世界の大物プレーヤーが大挙参戦! 3年目のリーグワンの見どころと日本ラグビーの野望

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たとえば、W杯で決勝を戦ったニュージーランドと南アフリカからは、先発30人中13人。3年目の戦いが幕を開けた国内最高峰リーグ「NTTジャパンラグビーリーグワン」に、世界中から多くの現役代表選手が参戦している。トップ選手が日本でのプレーを選択する理由と、世界的なリーグを目指すリーグワンの思惑を読み解く。

スター選手が集結するリーグワンとは?

日本のラグビーリーグが大変なことになっている。

2023年12月9日に開幕した「NTTジャパンラグビーリーグワン」に、ラグビーワールドカップ(W杯)2023フランス大会で活躍した世界のトップ選手が、これでもかと集結しているのだ。世界の頂点を懸けて戦った南アフリカ(南ア)とニュージーランド(NZ)の決勝に出場した両チームの先発30人のうち、半数近い13人、リザーブも含めれば46人中14人が今季はリーグワンのチームに所属している。

W杯決勝の最優秀選手に選ばれた南アのピータースティフ・デュトイ(トヨタヴェルブリッツ)、ワールドラグビーの年間最優秀選手に輝いたNZのアーディー・サベア(コベルコ神戸スティーラーズ)、同賞を過去2度受賞しているNZのボーデン・バレット(トヨタヴェルブリッツ)など、世界ラグビーのトップスターがごっそり日本に来ているのだ。サッカーにたとえれば、メッシとロナウドとネイマールがJリーグの試合で対戦しているようなもの、と言えば良いだろうか。

コベルコ神戸スティーラーズに新加入したアーディー・サベア(右)とブロディ・レタリック。ともにW杯に出場したNZ代表選手(2023年12月1日、兵庫県神戸市) 時事
コベルコ神戸スティーラーズに新加入したアーディー・サベア(右)とブロディ・レタリック。ともにW杯に出場したNZ代表選手(2023年12月1日、兵庫県神戸市) 時事

そもそも「リーグワン」とはどんなリーグなのか。

日本ラグビー協会は2022年1月、それまでの「トップリーグ」を発展させた新リーグ「リーグワン」を発足させた。

企業チームで構成されていたトップリーグとは異なり、新リーグでは、地域名を押し出した参加チームが運営資金を稼ぎ、利益を生み出し、社会的価値を上げる存在になること、そして、欧州カップ、南半球のスーパーラグビーと並ぶ世界ラグビーの第3極を目指すというミッションが与えられた。それは観客動員、放映権料やグッズ販売、地元自治体や地域経済への貢献から富裕層向けの高額ホスピタリティーチケット販売まで、世界で成長を続けるスポーツビジネス市場へ参戦することも意味していた。

それが、海外のトップ選手が大量に来日する流れを作った。

トップリーグ時代もNZやオーストラリアなどから世界のトップ選手が来日していたが、その多くは母国での代表キャリアを終えたレジェンドがセカンドキャリアを過ごす形だった。オーストラリア代表SHとして当時世界最多の139キャップを数えたジョージ・グレーガンが、35歳でサントリーサンゴリアスに加わったのが代表例だ。

現役バリバリの代表選手が大量に来日するようになったのは2019年以降のこと。同年のW杯日本大会で活躍し、NTTドコモに加わった南ア代表WTBマカゾレ・マピンピ、NZ代表SHのTJペレナラ、2020年度にサントリーに加わったNZ代表SOボーデン・バレット、トヨタに加わったオーストラリア代表FLマイケル・フーパーらは、1シーズン日本でプレーすると母国に戻り、再び代表として世界での戦いを目指した。

NZ代表ボーデン・バレットは今季トヨタヴェルブリッツに加入し、3シーズンぶりに日本ラグビーに復帰した(2023年12月16日、神奈川県・日産スタジアム)共同
NZ代表ボーデン・バレットは今季トヨタヴェルブリッツに加入し、3シーズンぶりに日本ラグビーに復帰した(2023年12月16日、神奈川県・日産スタジアム)共同

それから4年。コロナ禍を経て世界ラグビーの枠組みも変化した中、世界のトップ選手の来日はさらに加速している。

世界一の展開スピード

いったいなぜ? その質問に、今季トヨタに加入したオールブラックス125キャップのレジェンドSH、アーロン・スミスはこう答えた。

「ラグビーの世界ではW杯の4年サイクルごとに、次のチャンスを求めて選手が動くよね。僕自身は2019年W杯の時に10週間ほど滞在して日本の文化に触れたことで、ぜひまた戻ってきたいと思ったんだ。日本のチームでプレーした選手たちから話を聞いたし、日本の速いラグビーは自分に合っていると思った。それに僕は歴史が好きだから、日本の歴史をもっと深く知りたいと思ったんだ。城とか歴史的な建造物も見に行きたい。もちろん、日本の食べ物も大好きだよ」

