インバウンドにも大人気! 日本独自の進化を遂げたキャンピングカー文化の最新事情

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新型コロナの影響もあり、この数年、プライベート空間ごと移動できるキャンピングカーの人気が爆発的に高まっている。業界団体「日本RV協会」の調査でも国内キャンピングカー保有台数は右肩上がりで増え続けており、2022年には集計を開始した05年の約3倍の14万5000台を記録。空前のブームを迎えつつある、日本のキャンピングカー文化の現状と日本独自の進化を探る。

一部愛好家の「趣味」から身近な「文化」へ

日本では従来、「キャンピングカー=キャンプをするためのクルマ」というイメージが強く、長年「一部の愛好家による趣味の世界」として位置づけられてきた。その傾向が大きく変化するきっかけとなったのが、2020年から23年にかけての新型コロナ禍だった。

3密回避を中心とした「新しい生活様式」が求められる中、「密を避けて感染を防ぎながら旅を楽しめる」「テレワークの拠点になる」「感染者の隔離施設として利用できる」などの有用性が幅広い層に広まったことで、キャンピングカーは愛好家による特殊な趣味の世界から、多くの人にとって身近な“文化”へと昇華した。

2月に開催された「ジャパンキャンピングカーショー2023」には300台以上の最新モデルが集結。5万人以上の愛好者らが会場を訪れた 著者撮影
2月に開催された「ジャパンキャンピングカーショー2023」には300台以上の最新モデルが集結。5万人以上の愛好者らが会場を訪れた 著者撮影

それまでのキャンピングカーユーザーはセカンドライフを楽しむ年配層が中心だったが、近年では小さな子供のいるファミリーや、趣味が中心のライフスタイルを送るユーザーにも人気が拡大。アウトドアや旅行のみならず、趣味やビジネス、災害時の避難所としてなど、マルチに使えるキャンピングカーの魅力をより幅広い層が享受している。

日本の交通事情に合った全長5m×全幅2mクラスのキャンピングカーが人気 著者撮影
日本の交通事情に合った全長5m×全幅2mクラスのキャンピングカーが人気 著者撮影

トヨタ・カムロードベースのキャンピングカー(全長5m×全幅2mクラス)の室内。ファミリーでもゆったりと生活できる、空間効率に優れたレイアウトが特徴だ 著者撮影
トヨタ・カムロードベースのキャンピングカー(全長5m×全幅2mクラス)の室内。ファミリーでもゆったりと生活できる、空間効率に優れたレイアウトが特徴だ 著者撮影

プライベート空間ごと移動できる機動性を生かし、観光や温泉、グルメなどを目的とした旅行を楽しむのが、キャンピングカーの使い方として最もポピュラーだ。海外では治安の関係上「キャンピングカーでどこでも寝られる」というわけにはいかないが、日本では高速道路のサービスエリアやパーキングエリア、一般道路に整備された道の駅などを活用しながら旅をするユーザーも多い。

ただし、これらの公共施設を利用する場合は「休憩・仮眠」の範囲で利用するのが前提で、長期滞在やキャンプ行為などのマナー違反は絶対にNG。日本RV協会では「公共駐車場におけるマナー10カ条」を掲げ、キャンピングカーユーザーのマナー向上に取り組んでいる。

《公共駐車場におけるマナー10カ条》

  1. 長期滞在は行わない
  2. キャンプ行為は行わない
  3. 許可なく公共の電源を使用しない
  4. ごみの不法投棄はしない
  5. トイレ処理は控える
  6. グレータンクの排水は行わない
  7. 発電機の使用には注意を払う
  8. オフ会の待ち合わせは慎重に
  9. 車椅子マークの所に駐車しない
  10. 無駄なアイドリングはしない

キャンピングカーを単なるブームではなく「文化」として根付かせるため、近年ではキャンピングカーのためのインフラ整備も急速に進んでいる。日本RV協会公認の車中泊施設「RVパーク」も増加しており、23年6月現在その数は全国350カ所以上。ゆったりとした駐車スペースや24時間使えるトイレ、AC100V電源などの設備を利用できるほか、給排水やゴミ処理も可能となっており、キャンピングカーで安心・安全に宿泊できる施設として注目を集めている。

