アジの三枚おろしやすし作りで、日本の魚食文化や海洋環境の変化を体感:在日外国人向けに「日本さばける塾」開催
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「日本さばける塾」の多言語化をサポート
法被に前掛けの板前スタイルで包丁を握り、真剣な顔でアジを三枚におろすのは日本在住の外国人たち——。都内の料理教室で11月29日、魚をさばく体験を通じて日本の魚食文化や海を取り巻く問題を学ぶ「Sabakeru: Sustainable Seafood Culture from the Japanese Kitchen」が開催された。
この講座は豊かで健全な海を未来に引き継ぐことを目指し、日本財団が推進する「海と日本プロジェクト」の一環。これまでは「日本さばける塾」として主に子どもを対象に全国各地で開催してきたが、今回は初の試みとして日本在住の外国人を対象とし、ニッポンドットコムが参加者募集やマニュアル作成、通訳など多言語化をサポートした。
魚さばきに挑戦したのは米国やカナダ、ペルー、インド、フィリピン、台湾、モロッコなど12の国と地域出身の17人。当日は英語での同時通訳はもちろん、参加者の母国語に合わせてスペイン語や中国語、アラビア語を担当するニッポンドットコムの翻訳スタッフを配置。講師の通訳や参加者の調理を手伝った。
アジをさばいて、寿司の原型・柿の葉ずしに
講座といっても楽しい雰囲気で、堅苦しさはない。まずはすしネタを一切れ食べてもらい、「何の魚でしょうか?」とクイズを出題。「マグロやサーモンのような味がしますが、実はコンニャク」という予想外の答えに、一同から驚きの声が上がる。さらに「この食品は海洋資源の枯渇を防ぐために活用されている」との解説に、真剣に耳を傾けていた。
そして本番、日本で最もポピュラーな魚・アジを使って「三枚おろし」にチャレンジ。国内外で100店舗以上を展開する「がってん寿司」(本店:埼玉県深谷市)で料理人を指導する村田宏さんが手本を見せると、参加者はその手際の良さに見入っていた。
魚さばきの経験者も数人はいたものの、ほとんどが初心者なので調理台ごとに講師が付いて直接指導。身をつぶさず、スーッと刃が入る包丁の切れ味に感心したり、硬い骨に悪戦苦闘したりしながら、全員が見事切り分けに成功した。
さばいたアジは塩を振ってから酢で締めて、にぎりずしよりも長い歴史を持つ「柿の葉ずし」のネタに。古都・奈良の名産品で、“すしの原型”ともいわれるものを自ら体感してもらおうという趣向だ。こちらは創業1861(文久元)年の老舗「柿の葉ずし 平宗」(本店:奈良県吉野町)の平井孝典社長と飯田恭代さんが指導した。
講師の実演を見ながら、切り身をシャリに載せ、柿の葉っぱで巻いて木箱に詰めていく。参加者が手こずっていると、飯田さんから「ベテランは1時間で600個を巻くことができる」と聞いて一同あぜん。柿の葉の抗菌作用や保湿力を生かした保存食なので、完成したすしの折り詰めは各自の手土産となった。
すしネタで海洋環境の変化を実感
最後のレッスンは、ブリ・フグ・アイゴ・ウニを使ってすしにぎりに挑戦。事前講義では、日本さばけるプロジェクトの國分晋吾事務局長が「ブリは富山や新潟といった北陸産が有名だったが、今では北海道で一番漁獲される。同様に、山口県下関の名物・フグは東北地方、後ほどみそ汁で出すイセエビは三重県の伊勢地方から茨城県や福島県に産地が北上した。アイゴやウニは、海水温が上昇すると活性化して大量に海藻を食べるため、海の中をはげ山のようにしてしまう」と、ネタを選んだ理由を解説した。
参加者も海産物が地球温暖化の影響を受けている現状を知り、真剣な表情でおのおの10貫のすしを握った。
お待ちかねの実食タイムでは、全員で「いただきます」とあいさつして、頂く命とそれを育む自然に感謝。参加者同士で会話を交わしながら、手ずから握ったすしと村田さん特製のイセエビのみそ汁に舌鼓を打った。さばいたアジの骨も「骨せんべい」にして提供。できるだけ魚を無駄にせず、工夫しておいしく頂く“もったいない精神”にも触れてもらった。
さばけるマスターたちが海の未来に貢献
最後に「さばけるマスター」認定書を手渡し、講座は幕を閉じた。参加者からは「魚をさばくのは想像以上に難しく、貴重な体験だった。今後はさらに料理人をリスペクトし、海の自然も大切にしたい」「海洋資源のサステナビリティについてもっと学びたい」「丁寧な指導と母国語での手厚いサポートに感謝。夫婦で楽しめた」「次は漁港巡りツアーを開催してほしい」と、さまざまな感想が寄せられた。
國分さんは「日本さばける塾は魚をさばくだけでなく、さばくことを結節点にいろんな人とつながれるのが魅力」と語る。地道な活動を積み重ね、人の輪を広げていくことで、海洋環境問題を“さばける”ようなムーブメントが生まれるはず。ニッポンドットコムも協力を続けていく。
取材・文=ニッポンドットコム編集部
写真=川本 聖哉