ラグビー選手に人気の食事がラーメンと焼き肉。特にオールブラックスの選手の間では「とんこつラーメン」が評判だ。その脂っこさから日本ではアスリート食のイメージは薄いが、海外のラグビー選手から見ると十分にヘルシーなメニューなのだという。

アーロンのように環境面での魅力を挙げる選手は多い。治安の良い日本は、遠征の多いラグビー選手にとって安心して子育てができ、かつ家族で過ごせるアトラクションの多い環境なのだ(ラグビー熱の高いNZの選手にとっては、母国にいる時ほど注目されない心地良さもあるそうだ)。NZやオーストラリアの選手にとっては時差がなく、ワンフライトで母国からアクセスできることも魅力だ。日本ではどこにでも設置されている温水洗浄便座の人気も隠れたファクターだという。

もちろん、スター選手を引きつけるのはグラウンド外のファクターだけではない。今季のリーグワンには、W杯2023に参加した選手たちが大量に参加。昨年12月15日に東京サンゴリアスから追加加入選手として発表されたアルゼンチン代表SOニコラス・サンチェスも含め28人に上る(昨年12月20日現在。負傷等で登録を外れている選手を含む)。

現役のインターナショナル選手が続々やってくるのは、ピッチの中が充実してこそだ。その事情を明快な言葉にしてくれたのは、昨季から横浜キヤノンンイーグルスでプレーする南ア代表SHファフ・デクラークだ。

「世界のラグビーが高速化する中で、世界で最も展開が速い日本のリーグでプレーすることは、自分のキャリアアップにつながると思って来日を決めた」

南アはNZやオーストラリアと異なり、国外リーグでプレーする選手も自国代表に選出している。今回のW杯決勝に出場した南ア代表のうち、昨季以前から日本でプレーする選手はSHデクラーク、CTBジェシー・クリエル(横浜イーグルス)ら6人がいたが、それだけではない。

W杯フランス大会決勝戦ではキックで魅せた南ア代表ハンドレ・ポラード(2023年10月28日、フランス・サンドニ) AFP=時事
W杯フランス大会決勝戦ではキックで魅せた南ア代表ハンドレ・ポラード(2023年10月28日、フランス・サンドニ) AFP=時事

トップリーグ時代を含め、以前日本でプレーした経験を持つ選手も多い。100%キックでW杯優勝に貢献したSOハンドレ・ポラード(元キヤノン、NTTドコモ)、LOエベン・エツベス(元NTTドコモ)、NO8ドウェイン・フェルミューレン(元クボタ)ら5人を含む、23人中ほぼ半数の11人が日本ラグビー経験者だった。世界で最も腕っぷしの強いフィジカルなラグビー文化で育った南アの選手にとって、日本でプレーすることは自身の武器を増やすことだったのだ。

かくして今季のリーグワン第2節、南アのデクラークとNZのスミスがW杯決勝に続き“トイメン”対決した、横浜キヤノンイーグルス対トヨタヴェルブリッツ戦は、日産スタジアムにリーグワンのレギュラーシーズン新記録となる3万1312人の観衆を集めた。

さらに翌日、味の素スタジアムではNZのサム・ケイン主将、南アFBチェスリン・コルビを擁する東京サンゴリアスと、NZのSOリッチー・モウンガとFLシャロン・フリゼルを擁する東芝ブレイブルーパス東京が激突。入場者数3万1953人と前日の最多観衆記録を更新した。

同じ日、静岡県磐田市のヤマハスタジアムでは、静岡ブルーレヴズの南ア代表クワッガ・スミスとコベルコ神戸スティーラーズのNZ代表アーディー・サベアが背番号7で“トイメン”対決。人口17万人弱の地方都市のスタジアムにほぼ満員、1万2841人の観衆が集まった。

世界一のリーグへ

これだけのリーグを世界が放っておくわけがない。リーグワンの試合は今季からNZ、そして南アを含むアフリカ全土で放映が決まった。デクラークは3万人の前でプレーしたトヨタ戦のあと「南アの家族や友達がみんなライブ放送を見てくれているんだ。世界でも有数の選手が集まって、素晴らしいラグビーをしているからね。日本のラグビーが発展している一員になれてうれしいよ」と笑顔で話した。

ワールドカップ4大会に出場した日本代表の象徴・リーチマイケル(東芝ブレイブルーパス東京)はリーグワンを「世界一のリーグになると思う」と夢を口にした。

日本代表の象徴的存在リーチマイケル。今季も東芝ブレイブルーパス東京で体を張る(2023年12月9日、東京・味の素スタジアム) 時事
日本代表の象徴的存在リーチマイケル。今季も東芝ブレイブルーパス東京で体を張る(2023年12月9日、東京・味の素スタジアム) 時事

「世界一のリーグ」とは何だろう?

