフの間から「子供の霊を見た」とか「誰も入場していないのにセンサーが作動し、仕掛けが動き出した」などの“証言”が飛び出すなど、「本物の幽霊が出るスポット」との都市伝説が生まれる。
「江戸四大怪談」をモチーフに
今回12年ぶりに全面リニューアルされた3代目は「お化け屋敷~江戸の肝試し~」。ウォークスルー型で機械仕立てという伝統はそのままに、歌舞伎や落語、講談などで現代にも伝わる『四谷怪談』『番町皿屋敷』『牡丹灯篭(ぼたんどうろう)』『累ケ淵(かさねがふち)』の「江戸四大怪談」をモチーフに取り入れた。
ちなみに各怪談を簡単に紹介すると――。
四谷怪談
元禄時代、江戸の雑司ヶ谷四谷町で起きた事件がベース。物語の中心となるのはお岩と伊右衛門の夫婦。基本的なストーリーは、伊右衛門が出世のためにお岩を裏切って毒を盛り、それを恨んだお岩が怨霊となってたたるというもの。毒薬を飲まされたお岩の容貌が次第に崩れていく「髪すき」の場面が凄惨(せいさん)で知られる。
番町皿屋敷
江戸番町にある旗本の屋敷が舞台。この屋敷には10枚一式の絵皿があり、主人はとても大切にしていた。だがある時、お菊という下女が誤ってそのうちの1枚を割ってしまう。激怒した主人はお菊をせっかんし、お菊は縄で縛られたまま、屋敷の井戸に身を投げる。以来、夜な夜な井戸の中から「いちま〜い、にま〜い…」と皿を数える声が。
牡丹灯篭
若侍の萩原新三郎は、ふとしたことから旗本の娘、お露と恋仲となる。お露は夜ごと牡丹灯籠を下げて新三郎の元を訪れ、逢瀬を重ねる。ところが、お露の正体は怨霊だった。 それを知った新三郎は怨霊封じのお札を家中の戸に貼って中にこもるが、お露は新三郎の使用人を買収し、お札をはがすことに成功して……。
累ケ淵
明治の落語家・三遊亭圓朝の代表作として知られる。旗本・深見新左衛門が金貸しの宗悦を殺害するのが発端。時を経て、宗悦の娘・園は新左衛門の息子・新五郎に殺され、もうひとりの娘・豊滋賀も父の敵(かたき)の息子とは知らず、新五郎の弟・新吉と深い仲となり、やがて嫉妬に身を焦がし自害する。さらに因果は複雑に絡み合い……。
※各怪談には複数のストーリーがある
江戸の肝試しを現代に復活
お化け屋敷というものは江戸時代から存在していた。1836年6月、両国回向(えこう)院で「寺島仕込怪物問屋(てらしまじこみばけものどんや)」という見世物が興行されたが、どうやらこれが第1号のようだ。
これは歌舞伎や芝居の演目になっていた怪談物の名場面を、からくり人形で再現したもの。このころ(天保年間)から、よりリアルで怪奇趣味にあふれた人形がつくられるようになり、それらは「化物細工」と呼ばれた。
花やしきの3代目お化け屋敷は、こうした幕末の江戸庶民を惹(ひ)きつけた肝試しの世界を現代に復活させたものという。
担当者の説明では、花やしきで“お化け屋敷デビュー”を飾る幼児も多いことから、以前のお化け屋敷よりも少し“マイルド”に仕上げているという。
とはいうものの……(ネタバレとなるのでさわりしか明かせないが)、いやそれでも十分に怖い。
入り口に低く流れる「通りゃんせ」。中は真っ暗で、壁を手探りしながら一歩一歩進まなければならない。不気味な嘆き声や叫び声、気配に思わず足が止まる。一番奥の「鬼のほこら」までたどり着き、除霊の水晶玉を触って来るのがミッションだ。
外国人観光客もターゲットに
開業170周年を迎えて、花やしきはお化け屋敷のほかにも新たなアトラクションをいくつか用意した。
「パノラマ時間旅行」は4面マルチ映像で浅草の今と昔をたどる映像型アトラクション。花やしきのシンボルとして長年親しまれた「Beeタワー」から一望できた浅草の町並みを楽しめる。「摩訶不思議!?君もスクープカメラマン」は専用デバイスを使い、ARで現れる妖怪たちを探す園内周遊型アトラクションだ。
さらに、「NAKED(ネイキッド)花景色」ではプロジェクションマッピングによって彩られた屋内空間で、日本の四季折々の風景を観賞できる。
また、浅草の粋な風情と、華やかな彩りと味を提供する飲食店「お花見茶屋」もオープン。8年ぶりに復活した名物「パンダカー焼き」や、見た目もかわいい「花むすび」などのグルメを販売する。
今回のリニューアルに共通して言えること、それは「屋内コンテンツの充実」だ。その背景には、近年の記録的猛暑や集中豪雨などの気候変動がある。
同園を運営する株式会社花やしきの西川豊史社長は、「屋外施設の場合、どうしても天候に左右される。そもそも今回の改装のきっかけは屋内施設の充実にあった」と語る。たとえば、浅草寺や仲見世通りなどの散策は朝と夕方にしてもらい、日中は花やしきで涼んでもらう、といった浅草の楽しみ方の提案だ。
また、日本の伝統文化である怪談を取り入れたお化け屋敷や、最近海外でも人気のおむすびや和菓子の提供は、インバウンド(訪日外国人旅行者)の取り込みもかなり意識したものだ。
浅草におけるインバウンド数はコロナ前に戻りつつある。浅草寺に関するSNSの口コミ数で、英語が日本語を超えたというデータもある。花やしきの園内でもアジア圏からの家族連れの姿が目につく。
こうした状況を踏まえて、リニューアルのための休園期間中に、4カ国語(日英中韓)の園内表示を新設。今後は、公式サイトの英語版をリニューアルするとともに旅行会社へのプロモーションにも力を入れ、外国人観光客の比率を高めていきたいという。
「開園から170年にわたり営業を続けてこられたのも、時代に沿ったコンテンツを考案し、提供してきたから。そうした歴史を大切にしながら、浅草ならではの“和のテイスト”を取り入れ、花やしきの魅力をSNSなどで海外にどんどん発信してもらえるよう努めたい」と西川社長は話している。
バナー写真:「江戸庶民の肝試しの世界を現代に復活させた」と語る、花やしきの西川豊史社長。入り口のテレビモニターでは四大怪談を講談で聴ける 写真:天野久樹