ふろしきの中の宝物 : どんな相手も受け入れる形のないシステム
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ふろしきに風を
現代は、物や人を何でも意味や役割でラベル付けする。無限の使い道を内包する「ふろしき」が、昭和の時代のドラマや漫画に登場する泥棒や夜逃げのアイコンに閉じてしまった。折り紙で折り鶴しか思い浮かばないようなものだ。「もったいない」から使い捨てをやめてふろしきを見直そうというキャンペーンがあったが、先入観でふろしきを決めつけることもまた、実にもったいないことだ。思いこみの壁を扉にかえて、道なき未知へと飛び込もう!
好きな布で何かを包む 可能性無限大
「ふろしき」として販売されているものだけが、ふろしきではない。ハンカチ、バンダナ、スカーフ…正方形に近く、角を結ぶことのできる布はなんでもふろしきになる。
好きな布で何かを包んでみよう。結び方の正解は一つではない。手が動くのに任せていれば、何かが生まれる。その印象は、結び方よりも生地の色や柄に左右される。かわいい布ならば、シンプルなお弁当包みでもかわいく見える。
使い心地には質感も大事なので、見て、触って、うれしくなる布がいい。
丁寧に結ばれて、使う人が姿勢や瞳に自信があれば、どんなふろしきでも説得力を持つ。あなたがふろしきを映すのだ。
元々のふろしきは反物をつないで作っていたため、約35センチの倍数でサイズが決まっていた。二巾と呼ばれる中ふろしきは70センチ、三巾の大ふろしきは105センチと広がっていく。完全な正方形ではなく、伸びにくい縦方向を若干長くすると使いやすい。
現代のふろしきは反物から作るわけではないので、サイズは自由だ。目安としては、大は約100センチ、中70センチ、小50センチ。たくさん買い物したり、体にまとうならば大きいもの。ちょっと出かけるなら中サイズ。細かいものをまとめたりバッグインバッグには小ふろしきがいい。
素材は、木綿、麻(リネンやヘンプ)、絹のほか、ポリエステルやレーヨンなどの化学繊維のものも広く出回っている。日々の暮らしで使うには、気軽に洗濯できる綿や麻がおすすめだ。色や柄は、織り、染め、プリント、刺しゅう、パッチワークなど限りなく多彩。
どんな相手も受け入れる形のないシステム
カバンには、カバンのサイズを超えるものを入れることはできない。逆に、大きなカバンに小さな弁当箱1つだけ入れると、安定が取れない。一方のふろしきは、中身に合わせて自在に変化しながら、どんな相手も受け入れる。大きさが足りなければ、もう1枚つないでもいい。
ふろしきは、中身を型にはめることはしない。そのように柔軟なのは、いつでも元に戻せるという安心が保証している。結び目をほどけば、元の1枚の布に戻る。失敗を恐れずに何度でもやり直すことができる。中身や状況の数だけアレンジが生まれては、名づける間もなく、ほどかれる。
ふろしき=エコバッグ?
