姫野和樹:「パッション」でチームをけん引する新キャプテン─ラグビーW杯日本代表の注目選手(1)
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よりたくましく成長した「ジャッカラー」
8月15日の日本代表発表会見で、ワールドカップのキャプテンとして発表されたのが姫野和樹だ。愛知県出身の29歳。187cm、108kgの雄大な体格。太くたくましい両腕両脚が生み出す前進力はワールドクラスだ。
姫野といえば、もはや代名詞となっているのが、向かってきた相手からボールを奪い取る「ジャッカル」だ。味方がタックルに入り、倒れた相手が抱きかかえて守ろうとしたボールの隙間に、自分の両腕をねじ込み、自分は立ったままでボールを奪い取る。長い笛が鳴る。レフェリーが「ノット・リリース・ザ・ボール!」と反則をコールする。折り重なった人の山から起き上がった巨漢が、拳を振り上げ雄たけびを上げる──。
2019年W杯で世界のトップ選手たちを相手にそんな場面を連発し、「ジャッカラー」の称号を獲得した男は、世界がコロナに襲われた時間も前進をやめなかった。20-21年には所属するトヨタを離れて単身ニュージーランドに渡り、スーパーラグビーのハイランダーズでプレー。ラグビー王国でフォワードのエースたるナンバーエイトのポジションを獲得し、オールブラックスを狙う精鋭たちを相手にジャッカルとアタックで渡り合い、新人賞まで獲得する。
しかし本人は「僕はもう日本代表でW杯でもプレーしている。ニュージーランドの若い選手にあげてほしい」とオトナのコメント。ラグビー王国に対しても、世界のトップ選手に対しても、相手を大きく見ることなく立ち向かい、突き進み、道を切り開く。
どこまでも伸びるポテンシャル
ラグビーを始めたのは愛知県名古屋市の御田(みた)中に入学した時。すでに身長170cmに達していた大柄な少年は、走っても当たってもいいラグビーというスポーツに夢中になった。強豪の春日丘(現・中部大春日丘)高に進むと、高3の終わりには高校日本代表のカテゴリーを飛び越え、大学生や社会人選手とともに未来の日本代表の「ジュニアジャパン」に選出される。
大学1年の春には、ニュージーランドから来日したNZU(ニュージーランド大学選抜)と戦うU20日本代表に選ばれ、チーム最年少ながらキャプテンを務めた。帝京大時代は負傷がちで下級生時代は活躍の場も少なかったが、その間に徹底して身体作りに励んだことが才能をさらに大きく育てた。けがから復活した大学3~4年時はパワフルなプレーで何度も相手ディフェンスを突破して、帝京大学の大学選手権8連覇の原動力となった。
そしてリーダーとしても成長する。17年に大学を卒業してトヨタヴェルブリッツ入りすると、この年着任したばかりで元南アフリカ代表監督としてW杯優勝も経験しているジェイク・ホワイト監督は、ルーキー姫野をいきなりキャプテンに指名する。世界の頂点を知る名将は、活躍の場を与えればどこまでも伸びる姫野のポテンシャルを見抜いていたのだ。
かくしてルーキーの姫野はトップリーグ(当時)開幕からキャプテンとして、ナンバー8としてピッチで暴れ続け、トップリーグの新人賞を獲得。ルーキーシーズンの秋には日本代表にも初めて選出され、初キャップとなったオーストラリア戦では相手タックルを弾き飛ばすパワーを披露し、タックルの森を突き抜けるトライも決めて見せる。姫野の名が日本代表に欠かせない存在になった。そして19年W杯で活躍。ニュージーランドでの武者修行では世界のレジェンド、リッチー・マコウとも友誼(ゆうぎ)を得た。
目指すは歴代最高のキャプテン
そして2023年。日本代表で初めてキャプテンを任された7月のオールブラックスXV戦では「大事なのはパッションを出していくこと」と熱い言葉でチームを焚(た)きつけた。
「僕はユタカ(副将の流大=ながれ・ゆたか=)のように、しゃべってチームをリードするタイプじゃない。できるのはグラウンドの中で自分のベストのプレーを出すこと。グラウンドでのパフォーマンスで存在感を出して、選手にも見ている人にもパッションを感じてもらえればいいと思う」
放たれるメッセージは常にポジティブで、熱い。それは、過去2大会連続でキャプテンを務めたリーチマイケルを意識した言葉にも表れる。
「いままでリーチさんの背中を見て、こんな選手になりたいと思って追いかけてきたけど、これからは超えていかなきゃいけない。日本代表の歴代で最高のキャプテンと言われるようにがんばりたい」
キャプテンにはレフェリーとのコミュニケーションも求められる。日本人選手には英語のハードルが高いが「海外でもプレーしてきたし、ラグビーの英語は大丈夫です」ときっぱり。うまくいくと思ってチャレンジする姿勢が頼もしい。姫野のポジティブなパワーが日本代表を次のステージに導く。
バナー写真:テストマッチのニュージーランド戦でスクラムを組む姫野。本職はナンバー8だが、この試合ではフランカーとしてプレーした(2022年10月29日、東京・国立競技場)時事