大谷翔平を筆頭に、過去最強「ドリームチーム」で3大会ぶりVに挑むWBC日本代表

スポーツ

3月8日に開幕する第5回ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)に、日本代表は過去最強の陣容で挑む。メンバーには二刀流で活躍する大谷翔平を筆頭に、ダルビッシュ有、吉田正尚などのメジャーリーガー、さらに日本球界からも三冠王の村上宗隆、2年連続沢村賞の山本由伸などがそろった。第1回、第2回大会と連覇しながら、その後はいずれも3位に終わった「侍ジャパン」。今回「ドリームチーム」を結成できた理由と、3大会ぶり優勝の可能性を探る。

メジャーリーガーも結集した「侍ジャパン」

第5回ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)に参加する日本代表「侍ジャパン」が、待望久しかった真の「ドリームチーム」と呼べる陣容となった。

オールプロによる野球のドリームチームは、国民的スター・長嶋茂雄監督の下に結成された2004年アテネ五輪の日本代表に始まる。しかし当時はチーム編成において制約も多く、メジャーリーガーの参加もない、未完成なままでのスタートとなった。

06年に開催された第1回WBCでは、初めてメジャーリーガーが参加したものの、イチロー(シアトル・マリナーズ)と並ぶ目玉だった松井秀喜(ニューヨーク・ヤンキース)が出場を辞退。その後もメジャーリーガーの辞退者が毎回のように出て、なかなか本当の意味でのドリームチーム結成には至らなかったのが現実である。

しかし今回は、投手では大谷翔平(ロサンゼルス・エンゼルス)を筆頭にダルビッシュ有(サンディエゴ・パドレス)、野手からも鈴木誠也(シカゴ・カブス)に吉田正尚(まさたか、ボストン・レッドソックス)とメジャーリーガーが参戦。国内組からは、昨年の三冠王・村上宗隆(ヤクルト)に、投手でも山本由伸(オリックス)や“完全男”の佐々木朗希(ロッテ)とトッププレーヤーが集結し、まさに日本の野球ファンが待ちに待った真のドリームチームの結成となったのである。

日本代表の強化試合で本塁打を放つ村上。22年はプロ野球史上最年少の三冠王を獲得した(2022年11月6日、東京ドーム) 時事
日本代表の強化試合で本塁打を放つ村上。22年はプロ野球史上最年少の三冠王を獲得した(2022年11月6日、東京ドーム) 時事

最強チーム結成の背景にあったのは、大谷が自身の日本代表への思いを振り返ったこんな言葉だったと思う。

「日本のトップの選手たちが一つのチームで、他の国のトップ選手たちとやっているのを観るだけでワクワクしていた。僕も野球を学生でやっていて、一番楽しい時期だったんじゃないかと思うし、どうしてもそのイメージになってしまいます」

WBCの思い出を大谷は、06年の第1回大会と09年の第2回大会の代表チームに重ねて語った。当時は故郷の岩手で小中学校に通う野球少年だった時代である。第2回大会決勝の韓国戦はテレビで観戦し、伝説となった延長10回のイチローの決勝安打と世界一連覇に興奮した思い出がある。それこそが大谷にとっての日の丸への原体験だったのだ。

2009年、第2回WBC決勝の日本対韓国戦では、大会中不調だったイチローが延長10回に劇的な決勝打を放った(2009年3月23日、米ロサンゼルス) 時事
2009年、第2回WBC決勝の日本対韓国戦では、大会中不調だったイチローが延長10回に劇的な決勝打を放った(2009年3月23日、米ロサンゼルス) 時事

実はその思いは今回、侍ジャパンに参加した選手の多くが抱くものでもある。それぞれが子供の頃に観たWBCのイチローや松坂大輔に憧れ、日の丸を掲げる日本代表の姿に「いつか自分も!」と思って育ってきた。

もちろん回を重ねることでWBCという大会そのものが成熟し、MLB球団の理解も深まって出場しやすい環境ができてきたこともある。しかし出場を決めた選手の根源にあるのは、子供の頃から持ち続けたイチローや松坂が日の丸を背負ってプレーする姿――侍ジャパンへの憧憬(どうけい)だ。それぞれがそこを自らの野球の原点にするからこそ、今回のチームが結成できたと言えるのかもしれない。それは「職業」としてではなく、「野球をやっていて一番楽しい時期」(大谷)に戻って、ただひたすら勝負の世界に身を捧げる興奮を求めた結果でもあった。

これは第1、第2回大会を制した日本という国の子供たちだけが持つ特別な感情、特権なのかもしれない。ただ、だからこそ栗山英樹監督の呼びかけに集い、勝つことに強い執着を見せる理由でもある。

