台湾の紅茶クオリティーが急上昇——英国をもうならせた茶作りへの情熱

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英国ロンドンで開催された紅茶のコンテストで、台湾紅茶が4部門で金賞と優秀賞を受賞した。ウーロン茶ではなく、紅茶が注目を集める理由に迫る。

2022年10月26日、英国ティーアカデミー主催の品評会「ザ・リーフィーズ」で、台湾茶が4部門で金賞と優秀賞を受賞した。

注目すべきは、受賞した4種のうち2種が紅茶だったこと。ウーロン茶では世界最高峰を自負していた台湾だったが、この10年で紅茶作りが台湾全土で急速に盛り上がり、クオリティーは格段に向上。今回の品評会での評価につながったのだ。

台湾の日本統治時代、新井耕吉郎技師が日月潭のほとりでアッサム紅茶の改良を開始、紅茶栽培の基礎を作ってから80年余。台湾の茶農家たちの熱心な取組みにより、インドやスリランカなどと肩を並べるまでになった。

また、戦後の台湾茶業の発展史を描いたドラマ「茶金」が人気を博し、多くの賞を獲得した背景もあって、撮影ロケ現場の大溪老茶場は多くの観光客が訪れる聖地になった(日本では2023年1月6日より各社動画配信サービスにて順次配信スタート)。

ドラマ「茶金」の撮影ロケ現場となった大溪老茶場
ドラマ「茶金」の撮影ロケ現場となった大溪老茶場

大溪老茶場の見学ツアーで、ガイドの説明を聞く観光客
大溪老茶場の見学ツアーで、ガイドの説明を聞く観光客

台湾の紅茶栽培の現場でどんな変化があったのかを探ってみた。

台湾紅茶が優秀賞を2種目獲得

今回「ザ・リーフィーズ」で受賞した台湾茶は、全て台湾中部の南投県から出品されたものだった。南投市の「王宝山茶」は東方美人茶(高発酵のウーロン茶)と紅茶の2部門で受賞、そして埔里鎮の「永浩茶園」は低発酵ウーロン茶で、鹿谷郷の「張三我茶荘」の高山四季春紅茶がそれぞれ受賞した。

茶の栽培に適したは海抜600~1200メートルの山間部にある鹿谷郷は納得できるが、盆地で海抜160メートルの南投市、450メートルの埔里鎮とも低海抜のため、海抜1000メートル以上まで上がった茶畑から手摘みした茶葉を運搬し、製茶場で加工したものと思われる。茶葉そのものよりも、製茶技術にも差が出るデリケートな農産物だけに、受賞した茶農家たちの長年の努力が、素晴らしい味を作り出したと言える。

山肌にある茶畑
山肌にある茶畑

台湾ウーロン茶はすでに中国本土でも高値で取引されるほど高級茶として知名度があるが、一般的に「台湾では紅茶を作っているのか」という疑問が残る。しかし、紅茶の本場であるロンドンの品評会で、あえて紅茶で勝負し、見事に優秀賞を獲得した。コンテストに参加した茶商の自信のほどが見てとれる。

日本の技術者の熱意が台湾紅茶を創る

台湾紅茶の歴史は、日本統治時代から始まった。台湾で紅茶栽培を最初に始めたのは三井農林だった。最先端機械を導入し、英国のようなプランテーションを形作る計画だった。

台湾の茶作りの歴史が深まった1936年、新井耕吉郎技師(1904~1947)が日月潭のほとりに魚池紅茶試験支所(現茶業改良場魚池分場)を開設して、アッサム種の茶葉を改良した紅茶栽培を開始した。

群馬県出身で北海道大学農学部を卒業した新井は台湾に赴任し、10年間を紅茶栽培の技術開発に費やした。惜しくも終戦間もなくマラリアで命を落としたが、新井の薫陶を受けた地元の技師や農家がその志を受け継ぎ、1960年代まで台湾の紅茶は世界的にも有名だった。

しかし、70年代から競争力が減速する。阿里山などの高山ウーロン茶人気にも押され、紅茶農家はウーロン茶作りに切り替えるなどして持ちこたえていた。そして茶葉に改良を加えた「台茶18号」を開発。まろやかな甘さとすっきりした喉ごしが特徴の「紅玉紅茶」の商品名で、2000年代に入って急速に注目を浴び、高値で取引されるようになる。

日月潭魚池では今も、アッサム種の栽培が盛んだが、台茶18号の成功から数年を経て台茶21号、23号など新品種が生まれ、進化は続いている。

高山ウーロン茶や東方美人茶にも肩を並べるクオリティーで日月潭紅玉ブランドが急成長した紅茶業界だったが、紅茶ブームはそれだけに終わらなかった。台湾全土の茶農家が、われもわれもと紅茶作りに名乗りを上げたのだった。

