
中居氏トラブルで激震続くフジテレビ 焦点は「最高権力者」日枝氏の進退へ
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「人権侵害が行われた可能性がある事案」
発端は人気アイドルグループ「SMAP」(2016年解散)のメンバーだった中居正広氏(52)と20代女性とのトラブルだ。
問題発覚後の責任を取り、嘉納修治会長(74)と港浩一社長(72)は1月27日に退陣した。ただ、同社の親会社フジ・メディア・ホールディングス(FMH)の大株主である米投資ファンド、ダルトン・インベストメンツ(約7%の株を保有)は2月3日に日枝久・取締役相談役(87)の辞任も求めるなど、激震が収まる様子はない。
中居氏の問題に関する昨年12月以降の一連の報道では、トラブルまでの過程にフジの編成幹部社員が関わっていたとの疑惑や、女性から出来事の報告を受けた同社が人権面で適切な対応を取っていなかった可能性が伝えられた。
報道を受けてダルトンは1月14日、FMHのコーポレートガバナンス(企業統治)に欠陥があると指摘した上で、独立した第三者委員会による調査を要求。港氏は同月17日の記者会見で、外部の弁護士を中心とする委員会で調査する方針を示したが、会見が参加社を限定した上に動画撮影を禁じる形だったことや、多くの質問への回答を控えたことで、フジへの批判が拡大した。
こうした状況に対し、トヨタ自動車などスポンサー企業70社以上がフジでのCM放映を中止。波紋が広がる中でFMHは1月23日、利害関係のない弁護士による第三者委員会の設置を発表せざるを得なくなった。港氏は同月27日の辞任会見で、トラブルは「人権侵害が行われた可能性がある事案」だったと述べた上で、女性への対応が不十分だったと謝罪した。
記者会見するフジテレビの(右から)嘉納修治会長、港浩一社長、遠藤龍之介副会長。この日の会見は参加するメディアや質問を制限せずに実施し、翌日未明まで10時間超に及ぶ異例の長さとなった=2025年1月27日、東京都港区(時事)
「最高権力者」日枝氏、長期政権のからくり
フジ経営陣の責任を巡り、同社の「天皇」とも呼ばれる日枝氏の退任を求める声が、社内外で高まっている。同氏が今回の問題の要因となる人権軽視の企業風土をつくり、40年以上も取締役にとどまったことでガバナンスの機能不全を引き起こした、とみられているからだ。
「日枝氏はフジの最高権力者。親会社のFMHでも取締役相談役にすぎないが、フジの会長、社長を決めてきた。企業風土はすべて日枝氏がつくった」と、同社幹部A氏は語る。
フジの新社長には、アニメ「ドラゴンボール」「ちびまる子ちゃん」などのプロデューサーだった清水賢治氏(64)が就いた。別の同社幹部B氏は「もちろん日枝氏が指名した」と明かし、「日枝氏に極めて従順な人物」である清水氏が「社長に就くようでは、改革は期待できない」と早くも指摘する。
「今、日枝氏が辞めたら、慰労金は8億円以上。べらぼうな金額です。それでも辞める気配すらない。こだわっているのは金じゃないのです。フジとFMHの全てを手放したくない」とB氏は話す。
フジの労働組合は日枝氏に1月27日の会見への出席を求めたが、姿を見せなかった。
嘉納氏は会見でその理由を「業務の執行に関与しておらず、今回の問題に直接関わりはないため」と説明した。だが、日枝氏は2017年にフジの会長から取締役相談役になった後、社長を5人も替えた。視聴率不振や今回の不祥事などが理由である。自分は相談役だからと、追及をかわしてきた。これが長期政権のからくりだ。
日枝氏は78社、4法人、3美術館、従業員約1万3000人のフジサンケイグループの代表も務める。フジとFMHの総帥は疑うことなく日枝氏だ。
トラブルへの対応、疑問が残る港氏らの説明
ここで中居氏の女性とのトラブルとフジの対応を振り返ろう。
同氏は2023年6月に自宅に招いた女性とトラブルになり、約9000万円の解決金を支払ったと、「女性セブン」「スポーツニッポン」「週刊文春」が昨年12月に相次いで報道。スポニチと文春は女性が性被害を訴えていたとも伝えた。
中居氏自身は女性との示談に伴う守秘義務を理由に、性的な問題かどうかなどを明らかにしていないが、トラブルを起こした事実は認めて謝罪。民放各局で出演していたレギュラー番組の降板や放送休止が続いた末に、今年1月23日に芸能活動を引退した。
フジのトラブルへの関わりについて、12月19日発売の女性セブンは、同社の編成幹部が中居氏と女性に声を掛けた会食が発端と報道。同幹部が急に出席をキャンセルし、中居氏と女性の2人だけになって問題が発生したと伝えた。この記事を引用する形で、同月26日発売の週刊文春も同様にトラブルの経緯を報じた。
一方、フジは翌27日に社員の会合への関与を否定。文春は今年1月6日発売号で、女性はトラブル当日の会食には中居氏から誘われたと、12月の報道内容の一部を修正しつつ、その日より前に編成幹部が「セッティングしている会の“延長”だったことは間違いありません」という女性の発言を掲載した。同誌は、女性がトラブル後にPTSD(心的外傷後ストレス障害)と診断されて入院を余儀なくされたと付け加えた。