近年は、エコバッグとしても注目されているが、それも無数の展開のうちのひとしずくだ。買いもの袋になる結び方も多様に存在する。最も簡単なのは、隣の角をそれぞれ結んだだけの袋。結び目が十字になる縦むすびは不安定なので、そこだけは気をつける。袋ものは、荷物が多いときは2つの持ち手、少ないときは1つの持ち手が使いやすい。
「ふろしきは市販のエコバッグよりも優れている」と言うつもりはない。エコバッグにふろしきを組み合わせて、持ち手を伸ばす、補強や彩りのカバーにするなど、結びあって機能を高めることができるのだ。
千変万化の魔法
ふろしきの機能は大まかに、「包み」「袋」「背負う」「まとう」に分けることができる。「包み」は中身がずれないようにまとめる。袋は出し入れができる。包みや袋に長さをもたせると、肩にかけたり、背負うことができるようになる。
また、帽子や羽織、巻きスカートとして身体にもまとうこともできる。さっきまでエコバッグだったものを、結び変えれば寒さから身を守ってくれる。
手っ甲は、冬場は防寒、夏場は日焼け防止に使えるが、忍者の仮装としても子どもに人気だ。イベントの後は、ほどいて日常使いに戻るので、無駄がない。
斜め方向に折りたたむとバイアスの伸縮が生まれ、ロープ代わりになる。その性質を応用して、浴衣などの帯として使える。着崩れしづらく、折りたたんだ布の間がハンカチなどを入れるポケットのように使えて便利だ。
頭で考えすぎない
布を切って形を固定すると用途は限定される。ふろしきは四角のまま使うことで、1枚が魔法のように変わりつづける。結び方はさまざまだが、レシピをたくさん覚える必要はない。基本のお弁当包みで何でも包めるので、状況に合わせてアレンジする。角を小さく結べば、伸びて持ち手になる。ねじってみてもいい。使わない角は、ひとつ結びでまとめてみる。複雑に見えても、シンプルの組み合わせでできている。普段から買いものの時などに使って結び慣れていれば、手があれこれとやってくれる。
「包む」でも「結ぶ」でもなく「抱きしめる」
簡単でお気楽なふろしきは、一見その場しのぎに見えなくもない。しかし、「結び」というのは、独立した2つのものが別方向の力を出しあうため、接着よりも強い、圧着となる。包装紙のように包む(wrap)だけでもなく、ひものように結ぶ(tie)だけでもない。包みながら結ぶことで抱きしめる(hug)となり、強さと優しさを兼ねそなえる。
腕と身体と全身で抱きしめる、その延長線上にふろしきがある。むすび加減、持ち方、背負い方、歩き方といった所作によっても使いやすさは変わる。ふろしきだけで完結ではなく、いつでも「ふろしき+からだ」で成り立つのだ。
結び方が分からなかったら、同じ用途を手でやってみて、それをふろしきに置き換えればよい。もしも手だけで用が足りるのであれば無理にふろしきを使う必要はないし、山のような荷物を一人で背負わなくても、仲間がいれば手分けできる。困ってからの助け舟であるふろしきは、人手が足りないときほど活躍する。
カバンに入れたふろしきからコミュニケーションが生まれる
「ふろしき」の名前の由来は諸説あり、時代によって解釈も変わる。かつては蒸し風呂に座る時に腰の下に敷いたという。江戸時代の視点では「風呂へ持っていく敷き布」と考えると分かりやすい。旅やお使い・行商など、お風呂以外でも使うシーンはもちろんあるのだが、江戸の庶民は基本手ぶら。町内だけで暮らしが回るため、ちょっとしたものは袖や帯や手ぬぐいに差しておけば事足りた。ただし銭湯へは、着替えをふろしきに包んでいったというわけだ。
現代では多くの人々が、通勤などで長距離を移動する。周りに知人もいない、旅のような状況だ。カバンに畳んだふろしきを入れておけば、いざという時の助けとなり、安心につながる。物が増えたらサブバッグをつくり、重ければ背負える。雨具や防寒にも使えるし、いざという時は頭や顔を覆って身を守れる。斜めにたためばロープにもなる。
現代は細分化された大量の道具であふれている。それらを断捨離し、ふろしきがあればミニマルな暮らしができるかもしれない。
ただ、ふろしきは便利すぎるゆえに単独行動にもつながりやすい。なるべくなら、人同士が協力しあう社会がいい。重い荷物を代わりに背負ったり、寒そうな人に羽織ってもらうなど、これからは、人と人とが助けあうためにふろしきを役立てたい。実用ばかりではない。1枚から生まれるコミュニケーションや仲間こそが、ふろしきの中の宝物なのだ。
バナーおよび本文中の写真はすべて筆者提供
モデル:滝野朝美(ふろしきガール)