独自の進化を遂げた国産キャンピングカー

日本製キャンピングカーは、キャンピングカー先進国の欧米車とは異なる独自性を有している。それを象徴するのが、日本の交通環境にマッチした「軽キャンパー」と呼ばれる小型キャンピングカーだ。

日本の都市部や観光地は交通量が多く、道路の幅や駐車場のサイズも狭いため、大型キャンピングカーでは走る道・止める場所にストレスを感じてしまうことがある。そこで、多くのユーザーが手軽に旅やキャンプを楽しめるように開発されたのが、コンパクトなボディサイズで抜群の機動性を実現した「軽キャンパー」だ。

居住用シェルを一体化した軽トラックベースの「軽キャンパー」。狭い道でもストレスフリーでドライブでき、維持費も安い 著者撮影
居住用シェルを一体化した軽トラックベースの「軽キャンパー」。狭い道でもストレスフリーでドライブでき、維持費も安い 著者撮影

軽トラックベースとは思えないほど快適な居住スペースを実現した、軽キャンパーの室内空間 著者撮影
軽トラックベースとは思えないほど快適な居住スペースを実現した、軽キャンパーの室内空間 著者撮影

日本独自の軽自動車規格(全長 3400mm以下/全幅 1480mm以下/全高 2000mm以下/排気量660cc以下)の車両をベースにした「軽キャンパー」は、世界中のどこを探しても見当たらない日本固有のカテゴリー。軽自動車規格の商用バンの車内を架装して1~2人分のベッドスペースを確保したライトなモデルが主流だが、中には軽トラックの後部に居住用シェルを一体化したモデルもあり、夫婦で旅をする年配ユーザーからソロユーザー、小さな子供のいるファミリーまで、幅広い層から人気を集めている。

最大のアドバンテージは、コンパクトなボディサイズがもたらす抜群の機動性。狭い道でもストレスなく走ることができ、都市部や旅先で駐車スペースに困ることもない。軽自動車ベースなので、高速道路料金や税金、保険、メンテナンス費用などの維持費が安く上がるのも大きなメリットだ。

リチウムイオンバッテリーでエアコンの長時間稼働を可能にするなど、オフグリッドシステムの進化も著しい 著者撮影
リチウムイオンバッテリーでエアコンの長時間稼働を可能にするなど、オフグリッドシステムの進化も著しい 著者撮影

電力を自給自足するオフグリッドシステムの充実も、日本製キャンピングカーの特徴のひとつだ。海外のキャンピングカーは、AC電源を完備したRVパークなどの利用を前提としているため、生活電源(サブバッテリー)強化の必要性は低い。しかし、日本のキャンピングカーは高速道路のサービスエリアやパーキングエリア、道の駅など、AC電源が確保できない場所で停泊する機会も多いため、場所を選ばずに電化生活を送れるオフグリッドシステムが急速な進化を遂げている。

高温多湿な日本の気候に対応するため、近年では家庭用エアコンを搭載したキャンピングカーが増加している 著者撮影
高温多湿な日本の気候に対応するため、近年では家庭用エアコンを搭載したキャンピングカーが増加している 著者撮影

生活電源の重要性に拍車をかけているのが、地球温暖化による平均気温の上昇だ。日本の夏は気温が35℃前後まで上がり、湿度も非常に高い。そうした環境下での車中泊は快適とはほど遠く、熱中症になるリスクもあるため、AC電源設備が使用できない環境でもエアコンを稼働できるように、サブバッテリーの大容量化や充電システムの強化が進んでいる。

サブバッテリーは、鉛バッテリーからより高性能なリチウムイオンバッテリーへの移行が進み、走行時の急速充電システムや大出力ソーラーパネルによる充電技術も年々進化。高温多湿の気候特性と、AC電源を接続せずに利用する機会が多い日本特有の使用環境が、高度なオフグリッドシステムを生み出す結果につながっている。