生産拠点は北部から中部、南部へ

日本語が堪能な茶農家で、桃園県の長生製茶場の3代目として、台湾全土の茶生産農家とチームで生産性向上に取り組む林和春さんに、戦後の茶農家の変遷や製造法の変化について語ってもらった。

戦後は日本向けの緑茶や紅茶の生産が増加したが、その後、北部の茶畑は農地の疲弊もあり、生産量が減少していったという。

その代わりに開拓が進められたのが鹿谷郷、仁愛郷など南投県の山岳地帯だった。凍頂ウーロン茶がブランドとなり、高山ウーロン茶へと進化。ウーロン茶生産が最盛期を迎える。

現在はペットボトル飲料の需要から、広大な茶畑が必要となり、屏東県、花蓮県などの未開拓農地が新たな茶畑として活用されているとのことだ。

林さんはに、台湾全土のお茶の生産は「おおむね紅茶35%、緑茶30%、ウーロン茶15%、鉄観音10%、東方美人やその他が10%の割合」と教えてくれた。

無農薬茶、有機茶で高付加価値を追求

紅茶のブランド力を再認識するため、台湾を代表する茶どころを訪ねた。まずは台北からほど近い坪林。ここは伝統的に包種茶というウーロン茶の一品種が有名だが、各農家は紅茶にも力を入れている。

「ここ10年でしょうか。春の二番茶、秋口の茶は紅茶にすることが多くなりました。全発酵で、手間が掛かる分、包種茶よりも値が高くなっていますよ」と製茶場の主人は話す。

もともと、同じ茶葉でも全発酵は紅茶に、軽発酵がウーロン茶に、無発酵が緑茶になる。アッサム種は葉が大きくて厚みがあるので、粉砕して製茶すれば色も味も濃厚になるなど、葉の品種によってどんなお茶にしたら最適なのかが違ってくる。

台湾産の紅茶
台湾産の紅茶

台北の南西側の三峡や桃園県亀山、龍潭などの茶どころでも紅茶作りは盛り上がっていたが、海抜がやや低いため、無農薬や有機などの付加価値で競争力を上げようと工夫していた。

桃園近辺への取材に同行した茶利きもできる友人は、無農薬の蜜香紅茶を飲んで味の完成度に感心していた。「東方美人も好きだけれど、高くてなかなか手が出ない。桃園の紅茶も納得のいく品質なのに、お手頃価格で気軽に買える」という。

高山ウーロン茶の総本山、阿里山でも紅茶は増産体勢

ところ変わって、ウーロン茶の総本山、台東の鹿谷や阿里山に足を運んでみると、どの地域でも紅茶作りが盛んなことを実感した。

9月の秋茶収穫の季節で、ちょうど製茶をしている現場にも遭遇し、紅茶を作っている製茶場もあった。

紅茶の葉は通常枝状というか棒状に製茶されることが多く、鹿谷地域ではウーロン茶が球状、紅茶は棒状、と製法を変えていた。しかし、阿里山地域では紅茶も球状に加工していた。

通常、台湾の茶作りは発酵を止めるための釜炒り、そして茶葉を丸めるための揉捻(じゅうねん)という作業を夜通しで何度も繰り返す。ウーロン茶の場合は2日あれば完成するところを、紅茶は3日かかるので面倒だということを、製茶場の人が話していた。しかし、時間がかかっても「最近では阿里山でも紅茶を求める客が多くなった。だからうちもリクエストに応えるうちに増産していた」と口々に語る。

揉捻中の茶農家
製茶場で揉捻中の茶農家の家族。阿里山郷の先住民族ツォウ族の集落にて

日本統治時代に、インドの紅茶作りに続けと始まった台湾の紅茶作り。時代を経て、プランテーション式の大量栽培から加工され消費されるスタイルとは一線を画す形で、高級ウーロン茶のように砂糖やミルクを入れずにストレートでたしなむ風雅なスタイルの紅茶に生まれ変わった。

茶農家も世代交代が進み、新たな品種、栽培法などにも積極的に取り組む姿勢にあふれている。茶どころごとに違った茶葉や製法の紅茶が味わえる台湾は、今後も茶作りの最先端を走る存在となりえるだろう。

写真は全て筆者提供

バナー写真=阿里山方面の海抜約1200メートルの山の斜面にある茶畑で、茶摘みをする人々。

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