パリ五輪で飛躍を期すバレーボール男子ニッポン期待の21歳:「守備力」で世界と伍して戦う髙橋藍の魅力

スポーツ

昨年の世界ランキング7位。この6月には世界2位のブラジルに30年ぶりに勝つなど躍進著しいバレーボール男子日本代表にあって、高い守備力でチームに欠かせぬ存在が21歳の髙橋藍(らん)だ。躍動感あふれるプレーで観る者を惹(ひ)きつけ国外にもファンを持つ人気選手は、世界最高峰リーグのイタリア・セリエAで目覚ましい進化を遂げた。攻撃力にも磨きがかかる俊英が、自身の成長の軌跡を語った。

日本代表に欠かせぬ存在

男子バレーボール日本代表の2023年最初の公式戦は、6月6日に行われたネーションズリーグ・イラン戦。世界から16チームが集結する国際大会で、まずはアジア最大のライバルにセットカウント3-0で快勝した。

立ち上がりがすべてだったと言ってもいい。イランの強力なスパイクを、髙橋藍が正確な位置取りと技術で立て続けにレシーブ。そこから、主将の石川祐希のスパイクや相手のミスで連続ブレイク。スタートダッシュに成功した日本が試合の主導権を握った。

「チームとして、初戦ということで少し硬さはあったのかなと感じましたが、自分自身はリラックスしていました。後衛からのスタートだったので、ディフェンスがすごく重要になると思っていた。そこで最初の2本、しっかり上げ切ってブレイクを取り、いいスタートになった。出だしでまずしっかりとチームに貢献できたのかなと思います」

試合後、髙橋はそう言って胸を張った。

日本代表のフィリップ・ブラン監督が「日本はディフェンスが機能することによって調子を上げていくチーム」と言うように、身長で劣る日本が高さのある海外の強豪に勝つためには、守備力は不可欠。アウトサイドヒッターは成長著しい若手がそろい、ポジション争いが激しいが、今年も髙橋が日本に欠かせない存在であることを証明してみせた。

ネーションズリーグ初戦でイランに勝利して喜ぶ髙橋藍(中央右)ら日本代表選手(2023年6月6日、愛知県・日本ガイシホール) 時事
ネーションズリーグ初戦でイランに勝利して喜ぶ髙橋藍(中央右)ら日本代表選手(2023年6月6日、愛知県・日本ガイシホール) 時事

国際舞台で日本の男子バレーが勝てない時期が長く続いたが、時代は変わった。

2021年に開催された東京五輪で、29年ぶりに予選ラウンドを突破しベスト8入りを果たすと、昨年のネーションズリーグでは9勝3敗の快進撃で初めてファイナルラウンドに進出。準々決勝で東京五輪金のフランスに敗れたが、5位で大会を終え日本の進化を示した。世界ランキングは昨年、11位から7位にまで上昇した。

なぜ日本は強くなったのか。個の力の飛躍的な向上に、ブラン監督が構築する組織的なバレーがかみ合ったことが大きな要因だ。

個の力の向上においては、主将でエースの石川が果たした役割が大きい。石川は中央大学在学中から世界最高峰リーグのイタリア・セリエAでプレーし、目覚ましい成長を重ね日本代表の中心に。その後、海外リーグでプレーする選手が増え、日本人選手の考え方や視野が変わった。

日本のエース・石川祐希を追いかけて

その筆頭が髙橋藍である。日本体育大学4年の21歳は、その実力に端正なルックスもあいまって、インスタグラムのフォロワー数が130万人に達する人気選手だ。海外にもファンは多い。そんな髙橋にとっても石川は、京都・東山高校時代から憧れの存在だった。それでいて「石川さんは特別」ではなく、「自分にもできる」と考えたことが驚異的な成長速度につながった。

石川在籍当時の中央大で監督を務めていた松永理生氏が、その後、東山高のコーチとなり(現在は監督)、石川が取り組んでいた練習やトレーニングなどを髙橋が高校時代に学ぶことができたという幸運もあった。

