
無人運航船をカーゴトレーラーから遠隔操縦:災害時に活躍する世界初の「移動型」陸上支援センター
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無人運航を遠隔監視する陸上支援センター
ポップなイラストのキャンプ用トレーラーハウスかと思いきや、一歩足を踏み入れると戦闘機のコックピットのような空間だった。
内航船の半分を2040年までに無人運航化することを目指す「MEGURI2040」プロジェクトが開発した移動型の陸上支援センターで、最新の通信機器や大型モニターで遠隔監視し、非常時には操船をすることも可能だ。
子どもたちにも無人運航船に興味を持ってもらえるようにと、外装のイラストは公募し、ポップに仕上げた
日本財団が主導し、2020年にスタートしたMEGURI2040には、造船や海運企業、舶用機器メーカーのほか、商社や通信、AI関連なども含む53社が参加。これまで小型観光船や大型旅客フェリー、コンテナ船など6隻で無人運航の実証実験に成功している。
2022年には、1日に約500隻の船舶が行き交う過密海域・東京湾から伊勢湾までの往復790キロの無人運航に挑戦。復路では99.7パーセントという高い無人運航率を達成した。その際に後方支援したのが、千葉・幕張に設置した陸上支援センターだった。航路や気象の情報収集や機関状態をモニタリングし、非常時には遠隔操船も可能なため、安全な無人運航には欠かせない施設といえる。
東京湾ー伊勢湾での無人運航実証に成功したコンテナ船「すざく」(総トン数:749トン)
クラウドでコンパクト化、災害や停電時に活躍
MEGURI2040では2023年度からを、社会実装に向けた第2フェーズと位置付けている。旅客を乗せての実証運航や、無人運航に必要なシステムを全て備えたコンテナ船の新造などが進行中だ。
24年7月には兵庫県西宮市に、複数の船舶を遠隔監視・操船できる陸上支援センターを新設。その過程で課題に挙がったのが災害や停電時のバックアップで、移動型の開発にも着手することになったのだ。
岡山港と小豆島を結ぶ離島航路船「おりんぴあどりーむせと」では、通常運航をしながら長期間にわたる実証実験が行われる 画像提供:日本財団
左側面は夜の海のイラスト。24時間航行する無人運航船をイメージした
無人運航システムのクラウド化で、全長7メートルの空間に遠隔運航機能を詰め込んだ。災害などの緊急時には、けん引して安全な場所へと移動させ、家庭用電源や電気自動車からの給電で稼働する。
操作ブースは前後に席が並ぶタンデムシート型。前方では海図や船体カメラを監視して船長をサポートし、後方はエンジン系のモニタリング画面が表示され、機関長の業務を代行できる。通信には衛星通信「スターリンク」を採用し、電波状態が悪い時にはLTE回線などに切り替え、複数船舶の遠隔操船にも対応する。
普及を見据えて開発
日本では国内物流の約4割を内航海運業界が担っているが、船員の半数が50歳以上と高齢化が進む。さらに海難事故の7~8割はヒューマンエラーに起因する。
日本財団の海野光行常務理事は「人材不足の解消と安全性向上のため、無人運航船の社会実装を早期に実現したい」と話す。実証実験の成果を国土交通省や国際海事機関(IMO)と共有し、国内外のルール整備や保険制度の見直しなどについても積極的に提言していくという。
左から移動型陸上支援センターの開発に当たった日本無線の井上眞太郎執行役員、海野常務、日本無線の陸上支援技術リーダー・佐藤茉莉さん
機能を盛り込んだ常設型の陸上支援センターとは違い、今回の移動型は普及を見据え、内部の通信機器類など設備費用を3000万円程度に抑えた。これなら過疎化が進む離島地域などでも導入を検討できるだろう。移動型陸上支援センターの小さな車体には、未来の海運を守るための大きな可能性が詰まっている。
取材・文・写真=土師野 幸徳(ニッポンドットコム編集部)
バナー写真:移動型陸上支援センターと操縦ブース