ニュースで振り返る2022年の日本

社会

2月のロシアによるウクライナ侵攻、8月のペロシ米下院議長の台湾訪問に端を発した中国の大規模軍事演習実施など、日本周辺の安全保障環境が悪化の一途をたどった2022年。国内では安倍晋三元首相が凶弾に倒れ、世界平和統一家庭連合(旧統一教会)の問題が社会の強い関心を集めた。円安進行と物価上昇の1年でもあった。

【新型コロナウイルスをめぐる動向】

感染拡大は年明けから3月にかけての「第6波」、7月から9月の「第7波」、10月からの「第8波」と断続的に続いた。「第6波」ではオミクロン株の感染が急拡大し、2月初めには1日の全国の新規感染者が初めて10万人を突破。政府は1月9日から3月21日まで「まん延防止等重点措置」を適用した。「第7波」は1日当たりの新規感染者数が20万人を超える日もあった。「第8波」でも感染者数は徐々に増え、12月21日には全国で20万人を超えた。12月30日までの国内の新型コロナ感染者数は累計で2900万人余り、死亡者は約5万6000人。

政府は5月20日、マスク着用について、屋外でほとんど会話をしない場合は「必要ない」とする見解を示した。

感染拡大で停止していた海外からの観光客受け入れが、6月に団体ツアーに限って解禁。9月には入国者数の上限が1日当たり2万人から5万人に引き上げられた。10月には入国者数の上限を撤廃したほか、個人の外国人旅行客の入国も解禁。観光需要の喚起策「全国旅行支援」も始まった。

厚生労働省は11月22日、塩野義製薬の新型コロナウイルスの飲み薬「ゾコーバ」を緊急承認。国産のコロナ飲み薬の実用化は初めて。

【安倍元首相銃撃事件と旧統一教会問題】

奈良市の近鉄大和西大寺駅前で7月8日、参院選の応援演説をしていた安倍晋三元首相が、背後から銃撃を受け、大量失血により死亡した。同市に住む元海上自衛隊員の山上徹也容疑者(42)が逮捕・送検され、刑事責任能力の有無を調べるため鑑定留置されている。同容疑者は母親が入信し、多額の献金をしていた世界平和統一家庭連合(旧統一教会)への恨みを募らせ、「安倍元首相とつながりがあると思い犯行に及んだ」などと供述した。

事件を受け、「政治と宗教」のつながりや、同教団の高額献金や霊感商法、「2世信者」をめぐる問題が大きな注目を集めた。自民党は9月8日、所属国会議員179人に旧統一教会側と何らかの接点が確認されたと明らかにした。

岸田文雄首相は10月17日、宗教法人法に基づき同教団を調査するよう指示。文部科学省は11月22日、同法に基づく「質問権」を行使し、教団の組織運営や収支などについて報告を求めた。また、12月10日にはこの問題をめぐる「被害者救済法」が国会で可決、成立。同法では寄付勧誘を行う際の「配慮義務」として3項目、「禁止行為」として6項目を制定したほか、借り入れや財産処分による寄付を要求することを禁止した。

【政治】

ハイテク技術をめぐる米中対立の激化や、新型コロナウイルスの感染拡大で半導体の調達が一時困難になったことなどを受け、政府が提出した経済安全保障推進法が5月11日、国会で可決、成立した。重要物資の供給網強化、インフラの安全確保、特許の非公開化、先端技術の研究開発推進という4つの柱について法整備を進めた。

参議院選挙の投開票が7月10日にあり、自民党が改選125議席のうち63議席を獲得して大勝。自民、公明、維新、国民民主党を合わせた改憲勢力が、参議院の3分の2を上回った。8月10日には第2次岸田改造内閣が発足。松野博一官房長官、鈴木俊一財務相、林芳正外務相らの重要閣僚を留任させたほか、高市早苗氏を経済安全保障相に、河野太郎氏をデジタル相で入閣させた。

政府は7月22日、安倍晋三元首相の国葬開催を閣議決定。9月27日に東京・日本武道館で国内外から4000人以上が参列して執り行われた。世論調査などでは、自民党議員と旧統一教会の関係がメディア報道などで次々と明らかになったことで、「国葬反対」の声が多くなっていった。

