ワーナー・ディアンズ:規格外のポテンシャルを持つ202cmの新星─ラグビーW杯日本代表の注目選手(4)
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まだまだ成長中の21歳
2002年4月生まれの21歳5カ月。ラグビーワールドカップ2023を戦う日本代表の最年少プレーヤーの身長は、日本協会の公式表記で201cmと代表史上最も長身だが、実はそれも控えめな数字だった。ワールドカップ前の取材で、ワーナーは流ちょうな日本語でこう答えたのだ。
「最近測ったときは202cmでした(笑)」
声は大きくない。言葉も丁寧だ。だがそんな21歳は「ワールドカップでの抱負は?」の問いに対し、「世界一のロックになりたい。同じポジションで出ている選手で一番の選手と言われたい」とスケールの大きな言葉を口にした。
日本ラグビー界が初めて得た、規格外のポテンシャルの持ち主だ。
ニュージーランド生まれのワーナーは14歳の時、日本のNEC(現・グリーンロケッツ東葛)のトレーニングコーチに就任した父・グラントさんと一緒に来日。つくばインターナショナルスクールを経て、流通経済大学付属柏高校に進学した。高校入学時の身長は185cm。長身だったが身体は細く、1年の時は公式戦出場ゼロだった。
高校2年になった19年、日本でラグビーワールドカップが開かれた。ワーナーが暮らす千葉県柏市に、母国ニュージーランド代表オールブラックスがキャンプにやってきた。そこでワーナーは少年時代の憧れの選手で、世界最高のロックと呼ばれたブロディ・レタリックと再会した。レタリックはかつて、グラントさんがトレーナーを務めていたチームに所属していて、小学生時代のワーナーとも何度も会っていた。身長2mに成長した少年に、レタリックは「大きくなったなあ」と目を丸くした。
レタリックとの再会、ワールドカップで見たオールブラックスの戦い、日本代表の戦いが、ワーナーの心に火をつけた。「世界一のロックになりたい」という夢が自分の中に膨らんできた。
日本のラグビー環境で得たスキル
日本のラグビー環境もワーナーを鍛えた。体格の大きくない日本の高校生と一緒に練習するには、姿勢を低くしなければならない。馬跳びや股くぐりなど日本の地味で伝統的な練習メニューは身体の柔らかさを養った。大阪・花園ラグビー場で行われた全国高校大会(通称「花園」)では、膝元に向かってくる相手タックラーから身体を深く折りたたんでボールを守り、ハンドオフしながら突進するワーナーの姿があった。
高校2年ではロックで、高3ではチームのバランスからナンバー8で花園に出場し、2年続けて全国8強入り。そして高3の花園でワーナーは「日本代表になりたい」と明言。高校を卒業すると多くの大学の誘いを断り東芝ブレイブルーパス東京に入団し、フィジカル自慢の先輩たちにもまれて練習する中で加速度的に成長した。
社会人入りして半年後の21年9月には、シニアレベルでの公式戦デビューもないまま19歳5カ月で日本代表候補に招集され、同年11月には欧州遠征のポルトガル戦で初キャップを獲得した。
最大の武器は長身。だが、ラインアウトなどの空中戦で活躍するだけではない。長身を懐深く折りたたむと、タックルに来た相手が腕を伸ばしてもボールに届かない。低い姿勢からのハンドオフは、地味なトレーニングで鍛えた足腰に蓄えた筋力で相手を押しのける。
22年1月には再編されたリーグワンの開幕戦で、ブレイブルーパスの初トライを記録。22年10月には来日したオールブラックスとのテストマッチにロックで先発し、相手キックをチャージしてそのままトライ。リーグワン2022−23シーズンのクボタスピアーズ船橋東京ベイ戦では、試合終了直前に自陣ゴール前から相手ゴールラインまで90mを走り切る衝撃的なトライを披露。高さと強さ。そして速さ。さらにまぶしい若さ。あらゆるポテンシャルを21歳は兼ね備えている。
目標は「世界一のロック」
ワールドカップイヤーは6月からの事前合宿で負傷が続き、7月~8月のウォームアップゲームをすべて欠場。しかし9月10日、日本代表のワールドカップ初戦となったチリ戦で、ワーナーは背番号19のジャージーを着てベンチ入り。後半15分から交替でピッチに入ると、巨体を低くたたんで相手にタックルを浴びせ、ボールを持っては相手タックルの中を前進。終了直前には相手ゴール前の混戦でボールを持ち、ワールドカップデビュー戦でトライまで決めて見せた。
「サイコーすね。ずっと夢見ていたワールドカップでプレーできて、うれしかった。自分の強みの高さと身体の大きさ、フィジカルを生かしたプレーでチームに貢献できるようがんばりました」
日本はラグビーワールドカップの再招致を目指している。現在決まっているのは2031年まで。2035年以降の招致レースには日本も参戦する意向だ。もしも2035年の日本開催が実現したなら、その時ワーナーは33歳。日本代表の大黒柱、もしかしたらキャプテンを務めているかもしれない――そんな未来まで妄想してしまう。
だが、はるか未来の話よりも、まずは目の前のトーナメントだ。ワールドカップフランス大会に挑むワーナーに、まず21歳の最高到達点を見せてもらおう。そこには「世界一のロック」の称号が待っている。
バナー写真:W杯チリ戦では後半15分に投入され、インパクトプレーヤー(流れや局面を変える選手)として十二分の働きを見せた(2023年9月10日、フランス・トゥールーズ) AFP=時事