世界とアジアとの距離は縮まったのか? 日本サッカー悲願のベスト8への課題
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アジア勢の健闘が光ったカタールW杯
アジアのサッカーは世界と距離が縮まっているのか、それとも逆に離れてしまっているのか。
今回のワールドカップ・カタール大会には、AFC(アジアサッカー連盟)から開催国のカタールを含め過去最多の6チームが出場した。そのうち日本、韓国、オーストラリアの3チームがグループステージを突破している。2014年のブラジル大会が0、18年のロシア大会が日本のみだったことを考えると、アジア勢の健闘が光ったとは言える。それも日本がドイツ、スペインを、韓国がポルトガルを、サウジアラビアがアルゼンチンを、と次々にアップセットを果たして、世界を驚かせたのは事実だ。
しかしながら日本、韓国、オーストラリアそろってラウンド16(決勝トーナメント1回戦)で敗れてしまった。02年日韓大会で韓国がベスト4に入って以来、AFC勢は5大会連続「8強」に届いていないという現実を突きつけられている。欧州、南米勢以外で今回ベスト8に入ったのはモロッコだけ(前回のロシア大会は0)。つまり世界の勢力図に大きな変動はない。列強国との距離が縮まっているのは確かだが、さほど縮まっているわけではない、とも言える。
参加国が32チームのワールドカップは今大会でひと区切りとなる。次回の26年、アメリカ、カナダ、メキシコによる3カ国共催から、48チーム制に拡大。AFCの出場枠はこれまでより4枠増の「8.5」となる。では、新興勢力のアジア勢が躍進してベスト8に名乗りを挙げる時代が来るには、何が必要となってくるのか。
ヒントはやはり日本代表にある。
ロシア、カタールと2大会連続でラウンド16に進んだのはアジア勢初の快挙であった。決勝トーナメント1回戦で、前回はベルギーに2-0とリードしながら逆転負けを食らい、今回はクロアチアに1-1と120分間では決着がつかず、PK戦の末に敗れた。初のベスト8入りへ一歩ずつ確実に近づいていることは間違いない。
欧州の大舞台で活躍する日本選手たち
その大きな要因として、欧州でプレーする選手が増加の一途をたどっていることが挙げられる。
今回のメンバー26人のうち、欧州組は19人。それも英プレミア、スペイン、ドイツ、ベルギー、フランス、ポルトガル、スコットランドなど所属チームは多岐にわたる。一方、Jリーグに所属する国内組のうち、権田修一、長友佑都、酒井宏樹の3人は欧州でのキャリアを持っており、実質的には全メンバーの約8割が欧州でのプレー経験を持つ構成になっている。
ちなみに2010年の南アフリカ大会では、23人のメンバーのうち欧州でプレーする選手は4人にとどまっていた。だが、この大会でベスト16まで進んだことで、日本人選手の若手に対する関心が高まり、現在の「拡大」につながった。
かつて国内組が主体だった時代には、代表チームの活動は頻繁に行なわれていた。しかし近年ではその機会も限られるだけに、所属チームでどれだけ充実した日々を送っているかが代表チームの強化に直結する。
ワールドカップメンバーで言えば、鎌田大地、守田英正、前田大然の3人は欧州チャンピオンズリーグに、南野拓実、堂安律、冨安健洋、久保建英はヨーロッパリーグに出場している。こういった「日常」が、ドイツ、スペインという強豪撃破を生み出すバックグラウンドにあった。
無論、国内のリーグも大事である。常勝軍団と化した川崎フロンターレの守備を統率する谷口彰悟は、スペイン戦で3バックの一角を担い、前半途中からより効果的な守備方式に変えるインテリジェンスを披露して追加点を許さなかった。トップJリーガーの実力とプライドを示したことでも意義ある活躍であった。
Jリーグは、アンドレス・イニエスタ(元スペイン代表)という世界的ビッグネームの参戦で注目を浴びたが、つい最近まで外国籍選手はブラジル勢がほとんどだった。それがスペイン、デンマーク、スイスなど欧州からの参加も増えてワールドワイド化が進んでいる。これはポジティブな要素だ。「欧州」でも「国内」でも成長できる環境があることが重要であり、日本サッカーを取り巻く環境は決して悪くない。