高校3年の春の高校バレーでエースとして東山高を日本一に導くと、その年(2020年)日本代表に初選出される。そして、21年に開催された東京五輪に、日本男子史上最年少の19歳で出場。全試合で、石川の対角のアウトサイドとして先発出場した。

国際大会にデビューしたばかりでレギュラーを勝ち取ることができたのは、突出した武器があったから。それは守備力である。サーブレシーブもスパイクレシーブも、すでに代表の中でトップレベルにあった。

日本のエース、石川祐希がセリエA・ミラノで活躍する姿は、多くの若手の目標となっている 時事
日本のエース、石川祐希がセリエA・ミラノで活躍する姿は、多くの若手の目標となっている 時事

初めて日本代表に入った選手は、海外の選手のスピードとパワーのあるサーブやスパイクに面食らい、慣れるまでに時間を要するのが常だった。しかし髙橋は、すぐに海外勢のサーブにも対応し、東京五輪でポジションをつかんだ。なぜ若くして、そこまで高い守備力を備えていたのか。

その源は小学生時代にある、と髙橋は言う。

「もともと小学生でバレーを始めた時から、レシーブが好きだったし得意でした。練習試合から帰ったら親に『今日のレシーブ見た?』と言うぐらい。動き回るのが好きだったし、相手のスパイクを読んでボーンと上げた時って、すごく気持ちが良くて。小学生の時は身長が高かったわけではないので、レシーブをしなきゃいけなかったですし。お兄ちゃんの塁が打って、僕が拾うという形でしたね」

2歳上でチームのエースだった兄・塁(現在Vリーグ・サントリーサンバーズに所属)は、髙橋がバレーを始めるきっかけでもあり、レシーブ上達のキーマンでもあった。

「塁がバレーボールが好き過ぎて、2人で遊ぶときは常にボールを触っていました。練習が終わって家に帰ってからも、塁がうるさいぐらいに『藍、バレーしよう! パスしよう!』と言ってくるので、公園に行ってやっていましたね。自分たちでネットを作って、塁がスパイクを打って、自分はひたすらレシーブをしていました(笑)」

中学生になっても、最初は守備専門のリベロとしてプレーしていた。その後、攻守両方をこなすアウトサイドヒッターになったが、レシーブへの意識の高さは変わらなかった。

「身長がそれほど高くなかったので、やっぱりレシーブをしっかりセッターに返して、いいトスをもらわないと、自分がスパイクをいい状態で打てないというのがあったので」

中学3年で身長が伸び、攻撃力も備わっていったが、守備力は変わらず武器として磨き続けた。

東山高も守備練習を重視しており、高校時代は練習前後の個人練習も含めて「1日何千本も」守備練習に明け暮れた。

「とにかく子供の頃から数多く(レシーブを)取ってきたので、体に染み付いているのかなと。それプラス、自分が好きだったというところが、今のレシーブ力に生きているんじゃないかなと思います」

日本男子史上最年少19歳での五輪出場となった東京大会で、安定したレシーブを披露した髙橋(2021年8月3日、東京都・有明アリーナ) 共同
日本男子史上最年少19歳での五輪出場となった東京大会で、安定したレシーブを披露した髙橋(2021年8月3日、東京都・有明アリーナ) 共同

セリエA挑戦の理由

そのように守備に関しては確固とした土台と自信があるのに対し、東京五輪で髙橋自身が感じた課題は、海外勢の高いブロックに対するスパイクだった。

その課題を克服するため、日本体育大学に在籍しながら、世界最高峰のイタリア・セリエAでプレーすることを決意。東京五輪直後の2021-22シーズンからパドヴァに渡った。ただ合流が大学の試合を終えた12月となったため、セリエAのシーズンは約半分が終わっていた。ポジションはすでに固まっており、髙橋に与えられた出場チャンスはわずか。シーズン終盤には、守備力を買われてリベロとして起用された。

