3400×1480mmの小宇宙 日本独自規格の軽トラックに秘められた大きな魅力

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日本には「軽自動車」という独自の車文化がある。サイズは全長3400×全幅1480×全高2000ミリメートル以下、排気量は660cc以下に規定された国産車の最小カテゴリーだ。中でも、長年日本人の生活を支え、根付いてきたのが、軽自動車規格の貨物車「軽トラック」だ。アウトドアなど趣味のツールとしても世界的に注目される通称「軽トラ」の魅力や楽しみ方を解説する。

日本の生活に根付く「軽トラ」

2人用乗車スペースの後方に大きな荷台を装備した軽トラックは、農業や漁業をはじめ、造園業、建設業、酒店、バイク店など、さまざまな業種のビジネスカーとして活躍している。狭い道も気軽に走れるミニマムサイズでありながら、後部の荷台は驚くほどの広さ!

軽トラックの代表的車種のひとつ、ダイハツ・ハイゼットトラック。排気量は660cc以下、最大積載量は350kgに規定されている ©DAIHATSU
軽トラックの代表的車種のひとつ、ダイハツ・ハイゼットトラック。排気量は660cc以下、最大積載量は350kgに規定されている ©DAIHATSU

農作業コンテナやビールケースなどの箱物を大量に積み込めるだけでなく、角材や板材などの長尺物やバイクを運ぶことも可能。軽自動車規格なので税金や保険、高速道路料金、消耗品などのランニングコストが安く、経済的メリットも大きい。実用性の高さが「軽トラ」と呼ばれて親しまれてきた理由だ。

軽トラックは農業や漁業などのさまざまな仕事に欠かせない実用車だ(PIXTA)
軽トラックは農業や漁業などのさまざまな仕事に欠かせない実用車だ(PIXTA)

軽トラックの実用性の高さを示す例をひとつ挙げてみよう。今、日本で国内モデルとして販売されているピックアップトラックの代表格はトヨタ・ハイラックスだが、実は巨大なボディーを持つハイラックスよりも軽トラックの方が広い荷台を有している。

ハイラックスは全長5340×全幅1855ミリメートル。軽トラックは全長3400×全幅1480ミリメートル以下なので、全長は軽トラの約1.6倍もある。しかし、荷台フロア長はハイラックスの1565ミリメートルに対し、軽トラックが2030ミリメートルと圧倒的に長い。荷台幅もハイラックスの1380ミリメートル(開口部)に対し、1410ミリメートルとなる。いかに軽トラックの荷台が空間効率に優れ、実用的であるか理解できるだろう。

ここ数年、米国やオーストラリアでも日本の軽トラックが「Kei Truck」「Mini Truck」と愛称で呼ばれ、ブームになっている。他国にはないミニマムなパッケージによる機動性と経済性、そして日本車ならではの作りの良さが支持され、牧場や農場などの広大な敷地で「小回りが利く経済的な実用車」として活用されている。

近年の注目度の高さを示すデータがある。警察庁が2024年3月1日に発表した「車名別盗難台数の状況」によって、軽トラックの盗難数が前年よりも大幅に増えていることが判明した。トヨタ・アルファードやランドクルーザーなどが居並ぶ上位10車種のなかに、軽トラックは6位にスズキ・キャリー、7位にダイハツ・ハイゼットがランクインした。不名誉なランキングとはいえ、背景には北米やオーストラリアでの軽トラック人気の高まりがあるとされる。

さらに、日本車のカスタマイズを好む愛好家からは「日本を象徴するCOOLなカーカルチャー」としても人気を集めている。

レジャーでも活躍 無限の可能性

今、日本での軽自動車の使われ方に変化が起きている。圧倒的な実用性で日本人の生活を支えてきたが、近年は若いユーザーを中心に釣りやキャンプなどのアウトドアレジャーに活用するケースが増えているのだ。自動車メーカーから、ドレスアップした特別仕様車がラインアップされているほか、パートタイム(切り替え式)4WDや左右車輪の回転差を固定するデフロック機能で悪路走破性を向上した「農業用グレード」が選べる など、バリエーションも豊富だ。

最小カテゴリーの実用車でありながら、タイヤ&ホイール、マフラー、サスペンション、エアロパーツなどの社外パーツも多く、自由にカスタマイズを楽しむこともできる。

装飾用の専用デカールと各部のブラックアウト塗装で精悍(せいかん)な印象を演出したスズキ・スーパーキャリイ特別仕様車「Xリミテッド」。軽トラック人気を受けて発売された、いわばメーカーカスタム車両だ ©SUZUKI
装飾用の専用デカールと各部のブラックアウト塗装で精悍(せいかん)な印象を演出したスズキ・スーパーキャリイ特別仕様車「Xリミテッド」。軽トラック人気を受けて発売された、いわばメーカーカスタム車両だ ©SUZUKI

趣味のツールとして世界的に大人気の軽トラック。使い方や遊び方、カスタマイズにおいても、発祥の地の日本が世界をリードする。軽トラックの荷台を駆使した日本独自のカスタムスタイルを紹介していこう。

アウトドアで人気 リフトアップ

4WDカスタムショップ「4×4プレゼンツ」が手がけたリフトアップ仕様のスズキ・キャリイ ©4×4Presents
4WDカスタムショップ「4×4プレゼンツ」が手がけたリフトアップ仕様のスズキ・キャリイ ©4×4Presents

ここ数年のアウトドアブームに伴って、軽トラックをレジャーカーとして活用するユーザーが増加している。そうしたスタイルの最先端が、軽トラックの小さなボディーにクロスカントリー4WDのテイストを落とし込んだリフトアップ仕様だ。

