カジノなどの「IR」汚職事件で秋元議員逮捕:中国企業からの収賄容疑、異例の年末捜査
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日本は「カジノ最後の大市場」
IRは国際会議場、劇場、ホテル、商業施設などにカジノが一体となった施設で、訪日外国人客を集める国際的な観光拠点を目指す。
特に関心を集めているのが、日本の国内法で禁止されてきたカジノだ。2016年に成立した「IR推進法」は「カジノ法」とも言われ、この法律でカジノ解禁の流れが確実になった。そして18年、カジノは当面、全国3カ所にして、日本人の入場料は1回6000円とするなどの内容を盛り込んだ「IR実施法」が、自民党、公明党、日本維新の会などの賛成で成立。カジノ事業者は収益の15%ずつを国と地元の自治体に納めることになっており、税収増を期待する多くの自治体が誘致に名乗りを上げている。
国際的にも日本が経済大国の中で数少ないカジノの空白地帯で、大きな利益が見込める「最後の大市場」であることから、中国以外にも参入をもくろむ他国の業者が少なくない。日本のIRが生む巨大な利権が、今回の事件の背景となったのだ。
現職の副大臣として17年に中国企業訪問
日本の主要メディアが一斉に報じたところによると、収賄容疑で逮捕された秋元議員に現金300万円などを渡した中国企業は深圳に本社があり、現地でオンラインくじ、スポーツくじなどを行っている「500ドットコム」。同社顧問や、日本法人の元役員ら3人が贈賄容疑で特捜部に逮捕された。
秋元議員はIR担当の副大臣だった2017年12月、他の国会議員らと深圳の同社本社を訪れている。翌18年2月には、同社がIRの候補地と見込んで工作をしていた疑いの強い北海道留寿都(るすつ)村を、秋元氏が家族連れで訪問。村幹部や同社関係者と会食するなど、深い付き合いを続けていた。
特捜部が今回の事件着手で使ったのは外為法違反だった。中国企業が法定の上限(100万円)を超える現金を、無届けで日本に持ち込んだ容疑だ。単なる届け出義務違反で、こうした犯罪は「形式犯」と言われ、比較的、刑の軽いものが多い。政界捜査を行う東京地検特捜部は、あまり形式犯の捜査をしない。
政界汚職事件で外為法違反を突破口にしたことで知られるのは、米国の旅客機受注を巡って田中角栄元首相が逮捕され「総理の犯罪」といわれたロッキード事件だ。1976年に首相経験者を外為法違反で逮捕した時は、検察が批判された。この事件の主任検事で「特捜の鬼」と呼ばれた吉永祐介氏(後に検事総長、2013年死去)から、一審(東京地裁)で田中元首相に収賄罪などで実刑判決が出てから1カ月後(1983年秋)に、筆者は元首相逮捕の話を聞いたことがある。
吉永氏は「元首相を外為法違反で逮捕するなんて、とあちこちで言われ、怒られたこともあったよ」と笑いながら、こう語った。「アメリカから持ち込まれた5億円が賄賂となって、贈収賄事件になるのは読めていたが、捜査には順番があるから、最初に外為法違反で逮捕したまで。もちろん、外為法違反だけで終わる事件なら、特捜はやらなかった。特捜が政治家を逮捕する時は、相手が全面否認することを前提に、事前に十分な証拠を集め、取り調べるだけだ」
今回の事件も、中国企業「500ドットコム」からどのくらいの現金などが持ち込まれたかが、捜査の重要なポイントになってくる。
不逮捕特権のすき間で異例の年末捜査
今回は異例の年末捜査となった。筆者が取材した特捜部による12月の捜査に、東京芸大音楽学部教授で、日本を代表するバイオリニストが逮捕された「東京芸大バイオリン事件」(1981年)がある。この時は12月8日に教授を逮捕し、仕事納めの同28日に受託収賄罪で起訴。この日に教授も保釈となり、捜査を終えた。
当時の特捜幹部がこんなことを言っていた。「特捜検事も人の子。正月ぐらいは休みたいし、取り調べを終えた被告は粗暴犯でないなら、家に帰してやりたい。芸大事件は『仕事納めの日に区切りがつくように計算して教授の逮捕日を決めた』と言ってもウソじゃない」
だが、今回、特捜は正月休み返上の態勢で年末捜査を続けた。臨時国会が12月9日に閉会。この前後に秋元議員本人や秘書ら関係者の事情聴取が行われ、同19日に秋元議員の衆院第1議員会館事務所や、東京都江東区の地元事務所の家宅捜査が行われた。
年末捜査となった理由は、国会議員には憲法50条で定められた「国会の会期中は逮捕されない」という不逮捕特権があるからだ。年明けの2020年1月20日には通常国会が召集予定なので、そのすき間を縫っての逮捕を東京地検は強いられたのだ。
日産のカルロス・ゴーン会長事件などを手掛けた森本宏・現特捜部長は、最近では珍しい任期3年目に入った。かつては「巨悪を眠らせるな」と検事総長(特捜出身の伊藤栄樹氏、1988年死去)から訓示されたこともある特捜部だが、国会議員の逮捕は10年ぶりで、久々の政界汚職捜査となる。
特捜事件と消費税のジンクス
「消費税に触ると政界事件が起きる」。特捜部が政界を捜査する事件と、消費税や皇室のお代替わりに妙なジンクスがあるという。30年前の1989年1月、平成と改元され、4月に消費税(3%)が導入された。その2カ月後に、リクルート事件で竹下内閣が倒れた。この事件では元官房長官らが起訴された。
2019年の5月、令和と改元され、10月に消費税が10%にアップした。そして2カ月後、今回のIR事件が起きた。
今回の事件が秋元議員の逮捕にとどまらず、さらに“大物”に拡大していくのか、IR誘致に関係する他の政治家などに飛び火していくのか。多くの国民が見守っている。
バナー写真:秋の臨時国会閉会日の衆院本会議に臨む自民党の秋元司議員(中央)=2019年12月9日、国会内(時事)