戦争への関心が高まる若者たち:映画『ラーゲリより愛を込めて』の影響で平和祈念展示資料館の来館者が倍増

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第2次世界大戦後、ソ連・シベリアに連行され、強制労働をさせられた日本人抑留者と、その家族を描いた映画『ラーゲリより愛を込めて』。その影響からか、強制収容所など現地の様子を再現し、当時の資料も多数展示している「平和祈念展示資料館」(東京・新宿)の来館者が、前年比で2倍以上に増えた。特に30歳代以下の若い世代の来館も急増している。若者たちの戦争への関心が高まってきたのだろうか。

58万人が連れていかれ、1割が亡くなったシベリア抑留

大戦の末期に日ソ中立条約を一方的に破棄して対日参戦したソ連は、武装解除した日本兵ら約57万5000人をシベリアなどに連れていった。零下20-40度となる長く厳しい冬、乏しい食糧、劣悪な生活環境の中で、厳しい強制労働をさせられたため、その1割の約5万5000人が亡くなった。抑留期間は最長で11年にも及んだ。

過酷な日々の中、日本に帰れることを信じて収容所(ラーゲリ)の仲間を励まし続け、希望の灯をともした主人公と、再会を願い続けた家族との愛の実話を映画化したのが『ラーゲリより愛を込めて』である。人気アイドルの二宮和也が主役で、若者の観客が多く、筆者が都心の映画館で見た際も、入場者の約3分の2は若者層だった。

映画『ラーゲリより愛を込めて』=全国東宝系にて公開中 ©2022映画「ラーゲリより愛を込めて」製作委員会 ©1989 清水香子
映画『ラーゲリより愛を込めて』=全国東宝系にて公開中 ©2022映画「ラーゲリより愛を込めて」製作委員会 ©1989 清水香子

当時のシーンを再現するため、この映画制作者らに多くの参考資料を提供し、映画パンフレットの監修などを行ったのが「平和祈念展示資料館」(増田弘館長)だ。同館は先の大戦での兵士、強制抑留者や海外からの引揚者の労苦について、国民の理解を深め、次の世代に語り継いでいくことを目的としている。総務省の施設で、都庁前の高層ビル内にあり、入場は無料。

同館は映画とコラボした特別展示「映画『ラーゲリより愛を込めて』の世界」を2022年11月から開催して、映画のワンシーンを紹介するパネルを設置し、撮影に使用された衣装や小道具なども展示している(1月15日まで)。また、抑留者が収容所から家族に出したハガキを集めた企画展も開き、映画にも登場する主人公が妻に宛てたハガキも1月11日から展示される(4月23日まで)。

「戦争のことをもっと知りたい」と来館する若者たち

同館によると、来館者は特別展示の開始と同時に増え始め、映画が全国公開(2022年12月9日)されると、12月は前年比で2倍以上になった。特に目立つのが若年層だ。映画の舞台となった収容所の模型や、収容所の内部で黒パンを切って食事を分け合うシーンを再現したジオラマなどを、じっと見つめている人も多い。

シベリア強制収容所の宿舎内部を再現したジオラマを見つめる若い世代の見学者たち(2022年12月、平和祈念展示資料館にて。筆者撮影)
シベリア強制収容所の宿舎内部を再現したジオラマを見つめる若い世代の見学者たち(2022年12月、平和祈念展示資料館にて。筆者撮影)

「戦争の話は祖父母から聞いたことがあるが、シベリア抑留のことは映画の話を聞くまで知りませんでした。今の若者は戦争に関心がない、と言われるのは嫌で、もっと戦争のことが知りたくて来ました。平和が大事ですが、そのためには戦争の実態を知っておくことも必要だと思います」と見学に来た女子大生は話す。

館内には、映画とコラボしたメッセージノートも置かれており、こんな書き込みもあった。

「映画を観て、とても心うたれたので、資料館に来ました。こんなこと(シベリア抑留の悲劇)は二度と起きてはいけない。(シベリア抑留の事実を)知らないで生きるより、事実を知った上で、同じ過ちが起きないようにしなければいけないと思いました」

同館の加藤つむぎ学芸員は「今回の映画の影響は大きく、館内のアンケートでも若い方の記述が増えている」と関心の高まりを指摘する。

インターネットを活用した平和学習支援

同館では、若者たちに戦争の実態を次世代に伝えるため、いろいろなイベントを行っている。シベリア抑留体験者による「語り部お話し会」。また、2022年からインターネットを利用した事業を次々と始めており、こうした資料館の活動は徐々に進化している。

