エジプトの教育改革を支える日本発祥の「特活」:現地教員が福井で研修
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自主性を育てる「特活」をエジプトへ
日本人にとっては当たり前の学級会、日直、教室の掃除、運動会、遠足など授業以外の学校生活は「特別活動(特活)」と呼ばれる。集団の中で自主性や協調性を養うことを目的に小中学校で取り入れられている。
昨今、日本生まれの特活を教育現場に導入する国が増えている。特に積極的なのがエジプトだ。2016年にシシ大統領が訪日した際、当時の安倍首相と「エジプト・日本教育パートナーシップ(EJEP)」を締結し、日本式教育の導入に向けた協力関係を築いた。
エジプトの公立小学校は1クラス平均55人の大教室で、授業は講義形式が一般的。児童が意見を発表する機会は少ない。
しかし2010年代には高い失業率など社会不安を抱え、課題解決能力に優れた「人を育てる教育」が急務となった。教育改革にかじを切ったのが14年に就任したシシ大統領で、日本が経済発展した背景には勤勉さや規律を守る国民性があると考え、日本式教育の導入に踏み切ったのだ。
2018年9月からはエジプト国内の1万8000以上の公立小学校で「ミニ特活」を導入。学級会と日直、学級指導をカリキュラムに組み込んでいる。
同時に、特活を中心とする日本式教育を実践する公立の「エジプト日本学校(EJS)」を新設。従来型の長机と長いすに詰めて着席するスタイルから、1クラス36人に制限して自分専用の机といすがいきわたるようにした。こうした教育環境も魅力で、入学倍率は約5倍と高い人気を呼んでいる。初年度には35の小学校を開校して1年生を迎え、現在は51校まで増えた。
エジプト教員が福井で1カ月弱の研修
日本式教育の浸透には教員の養成が要となる。EJEPの人材育成を支援する国際協力機構(JICA)と連携して、研修を担当しているのが福井大学連合教職大学院(福井市)である。福井県の小中学生は全国的な学力・体力調査で毎年トップクラスの成績を収めており、視察や研修を求める教育関係者を国内外から数多く受け入れてきた。
2019年からは毎回40人のエジプト教員を迎えて4週間の研修を実施しており、26年までに計820人の修了を見込んでいる。
24年2月には10期生として、EJSの校長・副校長らが来日。福井市内を中心に小中学校や幼稚園の様子を視察するなど研修に臨んだ。
取材当日には、福井大学教育学部附属義務教育学校の中等部を参観。生徒はグループを作って、自らが課題を見つけて解決を目指す「協働探求」に取り組んでいた。
探求は日本では2022年から高校の必修科目になっている。教員は自分自身が経験していない科目を授業するため、手探りで指導方法を確立していかなければならない。
EJSの教員も自分が受けたことがない日本式教育を教える立場にある。そこで、彼ら自身が協働探求するカリキュラムを組んだと、福井大学の柳沢昌一教授は言う。その一環として、日々の研修の感想や課題についてグループディスカッションを重ねている。
「日本式教育では特活だけが重視されがちだけれど、授業を参観するだけでは『エジプトの子どもとは違うから参考にならない』で終わってしまう。研修の本質は、子どもたちが主体性を育むプロセスを知ってもらうこと」との考えからだ。
日本の学校現場で学んだことをエジプトでどのように生かすのか。それをイメージする上で役立っているのが、これまでの研修生が残したリポートだ。また、修了生とオンラインで対話し、いかにエジプトで実践しているかを聞く機会も設けている。
「先輩たちが悪戦苦闘しながら、何を学び、どう教育現場で展開していったのかを理解した上で、自身の探求を深めてもらっている。そして最後には、次の研修生のために自分もリポートを書く。こうした積み重ねのおかげで、研修生のレベルは回を追うごとに高まっている」
EJSの成功はモデルケースになり得る
柳沢教授ら福井大学の教職員は5月にエジプトを訪問し、研修を終えた教員のフォローアップのためにEJSを回った。現地で授業参観や教員の研究会に参加したヤスミーン・モスタファ准教授は、大きな手応えを感じたという。
「以前のエジプトでは、校長や副校長らマネジメント側は現場の教員と壁がある印象でした。今は信頼し合って、学校づくりにチャレンジしようという雰囲気に変わっています。先生たちの変化は子どもたちにも良い影響を与えて、自由に意見を出し合える授業ができています」
EJSの子どもたちは総じて学校行事への参加意欲が高く、準備段階から「休みの日でも学校に行きたい」「家に帰りたくない」と言うほど情熱を注ぐ。主体性や責任感も育まれ、家庭でも進んで部屋の掃除や食後の片づけをすると、保護者から喜びの声が寄せられているそうだ。
EJS中等教育では特活に留まらず、協働探求をはじめ、生徒が自主的に調べて考える授業もしていくことになる。「児童生徒が増えるにつれて教職員のマネジメントなどの課題も増えるものの、新しい学校文化が発展してきていることが支えになるでしょう」と柳沢教授は期待する。
翻って日本では、教科外の活動が教員の大きな負担となることが問題視され、学校行事も縮小傾向にある。
「特活は当たり前になりすぎて形骸化している面もある。また、欧米の学校にはないのだから不要だという人もいる。しかし、講義形式の授業を黙って聴くだけ、テストの点数を競うだけの学校に行きたいでしょうか。子ども主体の学校づくりに取り組んできた日本式教育は世界のモデルケースになり得ると、研修を通じて再認識しました。エジプトの試みはアラブ世界やアフリカの教育改革に資するはずです」
国を挙げて教育改革にエネルギーを注ぐエジプトの姿勢は、日本も学ぶべきであろう。両国が協調して、世界に誇れる教育文化を育むことに期待したい。
バナー写真:教室の掃除など「特活」を取り入れたエジプトの小学校 写真提供=福井大学連合教職大学院