角田夏実:柔道 遅咲き31歳の初出場で狙う、金色の日本勢メダル第1号【パリ五輪・頂を目指すアスリートたち】
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日本女子では歴代最年長出場
パリ五輪競技初日に登場する柔道女子48キロ級の角田夏実が頂点に挑む。
日本のお家芸ともいわれる柔道。同階級で金メダルを得られれば、日本勢として2004年アテネ五輪の谷亮子以来20年ぶりの偉業となる。
最軽量級は初日の登場が通例だ。パリ大会では日本勢としてのメダル第1号が夏季の通算500個目のメモリアルとなるだけに、女子の大黒柱に寄せられる期待はより一層高まる。
昨年6月、角田は30歳で初めて五輪出場の切符をつかみとった。今夏31歳11カ月で迎える初の五輪出場は、日本柔道女子では東京大会の浜田尚里(しょうり・30歳10カ月)を抜いて歴代最年長記録だ。
角田が輝きを放ち始めたのは20代後半から。世界柔道選手権(世界柔道)では21年からオール一本勝ちで3連覇。世界屈指の柔道家へと昇り詰めた。
運命を変えた階級変更
しかし、そんな最強ヒロインも20代半ばまでは無名の存在で、五輪とは縁がなかった。
快進撃の大きな契機となったのは2019年の階級変更だ。
それまで彼女は52キロ級で五輪出場を目指していた。しかし同階級は日本女子の中でも指折りの激戦区で、のちに東京五輪で金メダルを獲得する阿部詩(うた)や志々目(ししめ)愛らそうそうたる顔ぶれがそろっていた。しかも東京五輪の代表争いにおいては、自身のけがの不運もあって崖っぷちへと追い込まれた。52キロ級で東京五輪の舞台に立つことが絶望的な状況となったことで、角田は自らの進退をかけ、ある大きな決断を下したのだった。
「年齢も上の方になってきて、オリンピックは東京が最後のチャンスだなと思っていました。52キロ級で可能性が低いのであれば、階級をかえてチャレンジするのもいいんじゃないかと思って、そのチャンスに懸けたんです」
52キロ級から48キロ級への異例の階級変更。もちろん、48キロ級も渡名喜風名(となき・ふうな)を始め、リオデジャネイロ五輪銅メダルの近藤亜美、世界ジュニア選手権優勝の古賀若菜らも台頭していた激戦必至の日本の伝統階級だ。そこに油断や慢心は決してなかった。
それでも変更を決断したのは、五輪への思い、執念にほかならない。
だが、実績を積み重ねるにはあまりにも時間が足りなかった。結果的に東京五輪の舞台に立ったのは年下のライバル・渡名喜だった。
代表の座を逃した際には引退も考えた。しかし、五輪直前の世界柔道では48キロ級代表で出場して優勝し、「自分はまだできるんじゃないか。ここで辞めたらもったいないな」と奮起。「やっぱりオリンピックに出たいし、できるところまで頑張ろうって。自分はまだ柔道を続けたいという気持ちも再確認できた」という。
「毎年負けたら終わりという気持ちで、常に1年ごと、1試合ごとが勝負という気持ちで挑んでいました。負けたら引退ぐらいの覚悟で」
ベテランの域にさしかかった現在も、年齢に逆行するかのように、強さや相手をねじ伏せるような戦いぶりはすごみが増している印象だ。
二大必殺技がもたらす自信
一撃必殺といわれるともえ投げ、寝技での腕ひしぎ十字固めという二大必殺技は、パリの舞台でも大きな武器となるだろう。
その独自のスタイルは、大学時代から取り組んでいるグラップリング(総合格闘技の一種)や柔術が関係している。柔術は柔道よりも寝技や関節技が多彩で動きがハマり、試合を重ねるごとにそのスタイルに自信を深めてきた。
五輪前最後の実戦となった今年3月のグランドスラム・アンタルヤ大会(トルコ)では、準決勝で23年世界柔道3位のアビバ・アブジャキノワ(カザフスタン)の懐に入って居反りのような肩車でポイントを奪うなど、ともえ投げや寝技頼みからの脱却を印象づけた。
決勝では21歳の新星シラ・エルシン(トルコ)と対戦し、鮮やかなともえ投げで技ありを奪うと、その後は寝技に持ち込み、最後は腕ひしぎ十字固めで一本。5試合をオール一本勝ちし、優勝でパリへ弾みをつけた。
苦労の末、31歳にしてつかんだ初の五輪。遅咲きの女王は「柔道が好きだったからこそ道は開いた」と実感している。だからこそパリでは「諦めないで良かったと思える柔道がしたい」という。何度も挫折しながら、その度に支えてくれた周囲の人たちのためにも。
五輪という大舞台では、オール一本という展開にはならないだろう。角田自身も簡単には勝てないと気を引き締める。不安はすべて払拭し、圧倒的な自信を携えて大舞台へ。
7月27日、角田は柔道人生の全てをぶつける。
バナー写真:柔道のグランドスラムパリ48キロ級を制した角田夏実=2022年2月5日(ロイター)