半井重幸:ブレイキン 新競技で初代メダリストを狙う日本の第一人者 Shigekix【パリ五輪・頂を目指すアスリートたち】

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パリ五輪で初めて正式種目に採用となったブレイキン。その初代メダリストの座を狙うのが22歳にして長らく世界を舞台に活躍してきたShigekix(シゲキックス)こと半井重幸(なからい・しげゆき)だ。自身の実績を積み上げるだけでなく競技の普及にも貢献してきたダンサーは、パリの大舞台でブレイキンの歴史の新たな扉を開く。

世界最高峰大会の最年少優勝者

1970年代にニューヨークのブロンクスで生まれたストリートダンス・ブレイキンは、音楽に合わせ全身を使ってアクロバティックなダンスを披露し、1対1、またはチームバトルで競い合う。

2018年ユース五輪では国際オリンピック委員会(IOC)主催の大会で初めて競技として実施され、翌年には全日本選手権も開催された。今夏のパリ五輪では正式種目に採用され、注目が集まっている。

日本勢は国際大会の表彰台の常連で、世界でもトップクラスのダンサーがそろうブレイキン強豪。中でもパリで有力なメダル候補として期待されるのが、昨年のアジア大会で優勝し、五輪代表に内定したダンサーネーム「Shigekix(シゲキックス)」こと男子のエース、半井だ。

半井とブレイクダンスの出会いは7歳。先に競技を始めた4歳上の姉の練習や大会など、ついて行く先々で目にしたムーブ(パフォーマンス)に心を奪われた。見よう見まねで挑戦するうち、技を習得する喜びを覚えた。好奇心旺盛の少年がブレイキンの魅力にとりつかれるまでにさほど時間はかからなかった。

小学生時代からキッズダンサーとして数々の世界大会で優勝し、高校1年生となった17年には世界最高峰の大会とされる「Red Bull BC One World Final」に史上最年少出場を果たす。18年のユース五輪では銅メダルを獲得するなど、早くから国際大会で結果を残してきた。

杭州アジア大会で優勝し、満面の笑みを浮かべる半井=2023年10月7日、中国・杭州(時事)
杭州アジア大会で優勝し、満面の笑みを浮かべる半井=2023年10月7日、中国・杭州(時事)

20年には「Red Bull BC One World Final」を歴代最年少で制し、全日本選手権でも昨年まで3連覇。世界選手権では22年は銀、23年は銅で表彰台に上がり、誰もが認める第一人者となった。

近年は国内外での注目度が一段とアップし、勝って当然という雰囲気が漂う。その中で重圧も少なからず感じてきた。故障に苦しんだ時期もある。それでも「カルチャーとして、五輪の競技として、両方でブレイキンの象徴になりたい」と、妥協することなくひたすら技を磨き上げた。

技を支える強靭な肉体

比較的小柄な身長166cmの体が、ステージ上では打って変わって大きく見える。

息もつかせぬダイナミックで素早い連続技には目を見張るものがある。立って踊るトップロック、 床に手をついて足技を見せるフットワーク、頭や背中で回転するパワームーブと流れるように次々と技を繰り出す。

圧巻なのは、世界トップクラスと称されるヘッドスピンなど派手な回転技から一転、音楽に合わせて体全体をピタっと動きを止めるフリーズ。音楽に自身の動きを合わせる一体性は半井が最も得意とする部分で、音楽性でも際立つ。

高難度の動きを可能にしているのは鍛え上げられた強靭(きょうじん)な肉体だ。サーキットトレーニングなども取り入れ、心肺機能や筋持久力を鍛えた。さらに体幹を強化して表現の幅を広げた。睡眠や食事などにも徹底的にこだわり、闘うための体をつくってきた。

2020年12月上旬にブレイキンがパリ五輪の正式競技になった瞬間から、半井は金メダル獲得を想像して日々を過ごしてきた。練習は年間365日 。1日2~3時間はほぼ休憩を取らず踊り続ける。一瞬も無駄にしたくないという覚悟と決意の下、目標に向かって走り続けてきた。

全日本ブレイキン選手権で演技する半井。五輪イヤーで注目される中、4連覇を狙ったが準決勝で敗退した=2024年2月17日、東京・NHKホール(時事)
全日本ブレイキン選手権で演技する半井。五輪イヤーで注目される中、4連覇を狙ったが準決勝で敗退した=2024年2月17日、東京・NHKホール(時事)

敗戦に再び高まったモチベーション

昨秋の杭州アジア大会で優勝し、ブレイキンの日本勢一番乗りで五輪切符を手にした。その後は米国の伝統的なカルチャーである1対1のダンスバトルなどに出場し、場数も踏んできた。

今年2月の全日本選手権では4連覇を狙ったが、準決勝で18歳の菱川一心(ひしかわ・いっしん)に敗戦。「1回負けたら10回勝ってやるって気持ちになる。モチベーションは上がった。メラメラしている」と敗戦を新たなエネルギーに変え、待ち望んだパリの大舞台に気持ちを切り替えた。

パリ五輪の正式種目となり、ブレイキンの知名度は格段に上がっている。その盛り上がりの中心にいた半井は、パリで結果を残すだけでなく、「自分が道を切り開くことで後進を育てたい」「人々が続く道筋になりたい」と折に触れて語っている。

五輪のステージは芸術の都・パリ中心部、セーヌ川北岸のコンコルド広場に設けられる。幼い頃から絵を描くことが好きで、個展のオファーが来るほどの腕前といわれる半井は、8月10日、アーティスティックなダンスで世界中の人々を魅了する。

バナー写真:ブレイキン世界選手権のファイナルステージでヘッドスピンを披露する半井=2023年9月24日、ベルギー・ルーベン(ロイター、NICOLASMAETERLINCK/Belga/Sipa U)

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