役所広司のカンヌ男優賞で注目集める「THE TOKYO TOILET」:全17カ所の公共トイレを渋谷区に譲渡
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きれいな公共トイレが、日本の良いイメージに
5月に開催された「第76回カンヌ国際映画祭」において、『PERFECT DAYS』に主演した役所広司が男優賞に輝いた。日本人としては『誰も知らない』(2004年、監督・是枝裕和)での柳楽優弥以来、19年ぶり2人目の快挙。東京・渋谷の公共トイレで清掃員として働く、寡黙な男を演じた。
6月13日に行われた日本記者クラブの会見で、「清掃員という役柄にすごく魅力を感じた」と振り返った。さらにドイツの鬼才、ヴィム・ヴェンダース監督にもオファーしていることを知り、「こんなプレゼントはない」と出演を決めたという。
映画の舞台となった個性豊かな公共トイレは、日本財団が推進する「THE TOKYO TOILET」プロジェクトが整備したもの。設計を担当したのは安藤忠雄や隈研吾、坂茂、NIGO、マーク・ニューソンといった世界的なクリエイター16人で、公共トイレが持つ「4K(汚い・くさい・暗い・怖い)」のイメージを、斬新なデザインの力で払拭(ふっしょく)することを目指している。プロジェクトを発案し、資金提供したのはユニクロを展開するファーストリテイリングの柳井康治取締役で、『PERFECT DAYS』の製作も担った。
役所は実際の清掃スタッフから2日ほど指導を受けて撮影に臨み、現場でもたびたびアドバイスを求めた。「公共トイレに対するイメージは変わったか」という質問に、「日本では、あらゆるものに神様が宿っていると言う。台所にも、トイレにも。公衆トイレがきれいだというのは、日本の良いイメージにつながると思う」と答え、「本当に頭が下がる立派なプロジェクト」と評価する。
受賞が決まった時、周りのスタッフが喜ぶ姿を見ながら「本当に僕は幸せだな」と実感したそうだ。今後は映画界の若手育成にも力を入れ、「日本映画の中には素晴らしい先輩たちがたくさんいる。そういう時代に少しでも戻れるように貢献できたら」と抱負を述べた。
今後の清掃やメンテナンスが大事
「THE TOKYO TOILET」の17カ所のトイレは、2023年3月に全て完成。日本財団から渋谷区への譲渡式が、6月23日に催された。
日本財団が実施した調査によると、公共トイレを敬遠しがちな女性の利用者が、改修前に比べて軒並み増加しているという。元々使用率が低かった幡ヶ谷公衆トイレでは7倍強、西参道公衆トイレでは5.4倍まで伸びた。利用時の満足感も、44パーセントから9割近くまで上昇。不満を感じた人は3割弱から、10分の1の3パーセントまで激減している。
笹川順平常務理事は、改修前には満足感も不満も持たずに「どちらでもない」と答えた人が3割近くいたのが、8パーセントまで減少したことに着目。「公衆トイレはあって当たり前、汚くて当たり前で、使っても使わなくてもどちらでもいいと思われていた。そんな無関心層が一気に興味を持ってくれたのは、非常に大きな変化」と強調した。今後は地域全体のイメージアップにつながり、観光資源としても活用されることを期待する。
そのためにも、トイレを清潔に保つことが重要になる。質疑応答に登壇した柳井取締役は、映画を製作したきっかけについて「このプロジェクトを始めて、清掃やメンテナンスが大事だと痛感し、その大切さや尊さを、世の中にもっと正しく伝えたかった。それが賞という形で評価されて、とてもうれしい」と述べた。
日本財団では2023年度末まで、清掃・維持活動に協力する予定。柳井氏も「毎日使ってもらうことで、汚れたり、落書きされたり、(備品などを)壊されたりもする。自分の中では、このプロジェクトはまだ終わっていないと思っている」と支援を続ける意向。長谷部健区長は「譲り受けたわれわれは、どうきれいに維持していくかが課題になる」と同調しつつ、「トイレについてみんなで考えることで、公共のものを大切に使うという意識を高めていきたい」と決意を述べた。
「THE TOKYO TOILET」フォトギャラリー
■坂 茂
「はるのおがわコミュニティパークトイレ」(代々木5-68-1)&「代々木深町小公園トイレ」(富ヶ谷1-54-1)
■片山 正通/ワンダーウォール
「恵比寿公園トイレ」(恵比寿西 1-19-1)
■田村 奈穂
「東三丁目公衆トイレ」(東3-27-1)
■槇 文彦
「恵比寿東公園トイレ」(恵比寿 1-2-16)
■坂倉竹之助
「西原一丁目公園トイレ」(西原1-29-1)
■安藤忠雄
「神宮通公園トイレ」(神宮前6-22-8)
■NIGO
「神宮前公衆トイレ」(神宮前1-3)
■隈研吾
「鍋島松濤公園トイレ」(松濤2-10-7)
■伊東豊雄
「代々木八幡公衆トイレ」(代々木 5-1-2)
■佐藤可士和
「恵比寿駅西口公衆トイレ」(恵比寿南1-5-8)
■佐藤カズー/ Disruption Lab Team
「七号通り公園トイレ」(幡ヶ谷2-53-5)
■後智仁
「広尾東公園トイレ」(広尾 4-2-27)
■マーク・ニューソン
「裏参道公衆トイレ」(千駄ヶ谷4-28-1)
■マイルス・ぺニントン/東京大学DLXデザインラボ
「幡ヶ谷公衆トイレ」(幡ヶ谷3-37-8)
■小林純子
「笹塚緑道公衆トイレ」(笹塚1-29)
■藤本壮介
「西参道公衆トイレ」(代々木3-27-1)
写真=土師野 幸徳(ニッポンドットコム)
バナー:はるのおがわコミュニティパークトイレの清掃風景