電気自動車のF1「フォーミュラE」東京副都心の市街地で来春開催―その特徴と魅力とは

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6月20日に開かれた国際自動車連盟(FIA)の総会で、国際レース「フォーミュラE世界選手権」の2024年シーズンの日程が承認され、来年3月30日にシリーズ第7戦が東京で開催されることが決まった。レース会場となるのは江東区の臨海エリア、東京ビッグサイト周辺の公道。市街地で本格的な自動車レースが開催されるのは日本初となる。

2014年に誕生した「電気自動車のF1」

フォーミュラEは、フォーミュラ1(F1)、世界ラリー選手権(WRC)、世界耐久選手権(WEC)とともにFIAが公認する4大世界選手権の一つ。F1同様、「単座席で屋根がなく、タイヤが露出した」レース専用車両(フォーミュラカー)を使用し、内燃機関(エンジン)の代わりに電気モーターを搭載するため、「電気自動車のF1」とも呼ばれる。

地球温暖化対策として「カーボンニュートラル」が全世界で共通課題となる中、モータースポーツ界も対策を迫られている。F1でもエンジンとモーターを組み合わせたハイブリッドシステムを導入するなどCO2(二酸化炭素)削減を推進しているが、それとは別に新たなアプローチとして誕生したのが、電気モーターだけで走るフォーミュラE。2014年に「e-Prix(イー・プリ)」と呼ばれるシリーズ戦がスタートし、これまで日産、メルセデス・ベンツ、BMW、ポルシェ、アウディ、ジャガー、マセラティなど世界の自動車メーカーが参戦してきた。

2018年フォーミュラEパリ大会の模様。パリ中心部にある観光スポット「アンヴァリッド」(ルイ14世により傷病兵の看護施設として建造された旧廃兵院)を周回する1周約2kmの特設コースで開催された ©Federico Pestellini/Panoramic
2018年フォーミュラEパリ大会の模様。パリ中心部にある観光スポット「アンヴァリッド」(ルイ14世により傷病兵の看護施設として建造された旧廃兵院)を周回する1周約2kmの特設コースで開催された ©Federico Pestellini/Panoramic

日産の新型マシン。フォーミュラEの車体サイズはF1マシンとほぼ同じだが、F1と異なり、車体とバッテリーは全チーム共通(ワンメイク)で、車体はスパーク・レーシング・テクノロジー社、バッテリーはマクラーレン・アプライド・テクノロジーズ社が提供する。パワートレイン、トランスミッション、インバーター、リアサスペンションなどは各チームが自由に開発できる ©NISSAN
日産の新型マシン。フォーミュラEの車体サイズはF1マシンとほぼ同じだが、F1と異なり、車体とバッテリーは全チーム共通(ワンメイク)で、車体はスパーク・レーシング・テクノロジー社、バッテリーはマクラーレン・アプライド・テクノロジーズ社が提供する。パワートレイン、トランスミッション、インバーター、リアサスペンションなどは各チームが自由に開発できる ©NISSAN

ゼロエミッション推進の弾みに

そうしたフォーミュラEを「ゼロエミッションへの取り組みの一つの象徴」として位置付けているのが東京都の小池百合子知事だ。

東京都では2050年までにCO2排出実質ゼロを目指している。その実現に向け、まずは2030年までに温室効果ガス排出量50%削減(2000年比)と、都内で販売される新車(乗用車)の100%非ガソリン化を目標に掲げる。フォーミュラE東京大会は、こうした都の取り組みを国内外に広くアピールする格好の機会といえる。

小池都知事は「サステナブルな次世代都市へと発展しつつある臨海エリアでフォーミュラEを開催することで、ゼロエミッションビークル(ZEV)の普及に弾みをつけたい。同時に、東京の魅力を世界に発信し、国際的なプレゼンスを高める絶好の機会ともなる」と話す。

東京都はフォーミュラE東京大会の開催に合わせて「TOKYO ZEV ACTION」と銘打ったキャンペーンを展開中。7月2日には、東京・丸の内の行幸通りにレース車両を展示し、家族で楽しめるキックオフイベントを開催した。

2020年9月、島根県江津(ごうつ)市でJR江津駅前の国道・県道・市道に特設コース(1周783m)をつくり、カートレースが開催された。これが日本で初めての市街地レースとされるが、本格的市街地レースの開催はフォーミュラE東京大会が初となる。

日本で初めて公道で行われたカートレースで、市街地コースを疾走する選手たち(2020年9月20日、島根県江津市=A1市街地レースクラブ事務局提供)時事
日本で初めて公道で行われたカートレースで、市街地コースを疾走する選手たち(2020年9月20日、島根県江津市=A1市街地レースクラブ事務局提供)時事