足回りにリフトアップサスペンションを組み込んで車高を上げ、大径のオフロードタイヤで悪路走破性を向上。ガード類やLEDライトバーなどのオフロード系パーツで、ワイルドイメージを強調するのも定番のカスタマイズだ。海外のトラックフリークが喜びそうなキュートでクールな外見と、荷台に遊びのギアを満載して自在に駆け回れる走破性で、軽トラックの魅力を極限まで引き出している。

荷台にテント風ほろ アウトドア仕様

ほろの内部が積載用にも生活用にも使え、気軽にアウトドアを楽しめる「Bug-truck(バグトラック)」 ©CAR FACTORY TERBOW
ほろの内部が積載用にも生活用にも使え、気軽にアウトドアを楽しめる「Bug-truck(バグトラック)」 ©CAR FACTORY TERBOW

軽トラックを活用したレジャーとして注目を集めているのが、荷台に多機能テントキットを搭載した青森県の車販売会社「カーファクトリーターボー」の「Bug-truck(バグトラック)」だ。荷台にほろをまとった姿が昆虫(Bug)に似ていることから名づけられた。

分割式フレームを荷台に付け、その上からテント風のほろをかぶせると、軽トラの荷台がプライベートな居住空間に早変わりする。

サーフィンや釣り、キャンプなどのアウトドアレジャーも快適そのもの。テント風のほろは、丈夫なクラフテル帆布を職人が丁寧に縫製したハンドメイド。リフトアップキットやガード類、ルーフラックなどを組み合わせれば、ワイルドなオフロードスタイルも演出できる。感度の高いアウトドアフリークに最適なスタイルだ。

ぜいたくに国産ひのき 山小屋風空間

配送用パネルバンの荷室をウッドで架装して居住空間に仕上げた「クォッカ」 ©三島ダイハツ
配送用パネルバンの荷室をウッドで架装して居住空間に仕上げた「クォッカ」 ©三島ダイハツ

富士ひのきを使用した山小屋風の空間でリラックスして過ごせる 写真:岩田一成
富士ひのきを使用した山小屋風の空間でリラックスして過ごせる 写真:岩田一成

日本のキャンピングカー市場では、ベース車両に軽トラックを用いたコンパクトモデルが数多くリリースされている。中でも独創的な作りで注目を集めているのが、静岡県のディーラー「三島ダイハツ」が製造・販売するオリジナル軽キャンパー「クォッカ」だ。

ベース車両は、後部にパネル構造のボックス型荷室を装備したダイハツ・ハイゼットパネルバン。上下2分割のバックドアと両側スライドドアを備えた荷室を生かし、内部をキャンピングカー仕様にしている。

最大の特徴は、静岡県産「富士ひのき」のムク材をぜいたくに使用したオールウッドの山小屋風内装。木のぬくもりが感じられる室内は、4個の木製ボックスの配置を変えることでベッドモードやお座敷モードに変更できる。オプションのDC12Vクーラーやリチウムイオンバッテリーを組み合わせて、快適性をグレードアップすることも可能だ。

北米スタイル ミニマムなトラックキャンパー

軽トラックの荷台に脱着式シェルを搭載した小型トラックキャンパー「ミニポップ・パラキート」 ©MYS MYSTIC
軽トラックの荷台に脱着式シェルを搭載した小型トラックキャンパー「ミニポップ・パラキート」 ©MYS MYSTIC

ウッド調でコーディネートされた室内には大人3名分のベッドスペースも確保 写真:岩田一成
ウッド調でコーディネートされた室内には大人3名分のベッドスペースも確保 写真:岩田一成

軽トラックの荷台にオリジナルのキャンピングシェル(居住スペース)を積載した「ミニポップ・パラキート」は、山梨県のトラックキャンパー専門店「MYSミスティック」が販売するキャンピングカー。本格キャンピングカーに匹敵する居住性と快適性、オーバーランドテイスト漂うワイルドなアメリカンデザインが魅力だ。

外壁にアルミ外装材を用いた水平ポップアップ式シェルは、まさに本場北米のトラックキャンパーのミニマム版!

着脱式シェルを降ろせば軽トラック、積載すればキャンピングカーと、2通りの使い方ができる。シェル内部には、3人分のベッドやダイニング、本格キッチンも完備。リチウムイオンバッテリーやクーラー、燃焼式ヒーター、冷蔵庫などオプションもそろっている。

荷台にDIYシェル モバイルハウス

ユーチューバー「ケンキャン」さんのモバイルハウス。童話の世界から飛び出したような独創的なデザインが特徴だ 写真:渡辺圭史
ユーチューバー「ケンキャン」さんのモバイルハウス。童話の世界から飛び出したような独創的なデザインが特徴だ 写真:渡辺圭史

オーナーがDIYで製作したキャンピングシェルを軽トラックの荷台に積載するスタイルも、車中泊マニアの間で静かなブームになっている。

こうした車両は「モバイルハウス」「トラベルハウス」と呼ばれ、生活空間となる軽量シェルを荷台に積載し、軽トラックの機動力を生かしながら自由気ままに旅をするのが定番。市販のキャンピングカーとは比べ物にならないほど低価格で、好みの内外装に仕上げられる。海外のバンライフにも通じる日本独自の文化が、軽トラックを中心に生まれている。

日本が誇るカーカルチャー

実用車として、日本人の生活に根付いてきた軽トラック。用途はビジネスからアウトドアレジャーまで広がり、若者を中心とした多くのユーザーから「日本が誇るカーカルチャー」として認知されつつある。わずか3400×1480×2000ミリメートルのボディーには、仕事からホビーまで幅広いシーンで活躍する無限の可能性が詰まっているのだ。

バナー写真:荷台に多機能テントキットを装備したカーファクトリーターボーの「Bug-truck(バグトラック)」 ©CAR FACTORY TERBOW

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