第2回WBC、日本対米国戦で力投する松坂。この大会ではMVPを獲得。メジャーではボストン・レッドソックスなどで活躍した(2009年3月22日、米ロサンゼルス) 時事
第2回WBC、日本対米国戦で力投する松坂。この大会ではMVPを獲得。メジャーではボストン・レッドソックスなどで活躍した(2009年3月22日、米ロサンゼルス) 時事

投球制限から“逆算”しての投手陣容

「世界一。それだけです」

日本代表メンバーを発表した会見で、目標を聞かれた栗山監督はこう語り、侍ジャパンが勝つためのチームコンセプトを「投手中心の守りの野球」と位置づけた。

「基本的には投手中心でしっかり守り切って、我慢して勝ち切っていく形だと思います。(選手の人選で)最後の最後まで投手の人数を何人にするか迷い、最終的に1人増やして15人という形でスタートする。これが最後に自分の中で決断したことです」

1次ラウンドから順調に決勝まで勝ち進めば、全部で7試合を戦うことになる。必要な先発投手は4人で、大谷とダルビッシュに山本、佐々木が当確だろう。ただ1次ラウンドでは65球、準々決勝は80球、準決勝以降は95球という球数制限がある。

1次ラウンドでは、先発が3回ないし4回で降板する可能性が高いので、第2先発として4人の投手を用意する。その要員が今永昇太(DeNA)、戸郷翔征(しょうせい、巨人)、宮城大弥(ひろや、オリックス)、高橋奎二(けいじ、ヤクルト)の面々だ。大谷がリリーフに回った場合には、今永が第1先発に回り、第2先発にはチーム最年少の高橋宏斗(中日)が入ることになる。

2009年の第2回大会以来2回目のWBC出場となるダルビッシュ。36歳となった22年シーズンは、サンディエゴ・パドレスで16勝を挙げる活躍を見せた(2022年10月23日、米フィラデルフィア)AFP=時事
2009年の第2回大会以来2回目のWBC出場となるダルビッシュ。36歳となった22年シーズンは、サンディエゴ・パドレスで16勝を挙げる活躍を見せた(2022年10月23日、米フィラデルフィア)AFP=時事

一方、リリーフ陣は30球以上投げた投手は中1日、50球以上は中4日の登板間隔を空けなければならず、3連投以上は禁止というルールがある。そのためクローザーも2人以上の候補を用意する必要があり、東京五輪で実績のある栗林良吏(りょうじ、広島)と翁田大勢(おうた・たいせい、巨人)に松井裕樹(楽天)の3投手を選んだ。

先発陣とクローザー勢で12人。残り3人が中継ぎ、セットアッパーに回るわけだが、負ければ敗退となる準々決勝以降では、このポジションで起用される投手が勝負のカギを握る可能性が高い。

「『頼む、ここで抑えてくれ』みたいに願って投手を使う(続投させる)というのは許されないと思っている。状態が悪ければスパッといかないといけない」

こう語る栗山監督がこだわったのが、走者を置いた場面でリリーフ経験のある中継ぎ投手だ。真っ直ぐに力があってフォーク、スプリット系やシンカーなどの空振りを取れる球種を持っているのが条件。

そこで抜擢されたのが、湯浅京己(あつき、阪神)と宇多川優希(オリックス)だ。2人はピンチでのリリーフ経験も多く、中継ぎのスペシャリストとしての期待が大きい。終盤の8回なら大勢も走者を置いた場面での登板機会がありそうだ。

残る伊藤大海(ひろみ、日本ハム)は、先発や第2先発が早々に崩れた時にはロングリリーフもこなせるユーティリティ投手としての起用も考えられる。

こうしてあらゆる場面を想定した投手陣を作るために、野手枠を犠牲にしてでも15人を確保した。

昨季は日本プロ野球史上初となる2年連続の投手5冠を達成した山本由伸。東京五輪でもドミニカ共和国、韓国戦に先発し防御率1.59の好成績を挙げ、侍ジャパンの優勝に貢献した(2021年8月4日、神奈川県)AFP=時事
昨季は日本プロ野球史上初となる2年連続の投手5冠を達成した山本由伸。東京五輪でもドミニカ共和国、韓国戦に先発し防御率1.59の好成績を挙げ、侍ジャパンの優勝に貢献した(2021年8月4日、神奈川県)AFP=時事

WBCは打てなければ勝てない

こうして投手陣をがっちり固めるのがWBCを戦い抜くための土台だとすれば、打力は世界一奪回のための必須アイテムとなる。

準決勝で敗退した第3、第4回大会も、当初のゲームプラン通りに投手陣は相手打線をある程度、抑えて接戦に持ち込んでいる。敗因を分析すれば、やはりメジャー級の投手を打ちきれず、いずれも得点は1点止まりだったことだ。勝ち進むとなかなか点が取れないのが日本代表につきまとう課題と言っていい。

