脱炭素社会に向け、日本初の水素&バイオ燃料の作業船が実証成功: クルーズ客船としても運航開始
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国内初の20トン以上の水素燃料電池船
水素とバイオディーゼルを燃料とする作業船「HANARIA(ハナリア)」が2024年3月26日から4月4日にかけて、北九州市の小倉港から若松区沖合に浮かぶ洋上風力発電施設間で運航実証を実施。往復57キロメートルを3時間45分で、CO2を一切排出しないゼロエミッション運航することに成功した。
ハナリアは日本財団が推進する「ゼロエミッション船プロジェクト」の一環として開発され、全長33メートル、全幅10メートル、総トン数238トンで旅客定員は100人。水素燃料電池(2基)とバイオディーゼル発電機(1基)、リチウムイオンバッテリー(2基)を備えるハイブリッド型電気推進船で、水素燃料電池のみを使用した「ゼロエミッションモード」での運航も可能。総トン数20トン以上の大型船舶で、水素を動力とする運航実証成功は日本初、洋上風車作業船でのゼロエミッション運航としては世界初となる。
記者発表会前に開催された湾内での試乗会では、電力消費量の多い出港時にはハイブリッドモードで離岸。それでも十分に音も振動も少なかったが、ゼロエミッションモードに切り替えるとエンジン音が消え、スーッと滑るように加速。船特有の油臭さもほとんどないので、地球環境だけでなく、乗船客の船酔い軽減にも貢献してくれそうだ。
世界の船舶のゼロエミッション化をけん引
日本国内における2021年度のCO2排出量は10億6400万トンで、自家用を含む自動車や鉄道、航空機、船舶といった運輸部門の排出量は17.4パーセントと大きな割合を占める。日本財団ゼロエミッション船プロジェクトは、運輸部門のうち5.5パーセントに当たる内航海運からのCO2排出量をゼロにすることを目指す。2022年から3つのコンソーシアムがゼロエミッション船開発を進めており、MOTENA-Sea(モテナシー)と商船三井テクノトレード、本瓦造船、関門汽船、大陽日酸の5社が参画する「水素燃料電池洋上風車作業船コンソーシアム」が今回、初の運航実証にこぎつけた。
実証成功を受け、日本財団の海野光行常務理事は「二酸化炭素を排出しないゼロエミッション船は、2050年のカーボンニュートラル社会実現の切り札となる。日本は水素関連の特許数で世界一を誇るので、その高い技術力を結集し、世界の船舶の脱炭素化をけん引していきたい」と語った。
燃料電池や水素貯蔵の技術を提供したのが、世界初の燃料電池自動車「MIRAI(ミライ)」を販売し、数多くの水素関連特許を持つトヨタ自動車だ。水素ファクトリーのチーフプロジェクトリーダーを務める濱村芳彦さんは「このプロジェクトは水素社会の実現に向けて、2つの大きな道を切り開いてくれた。1つ目は、日本中で進行する水素関連プロジェクトのほとんどが実験、実証の域を出ない中、船の分野でビジネスに挑戦すること。2つ目は、水素は新しい技術であるがゆえに、規制などの制度設計が追い付いていないが、関係各所へ熱心に働きかけたことで一部運用が改善され、後続の船のプロジェクトが進行しやすくなった」と賛辞を贈った。
ハナリアは、再生可能エネルギーの安定供給に期待が寄せられる洋上風力発電施設への人員運搬や視察を目的に開発されたが、「現在はまだ稼働する洋上風力発電所が少ないため、当面は観光船として活用していく」(海野常務)という。運航を重ねることでデータが蓄積され、船体設備の改善や規制緩和につなげていくことが可能になるだろう。
水素船の快適なクルージングを一般客も体験可能
ただ、商業運航を軌道に乗せるのにも課題がある。例えば、水素燃料は北九州市内では調達できず、福岡市から運送するので割高になってしまう。
モテナシーの高尾和俊社長は「水素は地産地消が理想なので、近い将来には市内で調達できるようになってほしい。初めて尽くしの取り組みだから、課題が多いのは当然」としながらも、「いち早く商業運航することで、ゼロエミッション船の建造を先駆けていきたい」と力強く語った。北九州市の竹内和久市長も「風力発電関連産業の集積を目指すなど、カーボンニュートラル化を推進しており、県と共に大規模な水素の(供給・利活用)拠点をつくるための協議会も設立した」と述べるように、官民一体で取り組んでいくことが重要になるだろう。
ハナリアは4月10日から、小倉港と門司港(北九州市門司区)で観光運航を開始。関門橋をくぐり、山口県下関市の巌流島や唐戸市場を船上から眺めるプランや、神社仏閣を洋上参拝するコース、工場夜景を鑑賞するナイトクルーズなどがあり、運賃は5500~1万1000円。高尾社長は「複数の自治体から導入の問い合わせがあり、関心の高さを感じている。まずはハナリアで、ゼロエミッション船の快適なクルーズを体感してもらいたい。それがカーボンニュートラル社会の早期実現につながると思う」と期待をかける。
日本財団ゼロエミッション船プロジェクトでは2026年度中に、旅客船とタンカーでも水素船の運航実証を計画している。
撮影=土師野 幸徳(ニッポンドットコム編集部)
バナー写真:国内初の水素燃料電池を搭載した大型船舶「ハナリア」