パレスチナ駐日大使インタビュー:日本に求める役割
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対立再燃
5月初旬から続いたイスラエルとパレスチナの武力衝突は、5月21日に停戦を迎えたが、衝突は過去に何度も起こっている。駐日パレスチナ代表部のワリード・シアム大使は、「問題の根底にあるのは、イスラエルが73年間、パレスチナの領土である東エルサレム、ヨルダン川西岸地区、ガザ地区を占領していることだ。この状況はわれわれの生活に影響を及ぼすだけでなく、命までも支配している」と語る。今回の衝突の背景には、イスラエルが国際法に違反して、長年、パレスチナ人居住地に住宅建設を続けていること、また、東エルサレムのシェイク・ジャラ地区に住むパレスチナ人に対して、イスラエル最高裁が立ち退きを命じるなど、パレスチナとイスラエルの緊張が高まる状況下であったことを大使は指摘する。
パレスチナ人の抗議が暴動に発展し、イスラム組織ハマスがイスラエル領にロケット弾を発射してから、軍事衝突がエスカレートしていった。停戦に至るまで、イスラエルでは主にロケット弾により13人が死亡。一方、パレスチナ側の死者は200人以上、負傷者は約2000人に上る。
シアム大使は今回の衝突を、平等な立場にある双方が武力衝突したと見ることに異論を唱える。「世間的に、中でもメディアは特に、イスラエルとパレスチナを対等な関係と捉えるが、弾圧している側とされている側を同じ天びんにかけるのは間違っている」
さらに大使はイスラエルの内政が今回の問題の一つとし、「ネタニヤフ首相は4度目の選挙後、連立交渉に失敗して新内閣を組閣できない状況だ。パレスチナを攻撃することで極右勢力の支持を取りつける狙いがある」と指摘する。
トランプ前米大統領政権は、親イスラエルの立場を前面に押し出した。バイデン政権についてシアム大使は「新政権になっても中東政策に関して大きな違いはない。米大統領は衝突を平和裏に終結させようとするのではなく、単に対処するだけだ」と批判する。
日本が国際社会で果たす役割
5月14日、シアム大使は日本外国特派員協会で会見し、イスラエルを「アパルトヘイト国家」と非難。一方、在日イスラエル大使館のイスラエル・ストゥルロブ臨時代理大使も同じ場所で、時間をずらして会見した。ハマスを過激派テロ組織と呼び、「10日に民間人を標的にイスラエル全土を無差別に攻撃した」と述べた。さらに、ハマスはすでに1600発ものロケットを発射しており、ソーシャルメディアを通じ、武器をとってイスラエルを攻撃するようにパレスチナ人を扇動している、と非難した。
パレスチナもイスラエルも日本のメディアや世論に訴えているが、単に支持を得るためだけではない。あらゆる点で日本からの援助を強化したいためだ。シアム大使は「日本が、紛争解決のために国際社会で重要な役割を果たしてくれることを強く信じている。パレスチナにとって日本は最も信頼のおける友人の一人であり、イスラエルからの信頼も厚い国だ」と語る。1950年代から日本はイスラエルに対して手厚い援助を続けてきたが、同時にパレスチナ問題の重要性も認識し、パレスチナ人の人権に関する国連決議に、日本が賛成票を投じたほか、インフラの建設や人間の安全保障推進といった国際支援をしてきたことについても言及した。
日本への期待
「私たちには支援が必要であり、パレスチナ人への教育、日本企業による技術移転も必要だ。パレスチナに対してテロリストのレッテルを貼る人がいるかもしれないが、私たちは長い歴史を持つ民族である。1万年前、パレスチナの古都エリコに私たちの祖先は生活していた。パレスチナ人の人間としての一面を見て欲しい」と大使は言う。そしてインタビューの最後には、駐日パレスチナ代表部のこれまでの活動について語った。オンラインでパレスチナ料理について紹介したり、音楽や映画イベント、バザーを開催したりして、日本の一般市民と交流をしてきた。
「日本のパレスチナに対する援助は、病院や教育施設、文化施設への資金援助など、これまで総額18億ドルを超える。他のどの国よりも援助してくれた」さらに、エジプト、ヨルダン、レバノン、シリアなど、パレスチナ以外のアラブ諸国に対する日本の援助に対しても感謝の意を述べた。「しかし、このような事実は日本国内でも世界でも、十分に伝わっていない。日本人のアピールが不足しているからだ。もっとプロモーションに日本はお金をかけるべきです」
慎重に時間をかけて物事を進めるため、日本は文化輸出に時間がかかるとシアム大使は指摘する。「アラブ諸国の映画やテレビでは、韓国が日本に大差をつけて、人気を博している。日本は自分たちのコンテンツを外国に広めるのに時間がかかり過ぎます」
シアム大使はこう提案する。「アラブ世界で起こっていることは、遠い場所で起きていること、という意識を変えることが必要です。地理的にアラブ諸国と日本は、アラブ諸国とアメリカよりも近いのです。そして、自信を持って、アラブ世界に対して、『私たち日本はアラブの良き友人です』と伝えてください」
最後に大使は、「日本は困っているときこそ、常に寄り添ってくれる友人」と締めくくった。
(原文英語。2021年5月18日のインタビューを元に作成。バナー写真:パレスチナ自治区ガザ地区で、5月15日、アルジャジーラやAP通信が入居するビルがイスラエル軍により空爆され倒壊した。AFP=時事)