リーグの価値は、世界のトップ選手が集まるだけでなく、デクラークが言うように「プレーすることがキャリアアップにつながる」ことでさらに高まる。スター選手だけでなく、若手選手がリーグワンでの活躍でキャリアアップして、自国の代表に選ばれることになれば、さらに夢は広がる。また、リーグワンの試合観戦のため来日する海外のファンが増えれば、地域経済の活性化、地域のブランド価値向上にも貢献できる。それはプロスポーツチームの大きな存在意義だ。

課題もある。リーチは「日本の若い選手が経験を積む機会が減っている」と指摘する。

シーズンの短いリーグワンでは、1つの勝敗が大きく順位に影響するだけに、どうしても中軸選手が試合に出続けることになる。すると、若手が試合に出る機会はなかなか増えない。サテライトリーグなど次世代選手が経験を積む場を作る必要性はかねて指摘されているが、なかなか実現しない。

リーチは同時に「アジア枠も復活してほしい。日本がもっと強くなるにはアジアの各国が強くなることが必要だ」とアジアのマーケットにも言及している。

もうひとつの懸念はクラブの運営状況だ。

リーグワンは参加チームに法人化、事業化を求めているが、現実には運営費や人件費が、入場料などクラブの収入ではなくオーナー企業の予算で組まれているケースが多い。プロスポーツでは一般的なサラリーキャップも導入されていない。リーグワンの多くが企業チームとしての歴史を持ち、そこに社員として所属しながらプレーする選手が多いことも背景にあるのだが、それがチーム間の戦力格差の拡大につながっている。

さらにこれまでも、母体企業の経営状況や経営方針の変化でチームを解散させた例が散見される。そういう判断が下されないよう、ラグビーチームは利益を生み、社会に貢献し、地域に必要な存在にならなければいけない。

それでも、リーグワンには他国にはない魅力と可能性がある。

リーグワンには世界のトップレベルの国だけでなく、さまざまな国の選手が集まる。今季でいえば、W杯未勝利のナミビアからSOティアン・スワネポールがディビジョン2の東葛グリーンロケッツに加入し、オーストラリア代表SHニック・フィップス、ウエールズ代表LOジェイク・ボールらとプレーしている。他国のリーグではなかなか見られない組み合わせが実現しているのだ。

全地球から選手が集まっているリーグワンは、世界に追いつくだけでなく、世界のどこにもないオンリーワンの魅力を持つリーグへと成長してほしい。それはきっと、異なるバックグラウンドを持つ人が多様性を認め合ってともに前進する、未来の世界の姿も示してくれるはずだ。

◆W杯2023に出場し今季リーグワンに所属する各国代表◆

ニュージーランド代表

  • ブロディ・レタリック 神戸S
  • シャノン・フリゼル BL東京
  • アーディ・サベア 神戸S
  • アーロン・スミス トヨタV
  • ボーデン・バレット トヨタV
  • リッチー・モウンガ BL東京
  • デイン・コールズ S東京ベイ
  • サム・ケイン 東京SG

南アフリカ代表

  • フランコ・モスタート 三重H
  • ピーターステフ・デュトイ トヨタV
  • クワッガ・スミス 静岡BR
  • ファフ・デクラーク 横浜E
  • ダミアン・デアレンデ 埼玉WK
  • ジェシー・クリエル 横浜E
  • チェスリン・コルビ 東京SG
  • マルコム・マークス S東京ベイ

オーストラリア代表

  • マシュー・フィリップ 横浜E
  • サム・ケレビ  浦安DR
  • マリカ・コロインベテ 埼玉WK

ウェールズ代表

  • ガレス・アンスコム 東京SG
  • リアム・ウィリアムズ S東京ベイ

サモア代表

  • タレニ・セウ S愛知
  • リマ・ソポアンガ 江東BS

トンガ代表

  • チャールズ・ピウタウ 静岡BR
  • オーガスティン・プル 日野RD

アルゼンチン代表

  • パブロ・マテーラ 三重H
  • ニコラス・サンチェス 東京SG

ナミビア代表

  • ティアン・スワネポール GR東葛

バナー写真:横浜キヤノンイーグルスとトヨタヴェルブリッツの一戦では、NZ代表アーロン・スミス(中央左)と南ア代表ファフ・デクラーク(左)の対決が注目を集めた(2023年12月16日、神奈川県・日産スタジアム) 共同

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