
「大河の一滴」から880トンのデブリ取り出しに挑む―東電福島第1原発 : 2号機と同型の5号機内部を取材
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東京電力は2024年11月、2号機から約0.7グラムの燃料デブリの試験的取り出しに初めて成功した。当初は、21年に実施する計画だったが、装置開発や準備作業などに時間を要し、3年遅れた。
いったいどのようにして約0.7グラムのデブリを取り出したのか。
2号機とほぼ同じ構造を持つ5号機の内部を取材した。震災当時、5号機は定期点検中で運転を停止していたため、深刻な被害を免れている。2号機からのデブリの取り出しにあたっては、5号機が作業用ロボットの進入経路を検討したり、装置を開発したりするための実寸大のシミュレーション設備として役立っている。
1~4号機(大熊町)の北側、双葉町の高台に並ぶ5号機(手前)と6号機
圧力容器の真下へ
5号機の原子炉圧力容器の真下にあたる場所には、原子炉の出力をコントロールするための制御棒の駆動装置などさまざまな装置が氷柱(つらら)のようにぎっしりとぶら下がっていた。この装置を交換するために使われていた「X6ペネトレーション」と呼ばれる貫通孔が、溶け落ちた燃料デブリにアプローチするための入り口となった。
5号機の圧力容器の真下の部分にある機器メンテナンスのための作業スペース。上部には制御棒の駆動装置などの機器がぶら下がっている
原子炉格納容器の外側の通路。中央下に見えるのが貫通孔「X6ペネトレーション」
制御棒駆動装置を交換するための「X6ペネトレーション」の扉を開けたところ。内側には作業用の機材類が格納されていた。その奥に見える白い半円形は、格納容器の内側の空間
右側の壁にある半円部分が格納容器の内側からみたX6ペネトレーション
釣り糸を垂らすようにして採取した0.7グラム
X6ペネトレーションの内径は55センチ。ここにガイドパイプを設置し、釣り竿を長く延ばすように格納容器内に装置を押し込み、グレーチング(鉄製の格子状のふた)のすき間からツメのような先端治具をまっすぐに下に垂らし、格納容器の底部にたまたったデブリをほんのひとつかみ採取した。それが約0.7グラム。
もちろん事故を起こした2号機の内部には入ることができないので、事前調査の積み重ねと、カメラの映像を確認しながらの遠隔操作だ。5号機では、グレーチングの下をのぞくと、制御棒駆動機構を取り換えるための装置などが見えるが、2号機はこうした内部機構を巻き込みながら燃料が溶け落ちて格納容器底部にたまっているとみられ、取り出しの難度は計り知れない。
5号機の圧力容器の真下にある作業スペースに設置されたグレーチング
グレーチングの下にある格納容器の底部。2号機では圧力容器から溶け落ちた燃料が構造物も巻き込みながらデブリとなってたまっているとみられる
福島第1原発の新事務本館に展示されていた2号機内部の構造。左側の模型の左下部を見ると、X6ペネトレーションからのアプローチやデブリの状況が確認できる
大河の一滴
東京電力福島第1廃炉推進カンパニーの小野明代表は、2024年秋の試験的取り出しを「大河の一滴」と表現した。
「初めは本当に一滴かもしれませんが、どんどん大きくしていくのが大事だと思っている。そのために得られる知見は全部生かしていきたい」
インタビューに応じる東京電力福島第1廃炉推進カンパニーの小野明代表(東京電力ホールディングス提供)
ロボットアームを使った調査にも着手目目指す
東電ではこの春、2回目の試験的取り出しに挑戦する。先端が安定しない釣り竿式装置の弱点を軽減するため、先端部分の設計見直しも含めた改善を進めているという。
昨年の試験的取り出しでは、直前になって取り出し装置を格納容器内に押し込むパイプの接続順が間違っていたことが発覚。さらに、燃料デブリをつかむ直前になって、装置先端に取り付けているカメラが映らなくなるトラブルもあった。
「パイプを順番に接続する作業そのものは極めてシンプルなものなので、安全上の問題はないと考えていた。しかし、放射線量が高いエリアのため、防護服に全面マスクの完全装備で、身動きしづらい中で短時間で作業を終えなければならない。声が通りにくくコミュニケーションが取りづらいという問題もあった」と振り返る。2回目の試験的取り出しに向けては、作業員の動作確認など、一段と慎重に取り組む。
さらに、25年度中には、ロボットアームを使った調査にも着手する方針だ。グレーチングのすき間から真下に糸を垂らすような釣り竿式の装置に比べると、ロボットアームは可動範囲が広い。格納容器の底部のさまざまな地点で放射線量を測ったり、映像を撮影したりできるため、本格的なデブリ取り出しに向けて収集できる情報が格段に増えることが期待できるという。
燃料デブリは1~3号機に880トンあると推計される。廃炉に向けて全量を回収するのは長い道のりで、その過程では、「想定外」のトラブルに見舞われることもあるだろう。
小野代表は「これまで、人材育成は廃炉作業を受け持つ協力企業まかせのところがあった。しかし、先例のない作業環境で、要求される技能・知識がどんどん変わってくる難しい現場。東電も一体となって人材育成、技能向上に関与していかなければならない」と話す。
「長い年月を要する廃炉には、地元の皆さんに関わってもらう必要がある。地元企業を巻き込みながら、サステナブルに廃炉を進めていく状況を作っていきたい」という。
見学用デッキ近くから撮影した1~3号機。今回取り出した約0.7グラムの1億2500万倍、約880トンものデブリが残っている
取材・文 : 貝田尚重(ニッポンドットコム編集部)
取材・撮影 : 土師野幸徳(ニッポンドットコム編集部)
バナー写真 : 福島第1原発5号機の原子炉格納容器の内部。事故を起こした1~3号機と基本的な構造が同じで、廃炉作業を進める上での実物大シミュレーション施設として活用されている