
観光客向けグルメは卒業!コロナ収束後におすすめの台湾ローカル「日常飯」
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食べるべきは「映える」料理より日常飯
2020年から世界中で猛威を振るった新型コロナウイルスもようやく収束の兆しが見えてきた。各国の水際大作が緩和され、日本でも外国人の姿が増えてきたようだ。ITを駆使した新型コロナウイルス感染対策で話題になった台湾も同様で、少しずつ観光客が増え、かつてのにぎわいが戻りつつある。
コロナ禍前は“映える” 料理に注目が集まっていた台湾だが、2022年末と年明けの2度訪台して感じたのは、その風潮が収まりつつある点だ。もちろん、今でもフルーツやアイスクリームが盛り盛りのかき氷や、肉をバラの花のように飾った鍋料理等、ついインスタグラムなどのSNSに挙げたくなるスイーツや料理は健在だ。だが観光客が減った現在の台北では、“見映え”を重視したものよりも、奇をてらわない昔から口にしている味を楽しんでいる地元の人の姿が目に付いた。
台湾を訪れたらやはり台湾ビールを飲みたい。台湾式居酒屋「熱炒(ラー・チャオ)」はどこも満席で、現地の人に交じって3年ぶりの台湾ビールをぐびっ。さあ、何を食べよう。あれもこれも食べたい、ああ、胃袋が5つほしい…。こういうときに食べたいのは、いかにも観光客向けの台湾グルメではなく、地元の人たちが日常的に味わう料理。
台湾料理といえば、日本人になじみの味は「小籠包(ショーロンポウ)」や「魯肉飯(ルーロー飯)」「牛肉麺」、大人の顔ほどの大きさの鶏唐揚げ「大鶏排」あたりだろうか。中国全土からの外省人の料理であふれる台湾のグルメが、それだけのわけがない。日本人が知らないおいしいローカルグルメはまだまだたくさんあるのだ。
小籠包だけじゃない、台湾に根付いた中国グルメ
まずは「酸菜白肉鍋」。一言で説明すれば、塩だけで乳酸発酵させた白菜の漬物の鍋だ。中国・東北地方の寒さの厳しい地域の庶民料理で、酸白菜と呼ばれる白菜の漬物と一緒に、豚バラ肉、羊肉、牛肉のスライス、イカや魚の団子、野菜などを煮込み、黒酢やゴマ油、豆腐乳、香油、ラー油、刻みネギ、刻みニラ、おろしニンニク、パクチー等、好みのタレと薬味で食べる。
日本人は、「漬物を鍋に? 温める?」と引いてしまうかもしれないが、これが旨い! カニやエビからとった出汁(だし)にほどよい酸味が加わると、こんなにも味わい深くなるのか。日本の鍋では味わえない深みのあるスープは、目からうろこのおいしさだ。タレ、薬味選びも楽しく、自分の「黄金比」を見つけたくなる。
酸白菜がなければこの鍋は成立しない。酸白菜は、厳寒の地で、冬の野菜不足を補うために生まれたもので、食材にあふれる台湾へ移住した中国北部出身の外省人が、故郷を思い出して食べていたのだろう。
庶民が工夫を凝らした秦代から続く屋台料理
台湾台北市内松山市駅前の「饒河街観光夜市」(撮影・ミヤジシンゴ)
中国本土からやってきた味はまだまだある。屋台料理「滷味」は、鶏肉や豆腐、野菜などの素材を並べてあり、その場で調理する店と、あらかじめ茶色く煮しめてある店と2種類ある。どちらも選んだ食材を食べやすい大きさにカットし、独自のスパイスを加えてビニール袋に入れてくれる。酒のつまみにも、白いご飯にも合い、しかも安い。優等生の屋台料理だ。日本人にはハードルの高いオーダーではあるが、挑戦してほしい台湾グルメのひとつだ。
実はこの滷味、中国・秦の時代に生まれたものとされている。皇帝が地方へ旅に出る際に、食材の端切れを使用人に与え調理させたのが始まりと言われている。滷味は昔も今も庶民の味方なのである。
当時使用人のことを鹵簿と呼んでいて、鹵簿の味=滷味という名前になったそうである。台湾・高雄に滷味博物館がある。気になる人は、高雄に旅行するときには、訪れてみてほしい。
台湾では、小麦粉麺、米粉麺、春雨、細麺、太麺、平たい麵など、多種多様な麵が味わえるが、冷めた麺にキュウリの千切りをのせてごまだれ、ラー油をかけた「涼麺」は日本人にはあまりなじみがない。
冷やし中華が麺をキンキンに冷やしているのに対し、涼麺は冷めた麺を使用する。甘めのごまだれに花椒などの薬味をたっぷり入れたラー油で食べると「好吃(おいしい)」以外の言葉がない。
暑い国の食べ物かと思いきや、涼麵はシルクロードが走る中国・陕西省の夏の風物詩だという。台湾ではみそ汁と合わせて朝ごはんとして食べるのが一般的。みそは涼麺のタレに含まれるニンニクのにおいを消す作用があるそうだ。台北の涼麺専門の食堂で、朝食を食べる高校生を見かけることがある。男の子たちが朝から麺類をもりもり食べている姿は、なんだか微笑ましい。もちろんランチやディナータイムでも提供するお店はあるので、ぜひ試してみてほしい。
台湾の風土が育んだ食材が生んだビール&ごはんが進む味
中国からもたらされた味を3つ挙げたが、台湾独自の料理ももちろんおすすめだ。日本ではお目にかかれないのが、「九層塔炒蛤蜊」。九層塔は台湾バジルのことで、イタリアンで使うスイートバジルとは風味が異なる。ハマグリと一緒に炒めて食べるとスパイシーな香りが鼻に抜け、口の中がすがすがしい。甘味の強い台湾のしょう油とハマグリの旨みが舌を刺激し、ビールやご飯が進み過ぎてしまう。
日本でどうしても九層塔炒蛤蜊を食べたくなってスイートバジルで挑戦したが、しょう油の違いもあり、残念ながらあの味にはならない。熱炒と呼ばれる居酒屋の定番メニューでもある。見かけたらぜひオーダーしてほしい。
もうひとつ、ぜひ食べてほしい料理が、「胡椒蝦」だ。中国には、ゆでる、蒸す、炒める、点心の具にするなど、エビ料理がたくさんあるが、胡椒蝦は台南発の台湾料理。丸い鉄鍋で、胡椒を手長エビにたっぷりかけて焼く。台南で手長エビが広く養殖されているため、生まれた料理のようだ。
胡椒蝦は両手でつかみ殻ごと頭からがぶりといく。手が汚れるのなんて気にしない。殻はカリカリ、身はぷりぷり、エビの甘味とこしょうの辛さが口の中であいまって、もうたまらない。ビール好きには危険な一皿だ。
台湾グルメとして有名な小籠包は、実は台湾発祥ではなく、上海料理のひとつだ。でも、肉餡を包む皮を極限まで薄くし、かんだ瞬間スープがじゅわっと口中に広がる今のスタイルにしたのは、台湾人の“おいしい”を突き詰める食への貪欲さだ。
台湾で生まれた味だけでなく、中国全土のごちそうが集まり、さらによりいっそうおいしくカスタマイズする台湾。コロナ収束後は、日本から飛行機で3時間ほどの食の都へ。台湾人に交じって、彼らが日常口にしているローカルグルメを食べてほしい。
バナー写真:台湾の夜市にある「滷味」の屋台(撮影・ミヤジシンゴ)