髙橋としては「自分の力を見せられる前にシーズンが終わってしまった」と不完全燃焼だった。

そこで2022-23シーズンは大学の試合には出場せず、セリエAの開幕前にパドヴァに合流することを決意。練習試合などで結果を残してアウトサイドでの開幕スタメンをつかみ、シーズンを通してレギュラーとしてプレーした。

バレーボールでは、特に海外では、どうしても高さのある選手に多くチャンスが与えられる。

「正直、バレーにおいては『高さは正義』だと思っています。高さがあれば、生かし方はすごくたくさんありますし、技術がそれほどなくても高さがあれば何とかなる部分って、バレーボールの中ではすごくあると思います」と髙橋は言う。

それでも、2m級の選手がそろうセリエAで、身長188cmとスパイカーとしては小柄な髙橋がポジションを勝ち取り、攻撃でも存在感を示し続けた。試合に出続ける中、相手に分析されても、得点を取るバリエーションを増やし対抗した。

「シーズンはすごく長いので、もちろん相手にデータを取られますし、毎試合自分の調子を100%に持っていくのは難しい部分もある。いい時も悪い時もありましたが、それが切り替える能力や、工夫してスパイクの引き出しを増やすきっかけになりました。(強打だけでなく)ソフトなスパイクを増やせたというのが一番の収穫なのかなと思います。相手コートをよく見て、高いブロックに対してどういうフェイントをすればコートに落としたり、ポイントにつなげられるかというところはすごく考えました。やっぱり高いブロックが来るほど、常に強打で決められるわけではないので。フェイントやブロックを利用した得点の取り方を意識して、引き出しを増やしていきました」

パドヴァでのシーズンを終えて帰国し、つかの間のオフをリラックスして過ごした 本人提供
パドヴァでのシーズンを終えて帰国し、つかの間のオフをリラックスして過ごした 本人提供

最高峰の舞台で得た経験

パドヴァでのシーズンを終え、帰国した髙橋の言葉には充実感が漂った。

「今シーズンは、自分にとってすごくいいものが得られました。まずチーム内の競争に勝って、開幕から先発でシーズンを通して出続けられ、チームに頼られる、軸になる存在になれたことは、これからの日本代表でも生かせる部分だと思います」

セリエAでの経験が確かに血肉になっていると、髙橋は今年の日本代表で示し続けている。その守備力はチームに欠かせず、攻撃でも大きな得点源となっている。

セッターの関田誠大はそんな髙橋について、「余裕が出ているというか、力が抜けている。やっぱり海外を経験したことで、いい意味でリラックスできて、非常にいいんじゃないかなと思います」と語っていた。

ネーションズリーグの予選ラウンド第2週を終えた(6月26日)時点で、髙橋は全試合に先発出場し、日本は開幕から8連勝で堂々の首位に立っている。第7戦ではリオ五輪金で世界ランキング2位(対戦前の時点)のブラジルから、公式戦では30年ぶりとなる歴史的な勝利を挙げた。デュースとなった第5セットの激戦を締めくくったのは、磨き上げてきた高橋のスパイクだった。

早くも日本代表の軸となっている21歳。今年9月には、来年のパリ五輪の出場権をかけたワールドカップが東京・国立代々木競技場で開催される。命運をかけた戦い に向け、髙橋の存在感はまだまだ大きくなっていくはずだ。

髙橋 藍(たかはし・らん)

2001年9月2日、京都府生まれ。小学2年でバレーボールを始める。京都・東山高3年時に全日本高校選手権で優勝。20年2月に日本代表初選出。日体大に進み、2年時の21年、東京五輪で日本の29年ぶりベスト8に貢献。同年11月にイタリア1部(セリエA)のパドヴァと契約。23-24シーズンはモンツァでプレーする。188cm、83kg。ポジションはアウトサイドヒッター。

バナー写真:快勝したネーションズリーグのイラン戦でスパイクを打つ髙橋(2023年6月6日、愛知県・日本ガイシホール) 時事

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