今回、サウジアラビアは初戦でアルゼンチンを破る大金星を挙げた。メンバー全員が国内組とあって準備期間も十分で、コンディション調整や連係も図りやすかったに違いない。メリットを最大に生かした形ではあったものの、ポーランドとメキシコには敗れて結局はグループ最下位で終わっている。
また、開催国のカタールも同様に国内組で固めたが、アジア勢では唯一1勝も挙げられなかった。国内の充実はあっても欧州で活躍する選手が出てこないと、現代のワールドカップにおいては躍進は難しいと言わざるを得ない。
「交代枠5」で実現した日本の戦略
日本代表がカタールで示した方向性で、何よりも興味深かったのはメンバーの流動化である。
今大会は中3日で進んでいくスケジュールで、森保一監督は26人のメンバーのうち22人を起用。かつ逆転勝ちした初戦のドイツ戦から、2戦目のコスタリカ戦では先発の5人を入れ替えるターンオーバーを実施した。100%以上の力を出し切る必要があったドイツ戦からの反動と、ボール支配率の低いコスタリカ代表の特徴も考慮しての判断だったと思われる。
ただ、うまくいったとは言えない。ボールを保持しながら相手の守備を崩して勝つか、それともドイツ戦のようにカウンターに軸を置くのか模索したままで前半を終え、逆にコスタリカのペースに引きずりこまれて後半に失点を喫し、0−1で敗れてしまった。
1試合だけの「点」で見ると、妙手とは言えなかった。しかし次のスペイン戦では、コスタリカ戦で先発から外れた伊東純也、田中碧、久保建英、前田大然は一様にコンディションが良く、後半に2点を奪って勝ち点3を手にしたことを考えると、3試合を通した「線(ライン)」で見た場合は、ターンオーバーに対する評価が違ってくる。
一方で、クロアチア代表のように、タイトなスケジュールであってもメンバーの入れ替えを最低限に抑えるチームも少なくない。ワールドカップは決勝まで最大7試合の短期決戦になる。連係面で言ってもメンバーを固めたほうが高めやすい。
だが、日本とクロアチアが戦ったラウンド16は、日本のほうが相手よりもよく動けていたように思えた。試合巧者のクロアチアに分析されてはいたものの、チャンスがないわけではなかった。PK戦に持ち込まれて目標としていたベスト8入りはならなかったとはいえ、最後まで互角に渡り合ったことは進歩であった。
日本ならびにアジア勢は、FIFAランクで言っても最上位がイランの20位。ワールドカップの舞台となると相手は格上ばかりになる。常に相手より良いコンディションでなければ強豪の牙城は崩せない。多くのメンバーを使いながらチームとして常に100%以上を出せるコンディションとインテンシティ(強度)の維持こそが最低条件となる。それを日本代表が証明したと言える。
明らかになったアジア勢の課題
グループステージで疲弊してラウンド16に進んでも、そこからギアを入れてくる強豪国には太刀打ちできない。今大会、コロナ禍のルール変更に伴って認められた5人交代制が今後どのようになるかは分からないにせよ、持続する力なくしてベスト8は成し得ない。あと一歩だったことを考えても、日本のマネジメントは間違っていなかった。あとはどのようにアレンジを加えていくかだろう。
戦い方においても、ボールを保持された相手に対してコンパクトかつ組織的に連動していく守備が、ドイツ、スペイン相手に通じたことは収穫だった。クロアチア戦ではセットプレーからゴールを奪えた。
一方でボールを保持した場合、相手をどう崩していくかの課題は先送りにされた。守備の長所を強みとして持ちつつ、ボールを動かして相手を崩す攻撃力を引き上げ、戦術のバリエーションを増やすチャレンジは必須だろう。日本を含めアジア勢は「弱者」の立場であることに変わりはない。しかしながらいつか「強者」となるためには、その準備もしておかなければならないということだ。
やるべきことは見えている。
アジア勢にとってカタールワールドカップは失望ではなく、むしろ希望を抱く大会になったと言えるのではあるまいか。
バナー写真:スペインを2−1で破ってグループリーグ突破を決め、喜ぶ日本代表の選手たち(2022年12月1日、カタール・ドーハ)時事