臨海エリアに設けられる公道コースの詳細(場所やレイアウト)についてはまだ公表されていないが、東京オリンピック・パラリンピックのプレスセンターとなった東京ビッグサイトの周辺に、全長3kmほどの周回コースをつくるという。

フォーミュラE東京大会の会場となる江東区臨海エリア。東京ビッグサイト周辺の公道を閉鎖してレースを行う PIXTA
フォーミュラE東京大会の会場となる江東区臨海エリア。東京ビッグサイト周辺の公道を閉鎖してレースを行う PIXTA

大都市開催でF1との差別化を図る

それでは、フォーミュラEの魅力とは何か。

「電気自動車のF1」と称されるものの、F1のような“迫力”を期待すると拍子抜けするかもしれない。モータースポーツの醍醐味ともいえるエンジンサウンドはなく、代わりにマシンから発せられるのは「キュイーン」というモーター音とタイヤのノイズ。このため「巨大なラジコンカーレース」と評する人もいる。

レースに注がれる予算も桁違いに少ない。F1のトップチーム、レッドブル・レーシングの公式ホームページによると、フォーミュラEの1チームの年間平均予算は1300万ユーロ(約20億3000万円)。一方、F1のビッグチームの年間予算は10倍以上の1億4500万ユーロ(約226億2000万円)に上る。

世界最速を目指してお金と技術を惜しみなく注ぎ込むF1とはそもそもコンセプト自体が異なるのだ。

「音が小さい」ことは、裏返せば、郊外のサーキットではなく都心部で、さらに夜間でもレースが開催しやすいというメリットを生む。実際、ローマ、ニューヨーク、ロンドン、パリといった大都市の市街地で開催されており、FIAはF1との差別化を打ち出すことで共存共栄を図ろうとしている。

最高速は300km/hを突破、レース中の急速充電も導入へ

F1が金曜から日曜まで3日間にわたって行われるのに対し、フォーミュラEは土曜1日だけで練習走行・予選・決勝のすべてを行う。マシンの最高出力は350キロワット(約470馬力、F1は800馬力超)。昨シーズンまでの250キロワットから大幅にパワーアップされ、最高速はF1の350km/h超には及ばないものの320km/hに達する。

ハード・ミディアム・ソフト・雨用など計7種類ものタイヤが用意されているF1に対し、フォーミュラEは1種類だけで、レース中のタイヤ交換は禁じられている。

また、これまでレース中の充電は禁止されていたが、ピットイン時に30秒間で4キロワットの電力を急速充電できるシステムを開発し、2024年からの導入を目指している。

東京大会では、首都圏の物流拠点でもある臨海エリアをどのような形で閉鎖し、メインストレートに加えてシケインやヘアピンカーブといったテクニカルなレイアウトを設計できるかが課題といえそうだ。

エスケープゾーン(コース脇の退避スペース)確保などの安全対策や仮設観客席の設置、さらには22台の出場マシンを一気に充電するインフラの整備など、通常のサーキットレースにはない運営面での難しさもあるが、それでもウォーターフロントを200km/h超のスピードでマシンが駆け抜ける光景は壮観だろう。交通アクセスの良さ(新橋駅からゆりかもめで22分、大崎駅からりんかい線で14分)も観客にとってうれしいところだ。

パリ大会でのパドックの光景。フォーミュラEは電気自動車の普及促進のため、あえてパリやロンドン、ローマといった世界的観光地でレースを開催する戦略をとっている ©Federico Pestellini/Panoramic
パリ大会でのパドックの光景。フォーミュラEは電気自動車の普及促進のため、あえてパリやロンドン、ローマといった世界的観光地でレースを開催する戦略をとっている ©Federico Pestellini/Panoramic

◆2024年シーズン フォーミュラE暫定カレンダー◆

1月13日:メキシコシティ(メキシコ)

1月26・27日:リヤド(サウジアラビア)

2月10日:開催地未定

2月24日:開催地未定

3月16日:サンパウロ(ブラジル)

3月30日:東京(日本)

4月13・14日:ローマ(イタリア)

4月27日:モンテカルロ(モナコ)

5月11・12日:ベルリン(ドイツ)

5月25日:開催地未定

6月8日:ジャカルタ(インドネシア)

6月29日:ポートランド(米国)

7月20日・21日:ロンドン(英国)

バナー写真:パリのエッフェル塔近くを駆け抜けるフォーミュラEのマシン(2019年4月28日、パリ) ロイター

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