臨時国会開会中の10月24日、旧統一教会との関係が指摘されていた山際大志郎経済再生担当相が辞任。11月11日には、死刑執行を命じる役職を「地味」と発言した葉梨康弘法相が辞任。さらに同20日には、政治資金をめぐる問題が相次いで発覚した寺田稔総務相が辞任した。この「辞任ドミノ」で、内閣支持率は30%前後まで急落した。

北朝鮮の相次ぐミサイル発射や、「台湾有事」対応への必要性が叫ばれる中、岸田首相は12月、2023年度以降の5年間で防衛費の総額を43兆円とするよう指示した。これまで国内総生産(GDP)1%程度の年5兆円台だった防衛費は、27年度には北大西洋条約機構(NATO)諸国並みの2%に達する見通し。

【外交】

2月24日、ロシアがウクライナへ軍事侵攻を開始。政府は米国、欧州連合(EU)諸国とともに▽プーチン大統領ほかロシア政府関係者・団体に対する資産凍結▽木材やウオッカなどの輸入禁止▽関税の優遇税率撤回―などの経済制裁を実施。ウクライナからの避難民受け入れも進めた。ロシア外務省は3月22日、北方領土問題を含む平和条約交渉を停止すると発表した。

5月に米国のバイデン大統領が来日し、23日に東京で日米首脳会談。同日は米主導の新たな経済圏構想「インド太平洋経済枠組み(IPEF)」の発足式が行われたほか、24日には日米豪印の協力枠組み「クアッド」首脳会合が開催された。

会談する岸田文雄首相(右)とバイデン米大統領=2022年5月23日、東京・元赤坂の迎賓館(時事)
会談する岸田文雄首相(右)とバイデン米大統領=2022年5月23日、東京・元赤坂の迎賓館(時事)

岸田首相は6月29日、スペイン・マドリードでの北大西洋条約機構(NATO)首脳会議に合わせ、バイデン米統領、尹錫悦(ユン・ソンニョル)韓国大統領との3カ国首脳会談を行った。11月13日にはカンボジアで尹大統領と会談。元徴用工問題の早期解決を目指す方針で一致した。日韓首脳の正式な対面での会談は約3年ぶり。

日米両政府は7月29日、米ワシントンで経済版の閣僚協議「2プラス2」の初会合を開き、覇権主義的な動きを強める中国やロシアを念頭に、「ルールに基づく国際経済秩序」を主導すると明記した共同声明を採択した。日本からは林芳正外相と萩生田光一経済産業相が出席。

11月17日 岸田文雄首相はタイで、中国の習近平国家主席と会談した。対面の日中首脳会談は3年ぶり。関係改善に向けて、あらゆるレベルで緊密に意思疎通する方針で一致した。

【経済】

2022年の景気は、新型コロナウイルスの感染拡大でこれまで抑え込まれてきた経済活動が正常化に向かい、穏やかな持ち直し傾向が見られた。1~3月期の国内総生産(GDP)改定値は物価変動を除いた実質で前期比0.1%減、年率換算では0.5%減。4~6月期の改定値は同0.9%増、年率3.5%増。7~9月期改定値は前期比0.2%減、年率換算で0.8%減だった。7~9月期は第7波とされる感染拡大期に当たり、個人消費のうち外食やサービス消費などが伸び悩んだ。

3月に成立した22年度政府予算は、一般会計総額が107兆5964億円と過去最大。5月末には物価高騰を受けた「総合緊急対策」を盛り込み、一般会計総額2兆7009億円の補正予算が成立した。

米欧の相次ぐ利上げを受け、外国為替市場の円相場は円安が加速。6月には1ドル=135円台、9月には140円台となり、政府・日銀は同22日、ドル売り円買いの市場介入を24年3カ月ぶりに実施した。10月20日には東京外国為替市場で一時1ドル=150円09銭と、1990年8月以来、約32年ぶりの安値水準となった。