1月27日の会見によると、港氏がトラブル発生を知ったのは23年8月。ところが、コンプライアンス(法令順守)部門に情報を共有せず、会社として中居氏に積極的な聞き取りも行わなかった。
同氏が司会のトーク番組「まつもtoなかい」も打ち切らなかった。港氏やフジの広報局長は会見で、これは誰にもトラブルを知られずに仕事に復帰したいという女性の意向に配慮したためと繰り返した。唐突な番組終了が臆測を呼んで、女性の体調悪化につながらないようにタイミングを慎重に計っていたといい、昨年11月に打ち切りを中居氏に伝えたと述べた(その時点では今年3月終了を予定)。
しかし、同番組のもう1人の司会だったタレント・松本人志が女性との性的トラブルの報道を受けて昨年1月に出演を休止した際、フジは自然な形の打ち切りも可能だったはずなのに、「だれかtoなかい」に名称を変えて放送を継続した。港氏らの説明には疑問が残る。
「楽しくなければテレビじゃない」が過剰接待に
今回の問題を巡り、フジには芸能人や取引先への接待にアナウンサーなどの女性を参加させる慣習があったと指摘される。
他の民放キー局より過剰といわれるフジの芸能人への接待は、港氏がバラエティー番組のディレクターだった1980年代末に始めたものだと、多くの民放関係者が筆者の取材に明らかにしている。
それは日枝氏が編成局長や社長として「楽しくなければテレビじゃない」というキャッチコピーを掲げて同社を視聴率と売り上げで業界首位に導き、今に続くフジの企業風土をつくった時代のこと。港氏が制作現場にいたバブル期やその直後は、東京・六本木の高級飲食店で湯水のように金を使い、番組に出演する芸能人らとどんちゃん騒ぎを繰り広げることができた。
しかし、今のフジには大盤振る舞いをする金がない。「渦中の編成幹部は金がないにもかかわらず、港社長の過剰接待の精神を受け継いでしまったとみる。中居氏の歓心を買おうと、女性をあてがったのではないか」と、あるTBSベテランプロデューサーは推測。「大盤振る舞いも女性をあてがうのもフジ独特のこと。他局ではあり得ない話」と話す。
フジテレビ本社=2025年1月27日、東京都港区(ロイター)
文春の訂正にフジ社内の一部は「大はしゃぎ」だが…
週刊文春は1月30日発売号で、昨年12月に報じたトラブル当日の経緯を修正した点を正式に訂正しておわびした。ただ、女性の証言を根拠に、編成幹部が「トラブルに関与した事実は変わらない」としている。
この訂正を受けてフジ社内の一部は、文春に反撃できると大はしゃぎのような状態となった。フジ系列局でFMH子会社でもある関西テレビは、報道番組で文春を厳しく批判。さらに、フジやグループ出版社に近い文化人などから「文春廃刊」「文春は悪の権化」といった主張も出た。
だが、今回はトラブル後の対応を含めてフジが人権を守る企業だったかどうかが問われているのだから、文春批判の効き目は期待できそうにない。むしろフジの自己弁護に映るので、それに反発する声も強い。
文春批判にフジがどこまで関与しているかは分からないが、メディアが自らの非を疑われているとき、世論の力で風向きを変えようと考えているのだとしたら、健全ではない。
フジが焦っているようにもみえる背景には業績不振がある。かつて視聴率上位の常連だったが、系列局の少ないテレビ東京を除く主要民放4局の中では最下位に沈み続けている。CM売上高もやはり4位だ。
そもそも中居氏のトラブルへのフジの対応の鈍さの要因に、視聴率低迷があるとみる民放関係者は多い。低視聴率の番組が多い中、「だれかtoなかい」の数字は堅調だったからだ。港氏らは中居氏が何をしようが、番組を終了したくなかったのではないのか、という見立てだ。トラブルへの関与が指摘される編成幹部は、この番組に立ち上げ時から深く関わっていた。
今後のカギを握る7人の社外取締役
フジの今後はどうなるのか。まず、第三者委員会が3月末の報告に向け、主に(1)トラブルへの社員の関与、(2)トラブル認識後の対応、(3)ガバナンスと人権への取り組み、(4)問題の原因分析と再発防止策、についての調査を行う。
ガバナンスの立て直しや信頼回復のための組織刷新の動きも焦点となる。カギを握るのはFMHの7人の社外取締役だ。
FMHは1月30日、社外取締役の提案に基づいて7人全員がメンバーとなる経営刷新小委員会を取締役会の下に設置した。改革の検証や提言を行う。
「日枝氏寄りで改革の旗振り役になり得ない人物もいるが、FMH株の約3%を持つ文化放送の齋藤清人氏、約8%の株を持つ東宝の島谷能成氏は動くだろう。これまでも改革を求めるメッセージを出してきた。この2人が中心になって日枝氏に退任を求める可能性もある。大量のFMH株の価値が毀損(きそん)したら、重大な責任問題になりますから」と、フジ幹部B氏は予想する。
日枝氏も今度ばかりは退任を受け入れるのではないかともいわれている。2025年3月期のフジの放送収入は、従来予想から233億円下回る見込みとなった。スポンサーが引き揚げたCMの料金請求を止めたからだ。これだけでも十分、日枝氏を含む取締役総退陣の理由となる。
フジと日枝氏の命運は、株主総会が予定される6月までには決まる。
バナー写真:タレントの中居正広氏が芸能活動を引退することを伝える街頭モニター=2025年1月23日午後、東京・秋葉原(共同)