コロナ禍で入館者が激減したこともあり、インターネット上で館内が見学でき、展示品を見られる「バーチャル資料館」を開設。また、平和祈念展示資料館と学校をオンラインでつなぎ、同館のスタッフが約50分の授業を行う「オンライン平和学習支援プログラム」も始めた。小学5年生から大学生が受講対象で、同館は事前に学校に兵士が着ていたコートや軍服、食糧にしていた黒パンなど当時の資料(複製)を送り、体験型の授業にしている。

語り部は97歳のシベリア体験者

館内でも、オンライン授業でも、特に関心が高いのが抑留体験者の話だ。語り部の西倉勝さん(97歳、神奈川県相模原市)は、1945年(昭和20年)1月、最年少の19歳で召集となり、同8月に朝鮮とソ連の国境地帯で終戦を迎えて、ソ連軍による武装解除を受けた。

シベリア抑留体験の語り部、西倉勝さん(本人提供、2022年)
シベリア抑留体験の語り部、西倉勝さん(本人提供、2022年)

「10日間歩かされてソ連領内に連れていかれた。10月、日本に帰すからと貨物列車に乗せられたら、列車はどんどん北に進み、おかしいと気付いた。4日目に着いたのがシベリア極東部のコムソモリスク。馬小屋を改装しただけの所で、夜は零下20度ととても寒く、まだ夏服のままの兵士3人で抱き合って寝た。食事は黒パンなど、わずかだが、強制労働の作業ノルマをやらないと食事を減らされるから、懸命に働いた。でも水道管を埋める作業は、つるはしをいくら振り下ろしても凍てついた大地を掘ることが出来なかった」

「寒さはさらに厳しくなり、仲間がバタバタと倒れていった。昭和21年(1946年)の正月を迎え、『今年、日本に帰れるといいな』と思いました。でもダメ。翌年の正月にも同じことを考えたが、やはりダメ。こんな所で死ねない、と自分に言い聞かせ、23年7月、ようやく帰国できたのです」

「3年間のシベリア抑留のことは長い間、人前で話すことはなかった。だが90歳の時、平和祈念展示資料館に来てから、語り部を始めた。若い人たちが、私と同じような体験をしないようにと願って決めたのです。私の話を若者たちは熱心に聞いてくれますね」

ウクライナ戦争が続いているが、西倉さんは「なぜ世界は戦争を止められないのか、残念でならない。世界、日本が悪い方(戦争)に行かなければいいが、と願っている」と語った。

学生が制作したバーチャル・シベリア強制収容所

映画公開の1週間後の12月17日、「バーチャルで伝えるシベリア抑留」というイベントが同館で行われた。多摩大学(東京都多摩市)の学生が同館の資料をもとに、強制収容所をネット上に仮想現実で再現したものだ。参加者がパソコンなどで自分の分身である少年、少女姿の「アバター」を動かし、雪が寒々と降り続ける収容所の構内を進み、日本兵らのいた宿舎の内部、ソ連兵が監視していた見張り台からの光景などを見ていくことができる。リアルな体験で、収容所の厳しさを実感した参加者も少なくない。

バーチャル・シベリア強制収容所を体験する来館者たち(2022年12月、平和祈念展示資料館にて。筆者撮影)
バーチャル・シベリア強制収容所を体験する来館者たち(2022年12月、平和祈念展示資料館にて。筆者撮影)

制作メンバーの同大4年、浜大貴さんは、「祖父母から戦争の話は聞いていたので興味はあった。資料を集めるため何度も展示資料館に通い、また語り部の西倉さんから生の話を聞くこともできたのは、貴重な体験になった」と話す。

このバーチャル再現を発案したのは、抑留を研究する多摩大の小林昭菜准教授(日ソ関係史)で、若い世代へのシベリア抑留について「記憶の継承」を目指している。

若者の戦争に関する関心は高まっているのか。小林准教授はこう分析する。
「高まっていると感じられる。ただし、第二次世界大戦のことが認知されているというよりも、ウクライナ戦争の影響で、兵器を使った殺し合いを日常的に若者が見聞きする機会が増えたためだと考えられる。フェイクニュースに振り回されないためにも、ネットソースのみに頼った状況把握を振り返る機会になっている。だから若者たちは、歴史を勉強する大切さを理解し始めているのです」

バナー写真:強制収容所の模型などが展示されている平和祈念展示資料館(同館提供)

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