1ドル= 150円台前半に下落した円相場を示すモニター=2022年10月21日午前、東京都港区の外為どっとコム(時事)
1ドル= 150円台前半に下落した円相場を示すモニター=2022年10月21日午前、東京都港区の外為どっとコム(時事)

東京株式市場は、日経平均が年明け2万9000円台の水準で始まり、ほぼ2万6000円台から2万8000円台の間で浮き沈みを繰り返した。

ロシアのウクライナ侵攻によるエネルギー、穀物価格の高騰に加え、円安の影響で2022年は物価が大きく上昇した。総務省が12月23日に発表した11月全国消費者物価指数は、価格変動の大きい生鮮食品を除く総合指数が前年同月比3.7%上昇。1981年12月以来40年11カ月ぶりの伸び率となった。

日銀は12月20日、現在の大規模な金融緩和策を一部修正し、長期金利の上昇を認める上限を従来の0.25%から0.5%に引き上げた。金融市場ではこれを受け、長期金利が急騰。事実上の利上げだとの受け止めが広がった。

トヨタ自動車やNTT、NECなど国内の大手企業8社が11月11日、次世代半導体の国産化を目指す新会社「Rapidus(ラピダス)」の設立を発表。ラピダスは12月6日にベルギーの半導体国際研究機関「imec(アイメック)」と協力覚書を締結したほか、13日には米IBMとの提携を発表した。

【社会】

東京地検特捜部は7月26日、電通の元専務で、東京五輪・パラリンピック組織委員会の高橋治之元理事が大会スポンサーだった紳士服大手のAOKIホールディングスから多額の資金提供を受けた疑惑で高橋元理事の自宅などを家宅捜索。8月17日に、5100万円の賄賂を受け取ったとして高橋容疑者を受託収賄容疑で逮捕した。9月には出版大手「KADOKAWA」の会長・角川歴彦容疑者を贈賄容疑で逮捕。捜査はその後、「大広」「ADKホールディングス」という広告大手にも広がり、高橋元理事の起訴は4回に及んだ。賄賂とされた総額は約2億円。

4月23日、北海道・知床半島沖を航行していた観光船「KAZU1(カズワン)」(19トン)が、「浸水している」と第1管区海上保安本部(小樽市)に救助要請した後に消息を絶った。海保は同29日、水深120メートルの海底で沈没した同船を発見したと発表。子どもを含む乗客乗員26人が乗っていたが、全員が死亡・行方不明となった。同船は、斜里町の有限会社知床遊覧船が所有・運航。国の運輸安全委員会は12月、▽船前方のハッチのふたが十分に閉まっていない状態で運航し、そこから海水が流入した▽事故当日に出航を決めた判断にも問題があった―などとする報告書を公表した。

観光船「KAZU1」船内での行方不明者捜索に臨む海上保安庁の特殊救難隊員ら(左下)=2022年5月28日、北海道網走市(時事)
観光船「KAZU1」船内での行方不明者捜索に臨む海上保安庁の特殊救難隊員ら(左下)=2022年5月28日、北海道網走市(時事)

【科学・技術】

岸田首相は7月14日、電力不足解消に向け、原子力発電所を今冬に最大で9基まで稼働させる方針を表明。12月22日には首相官邸で開いた「グリーントランスフォーメーション(GX)実行会議」で、原発の新設は想定しないとされてきた国の従来方針を転換し、次世代型原発の開発・建設を進める政府の基本方針を取りまとめた。 

【文化】

3月27日、第94回米アカデミー賞の国際長編映画賞に、濱口竜介監督(43)の「ドライブ・マイ・カー」が選ばれた。村上春樹の短編小説を原作の一部とした作品。

国連教育科学文化機関(ユネスコ)は11月30日、盆踊りや念仏踊り、太鼓踊りなどおはやしに合わせて踊る日本の民俗芸能「風流踊」を無形文化遺産に登録することを決めた。

バナー写真:参院選公示日に、自民党候補(右端)の応援演説をする安倍晋三元首相(左から2人目)=2022年6月22日、東京・JR新宿駅前(時事)

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