石川祐希:バレーボール “歴代最強”の男子をけん引する世界も認めた逸材【パリ五輪・頂を目指すアスリートたち】
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日本の絶対的エース
「男子バレーが強くなった」「メダルも狙える」
2021年の東京五輪以降、こんな声が盛んに聞こえる。歴代最強といわれる日本男子バレーボールが、長い冬の時代を乗り越えて強くなったのはなぜなのか──。
改革をもたらしたのが、日本代表主将でエースの石川祐希の存在だ。彼には常々口にしてきた明確な目標がある。
「世界のトッププレーヤーになる」
世界最高峰のセリエA(イタリアのプロバレーボールリーグ)で長くチャレンジを続ける日本の大黒柱。その根底には「勝ちたい」「トップチームでプレーしたい」というシンプルな思いがある。
日本バレーボール史上最高の逸材が最初にイタリアに渡ったのは、中央大学在学中の14年8月。古豪モデナに約3カ月、短期移籍した。当初は海外のクラブで長くプレーすることまで考えが及んでいなかったが、世界トップレベルを知って自身の目標が定まった。
セリエAでラティーナ、シエナ、パドバ、ミラノを渡り歩き、世界トップレベルの環境に身を置いた。そこで高さやスピードに優れた相手と対峙(たいじ)し、技術のみならずメンタルに磨きをかけた。
351センチの最高到達点から打ち下ろす超高速スパイクとコースへの多彩な打ち分け。ここぞという時に点を取り切る力は誰もが認める。得点や勝利をどん欲に追求する姿勢にチームメイトも奮起し、相乗効果が生まれている。
192センチの身長はバレーボール選手として決して高くはない。だが、強烈なサーブや安定したレシーブもできるオールラウンダーであることも強みに、自身と日本人選手の評価を高めてきた。
世界最高峰リーグでの躍動
2023‐24シーズンもミラノの大黒柱として、チームを史上初のプレーオフ3位に導いた。強打者がそろう中、レギュラーシーズンとプレーオフで挙げた総得点475ポイントはセリエA全体で4位。対戦チームにとっても石川の存在は脅威で、「イシカワ」は常に話題の中心。特別な存在になっている。
セリエA10季目となる2024‐25シーズンは、強豪ペルージャに移籍。目標に掲げる「世界一のプレーヤーになる」という信念を貫き、国内外の多く誘いを断って世界最強クラブを選択。「優勝のみを目指し、世界一に近づけるようなシーズンにしたい」と覚悟を語る。
ゴールが明確だからこそ、環境に流されない。どのチーム、どういう環境なら最大限の実力を発揮でき、成長を見込めるのか。それらを見極め、自らの力で証明し、日本人選手が誰も成し遂げていない高みへと挑戦する。冷静な分析、判断力にも長けている。
最も充実した1年だったともいえる昨季は、日本代表の主将として出場したネーションズリーグ(VNL)で銅メダルを獲得。国際大会46年ぶりのメダルだった。
強豪ブラジルに対し、公式戦では約30年ぶりとなる勝利を挙げ、さらにフルメンバーのイタリア相手に善戦しての銅。自身、チームに「間違いなく自信になった」。
同年の五輪予選(OQT)を兼ねたワールドカップバレーでは、序盤のエジプト戦で痛恨の逆転負けを喫し、この大会での五輪出場権獲得に黄信号がともったが、チームを立て直してパリ五輪の出場権をつかんだ。
世界で6チームに限られるOQTでの出場権獲得は、世界トップレベルの実力の証明だ。
「パリでメダルが狙えるチームになった。また一つステージが上がったと思う。でも、このチームはまだまだ強くなれる」
半世紀ぶりのメダルに懸ける思い
日本男子がパリ大会でメダルを獲得すれば1972年ミュンヘン大会以来、52年ぶりの快挙だ。
「チーム全員が『何が何でもメダルを取る』という気持ち。自信がなかったら言えない言葉で、それほど全てを懸けている。このメンバーならメダルが取れる、取るべきチームです」
21歳の時、2016年リオ五輪の最終予選で出場権を逃した。そのリオ五輪はブラジル対イタリアの決勝戦を観客席から見守り、“逃したもの”の大きさをかみしめた。
自身初の五輪となった東京大会では、当時世界ランキング1位のブラジルに対し、積極的な攻撃と粘りで善戦しつつも敗れ、ベスト4の壁を越えられず7位。3年後のパリへと思いを馳(は)せた。
パリ五輪直前の大会となった今季のVNLで、日本は決勝戦でフランスに敗れたものの、大会史上初の銀メダルを獲得。それでも石川は「勝たせられなくて悔しい。次こそ金メダルを」とパリへの決意を新たにした。
満を持して臨む今夏の大舞台。逞(たくま)しさを増した日本の絶対的エースは、自らの力でメダルを手繰り寄せる。
バナー写真:パリ五輪予選のトルコ戦でスパイクを決める石川=2023年10月4日、東京・国立代々木競技場(共同)