
Netflix配信で海外でも話題に: 「はじめてのおつかい」が米国の親心をつかんだワケ
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米国の主要メディアもこぞって紹介
日本テレビ系列のバラエティ番組「はじめてのおつかい」。1991年の放映開始以来、30年以上にわたって根強い人気を博する。今でも年2回の頻度で、新作エピソードが放送されている。
そんな日本の長寿番組が「Old Enough!」というタイトルで、2022年3月31日からネットフリックスで配信されるようになった。現在、シーズン1(全20話)を見ることができる状態だ。
ネットフリックス版では、1話は短くて8分、長くて21分。どの回も10~20分前後の尺の中で、子どもが生まれて初めて1人でお使いに挑戦する様子がドキュメンタリー風に描かれており、米国で大きな話題になった。
「Netflix」:Old Enough!
米国ではニューヨークタイムズ(以下、NYタイムズ)紙、NPR(米国公共ラジオ放送)、ニューヨーカー誌など、米主要メディアがこぞってこの番組について報じた。
「今、見るべき番組」と取り上げたのはタイム誌。「小さくて愛らしい日本の幼児のお使いがかわいくてスリル満点。これを見るのが私の(今の)娯楽時間」と、同誌のキャディ・ラング記者は太鼓判を押した。幼児が独立心を持って1人で任務を全うする姿は、ギリシャ神話の英雄、ヘラクレスに例えられた。
「TIME」:Why Old Enough Is the Show You Should Be Watching Right Now
コンパクトな尺についても、「消化しやすい長さ」(タイム誌)、「視聴者を夢中にさせるのにちょうどよい」(ニューヨーカー誌)と好評価だ。エピソードをこのような短めの尺でまとめる形式はTikTokやユーチューブなどの動画でも同様に機能しており、動画配信のトレンドだ。
アマゾンが運営するIMDb TVでも、一般の視聴者からの評価として10ポイント中の8.1ポイントと高評価を獲得している。
具体的な感想として以下のような声が寄せられている。
「最も面白かったリアリティー番組の1つ」
「心温まる感動と陽気さが入り混じっている。カメラクルーが気付かれないように回り込んで撮影している様子もエンターテインメントだ(見ていて楽しい)。新しいエピソードが待ち遠しい」
「衝撃を受けた。だってこれまで2歳の子が買い物に1人で行く姿を見たことがなかったから。でもいったん文化の違いを受け入れると、トラブルが起きた時の対処シーンなどで、面白さが続いていく」
「米国の親はこの番組から何かを学ぶだろう」
「IMDb TV」:Hajimete no otsukai
同番組を「一種の盗撮ファンタジー」と表現したのは、ニューヨーカー誌だ。「ファンタジー」(幻想)とは言い得て妙である。
「The New Yorker」:“Is It Cake?” and “Old Enough!,” Reviewed: Two Paths for the Netflix Reality Show
なぜ幼子のお使いが米国人にとって「幻想」なのか、解説しよう。
なぜ、米国人には衝撃的だったのか?
タイム誌によると、日米の子育てのスタイルや文化の違いのため、ネットフリックスの配信が開始されて以来、米国では歓喜、不信感、懸念などの感情が渦巻き、さまざまな議論に及んだ。そして「このような番組が米国で制作される可能性がほとんどないのは言うまでもない」としている。
NYタイムズの購読者向けニュースレターも番組について取り上げ、同紙のオピニオン欄に転載している。記事を発信したジェシカ・グロス氏も当初、この番組は米国ではウケないと思ったそうだ。その理由として「米国でこれを幼子にさせると、それを許した親が無責任だとされるから」だという。
その社会通念の根源には、米国が銃社会であることを挙げた。また、道路の主役が車である米国との対比として、「日本は常に歩行者を優先しているし、路地に交差点がたくさんあったりするので車が徐行しがち」など、インフラストラクチャーの特徴や交通マナーの日米の違いを例に挙げた。
「The New York Times」:On Japan’s Adorable ‘Old Enough!’ Show and the State of American Childhoods
米国では制作されることはないし、ウケもしないと見なされた番組内容が日本で爆発的にヒットし続けている理由として、タイム誌も「別に『Old Enough!』に登場する両親が何か間違ったことをしているわけではない。ただ理由としては、日本は犯罪率が非常に低く、世界で最も強力な銃規制法が敷かれた国の1つだから(このような番組が実現できる)」と述べている。
番組の紹介を機に、米国の親の課題である「子の独立心や自立心」「自分で外出する自由を与えることの是非」について論じたのはNPRのウェブ版だ。記事の冒頭は「一部の地域では、大人(保護者、ベビーシッターなど)の監視なしで子1人でのお使いを許可する親は、州の法律に違反する可能性がある」と、注釈が付いている。
「NPR」:A 4-year-old can run errands alone ... and not just on reality TV
子どもだけの留守番や単独行動は厳禁の米国
前述のように、銃社会の米国の治安は、住むエリアによって大きく異なるが、一般的に日本と比べて犯罪率は高く、いつ何が起きてもおかしくない。誘拐事件や迷子を未然に防ぐために、子どもだけの留守番や単独行動を法律で厳しく規制している州もあるくらいだ。よって「幼な子を1人で買い物に行かせるなんて!」と親が仰天するのは当然というわけだ。
例えば、イリノイ州では14歳未満、 メリーランド州では8歳未満、 オレゴン州では10歳未満の子を1人で留守番させることは違法だ。また、ガイドラインで推奨年齢を提示している州もある。ニューヨーク州では、子を1人にしておくことができる年齢は法律で定められていないが、学校の送り迎えは保護者やベビーシッターが行うのが一般的であり、子どもの1人歩きはまったくと言っていいほど見ない。
「Child Welfare Information Gateway」:FACTSHEET FOR FAMILIES:December 2018/Leaving Your Child Home Alone
「The Official Website of the City of New York」:Parents’ Guide to New York State Child Abuse and Neglect Laws
(NYタイムズが紹介した)米疾病対策予防センター(CDC)の2012年の分析では、1人で留守番をしてもよいと感じる子どもの年齢は、平均で「13歳」という数字が示された。また1人で入浴が許されるのは平均7歳半、1人で自転車に乗って出かけてもよいとされるのは平均10歳前後だった。
一方、日本はというと「多くの子どもは徒歩で近所の学校に通っており、それは非常に典型的だ。道路は子どもが安全に歩くことができるように設計されている」と、タイム誌は紹介した。
子どもへの接し方再考を有識者が提言
日米両国に居住経験がある作家のクリスティン・グロスロー氏のコメントを、前述のNYタイムズが引用している。それによると「日本では幼い頃から自分でできることは自分でやるように親から教えられ、1人で留守番すること、料理をしたり包丁を使ったりすること、小学校入学と共に1人で通学できることを、子どもは(親に)期待されている」と紹介。
そして「米国はこれとは真逆だ」と同紙。
「世界中では一般的な米国人が理解不能なほど、子どもにたくさんの自由が与えられている」とグロスロー氏が言うように、親に期待される子の自立心や独立心については、何も日本だけが特別な訳ではないようだ。
NPRによると、米国の隣国メキシコや欧州各国でも、日本同様に子どもだけで買い物に行ったり通学したりするのは特別なことではないという。
「番組を見ることで、米国のより多くの親が子の自立や自主性についての考え方をリセットするか、再考する必要があることを考えるきっかけになれば」とグロスロー氏は一石を投じた。
日本の人気番組は、意外にもこんな問題提起を米国の親たちに投げかけたのだった。
バナー写真:お使いをする男の子 ※当該番組との関係はありません。 PIXTA
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