インバウンドによるレンタカー需要の高まり

キャンピングカー需要の高まりとともに、全国にキャンピングカー専門のレンタル店も増加している。店舗やシーズンによって異なるが、料金は24時間1万5000円~2万5000円程度が一般的。誰でも気軽にレンタルしてキャンピングカーライフを楽しめることから、家族旅行や若者のグループ旅行などに広く活用されている。

東京の玄関口である成田空港や人気観光地・北海道の新千歳空港など、空港に店舗を構えるレンタル店も多く、海外から日本を訪れる旅行客にもレンタルキャンピングカーが人気を集めている。

移動手段と生活空間を融合したキャンピングカーの利便性を生かせば、自由気ままに日本各地を周遊することが可能。19年に日本でラグビーワールドカップが開催された際も、キャンピングカーを長期レンタルして全国の会場を回る海外のラグビーファンが多く見られた。

レンタルキャンピングカーのインバウンド需要が特に高いエリアは、広大な土地と豊かな自然に恵まれた北海道だ。数えきれないほどキャンプ場があるので宿泊場所を探すのも容易で、高原、牧場、海、川、湖、林間などロケーションも選び放題。キャンピングカーなら設営・撤収に時間がかからず、キャンプギアの貸し出しを行っているレンタル店やキャンプ場も多いので、手ぶらでも気軽にアウトドアライフを楽しめる。

日中は観光に出かけ、キャンプ場に戻ったらBBQやたき火をしてキャンピングカーの車内で快適に就寝。レンタルキャンピングカーを活用すれば、北海道ならではの大自然を手軽に体験できる。

北海道屈指のワイルド系フィールド「朱鞠内湖畔キャンプ場」(北海道雨竜郡幌加内町字朱鞠内湖畔) 著者撮影
北海道屈指のワイルド系フィールド「朱鞠内湖畔キャンプ場」(北海道雨竜郡幌加内町字朱鞠内湖畔) 著者撮影

圧倒的な解放感が魅力の「とままえ夕陽ケ丘オートキャンプ場」(北海道苫前郡苫前町字栄浜67番地1) 筆者撮影
圧倒的な解放感が魅力の「とままえ夕陽ケ丘オートキャンプ場」(北海道苫前郡苫前町字栄浜67番地1) 筆者撮影

ウインターシーズンには、世界中のスキーヤーやスノーボーダーが北海道を目指して集まってくる。彼らの目的は、日本のパウダースノーを滑ることだ。

独特の浮遊感を味わえるパウダースノーは多くのスキーヤー&スノーボーダーの憧れだが、気象条件がそろわないと発生しないため、気温や天気を読んでスキー場を選ぶ必要がある。日によって滑る場所を変えるのは、ホテル泊まりだと非効率だが、居住空間ごと移動できるキャンピングカーなら「スノートリップ」も思いのまま。パウダー狙いはもちろん、ゲレンデを数カ所ハシゴするような楽しみ方にも、キャンピングカーの機動性が大きな武器になる。

パウダースノーを狙う「スノートリップ」にもレンタルキャンピングカーの機動性が役立つ 著者撮影
パウダースノーを狙う「スノートリップ」にもレンタルキャンピングカーの機動性が役立つ 著者撮影

固有の交通環境や気候特性に合わせて、独自の進化を続けてきた日本のキャンピングカー。その人気は右肩上がりで、車中泊インフラやレンタル体制も急速に整いつつある。現在は、空前のキャンピングカーブーム真っただ中。日常使いからレジャー、ビジネス、ホビーまで、誰もが気軽に「キャンピングカーのある生活」を楽しめる時代が到来している。

バナー写真:日本のキャンピングカー市場では、トヨタ・ハイエースをベースにした「バンコンバージョン」(北米での呼称は「class-B」)と、トヨタ・カムロードをベースにした「キャブコンバージョン」(同「class-C」)が人気 著者撮影

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