そういう意味では、メジャーでもトップクラスの長打力を誇る大谷が打線に入ることが、このチームにとっての最大のポイントだろう。メンバーが決まった1月末時点では、大谷を投手として先発で使うのか、少ない球数に限定したリリーフなのか、起用法について所属のエンゼルスとの交渉が難航し、明確に決まらない状況が続いた。

しかし日本代表が大谷に求める一番の能力は、実はバットなのだ。

大谷のエンゼルスのチームメイト、マイク・トラウトをキャプテンにそうそうたるメンバーをそろえる米国や、メジャーリーガー中心のドミニカ共和国などには、パワーではどうしても勝てない。それでもパワーとスピードを兼ね備えた大谷が軸となり、昨季、メジャー1年目で104安打、46打点、14本塁打をマークした鈴木や、王貞治のシーズン55本塁打を抜く56本塁打を放って三冠王に輝いた村上、そして東京五輪で打率3割5分のハイアベレージを残した勝負強い吉田らが固める打線は、過去にない力感のあるオーダーとなる。

と同時に、このチームが真のドリームチームであり、最強と言えるもう一つのポイントは、日系メジャーリーガーのラース・ヌートバー(セントルイス・カージナルス)の参加が決まったことにある。

日本では知名度の低い選手だっただけに、代表選出後はヌートバーの人となりを伝える報道があふれかえった(2022年8月17日、米セントルイス) 共同
日本では知名度の低い選手だっただけに、代表選出後はヌートバーの人となりを伝える報道があふれかえった(2022年8月17日、米セントルイス) 共同

ヌートバーは、母親が日本人で父親が米国人という俊足強肩の外野手。侍ジャパンではセンターを守ることになる。昨シーズンがメジャー昇格2年目だったが、シーズン後半には1番に定着して、104試合で打率2割2分8厘ながら14本塁打、40打点をマーク。パワーもあり、出塁率は3割3分4厘を記録するなど、2番に入るであろう大谷の前を打つ「1番」としての期待が大きい。

大谷に続く3番には鈴木が入り、上位陣をメジャーリーガーで固める。さらに4番に村上、5番に吉田という並び。6番にはセカンドに入る山田哲人(ヤクルト)か牧秀吾(DeNA)、7番に一発長打のある山川穂高(ほたか、西武)か岡本和真(巨人)が入れば、かなり厚みのある打線となる。

8番には捕手の中村悠平(ヤクルト)か甲斐拓也(ソフトバンク)、9番にはつなぎができる源田壮亮(そうすけ、西武)というのが基本のオーダーになりそうだ。終盤の接戦では、周東祐京(しゅうとう・うきょう、ソフトバンク)に中野拓夢(阪神)というスピードスターも控え、代打で大城卓三(たくみ、巨人)もいる。

投手を15人にしたことでセンターの控え選手がいないことを指摘する声もあるが、栗山監督のヌートバーへの信頼、期待がそれだけ高いということなのだろう。そして、それだけこのオーダーに対する自信と信頼があるとも言える。

投手陣を軸にしっかり地に足を固めた上で、スモールベースボール一辺倒だったこれまでの日本野球から、スピードとパワーを兼ね備えた攻撃にもシフトできる最強チームとなった。それは幼い頃にWBCで日の丸を背負って活躍した、イチローや松坂の姿を観てドリームチームに憧れた選手たちが作り上げる、本当の「ドリームチーム」なのである。

【第5回WBC出場国】※カッコ内は開催都市

プールA 台湾、オランダ、キューバ、イタリア、パナマ(台中)
プールB 日本、韓国、豪州、中国、チェコ(東京)
プールC 米国、メキシコ、コロンビア、カナダ、英国(米フェニックス)
プールD プエルトリコ、ベネズエラ、ドミニカ共和国、イスラエル、ニカラグア(米マイアミ)

【大会日程】

1次ラウンド 3月8日~15日
2次(準々決勝)ラウンド 3月15・16日(東京ドーム)、17・18日(米マイアミ)
決勝ラウンド 準決勝 3月19・20日(米マイアミ)
決勝 3月21日(米マイアミ)

【1次ラウンド 日本代表試合日程】

3月9日 対中国 19時
3月10日 対韓国 19時
3月11日 対チェコ 19時
3月12日 対豪州 19時

バナー写真:日本代表の第1次メンバー発表会見で撮影に応じる大谷翔平(左)と栗山英樹監督。大谷の参加は日本中の野球ファンが待ち望んでいた(2023年1月6日、東京都) AFP=時事

プロ野球 大谷翔平 イチロー MLB 村上宗隆 ワールド・ベースボール・クラシック WBC 栗山英樹 ダルビッシュ有