横浜のボーカルグループによるウクライナ国歌が結ぶ連帯の絆
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36万回超再生のほとんどはウクライナ人によるもの
戦火で底知れぬ不安に怯えるウクライナの人々を励まそうと、同国とゆかりのある横浜市の女性ボーカルグループが国歌「ウクライナは滅びず」を熱唱し、ユーチューブ動画を通じて現地にエールを送っている。主に同国内で拡散を重ね、再生回数は3月4日現在、36万回を超えた。サイトに寄せられるメッセージの大半はウクライナからのものとみられ、中にはロシア軍の砲撃下にある避難先から感謝の気持ちを伝えてきたものもある。
このグループは日本人女性3人で結成された「横濱シスターズ」。リーダーのMAHO(マホ)さんは「私たちはこれまでにいろんな国の国歌を歌っては動画投稿してきたので、歌声でエールを届けるには今がベストだと思い、投稿しました。国歌を歌えば現地の方々がとても励まされるのを知っていたので、何とか現地に届けばいいなとの思いからです」と話す。
メンバーの3人(右からMAHOさん、AIさん、MIWAさん)は、保育士や団体職員などで生計を立てながら、歌手をめざして同市内のボイストレーニングに通っていた仲間。2015年にグループを結成し、地元横浜の名曲をメドレーで歌うなどしてミュージックビデオを作っていた。世界の国歌を歌うようになったきっかけは、19年に開催されたラグビーワールドカップだったという。
決勝が行われた横浜国際総合競技場で参加国の国歌を歌ってパブリックビューイングで紹介された際、とても会場が盛り上がったのが印象的だった。その体験をもとに「国歌を歌うことは友情の証」になると知り、以来、「世界196カ国・地域すべての国歌・地域歌を歌ってユーチューブで次々と紹介しよう」と投稿を続けている。
歴史の荒波に翻弄されたウクライナ国歌
ウクライナ国歌の動画投稿は34カ国目。当初は、2020年に同国の港町オデッサ市と横浜市が姉妹都市提携55周年を迎えたのに合わせて投稿する予定だったが、正確なウクライナ語の発音チェックができる知人がおらず、公開が保留になっていた。しかし、2月に入ってウクライナ情勢が緊迫し始めたため、急きょMAHOさんの提案で同月15日に3人で収録して投稿したという。
MAHOさんは、かつて国際交流を目的とするNGO「ピースボート」の仕事をしていたことがある。「乗船したのがたまたまウクライナ船籍(オリビア号)で、同国の船員ととても仲良くなった思い出があるという不思議なつながりもある」という。「私たちの歌を聞いて、ひとりぼっちじゃないんだと気持ちが少しでも高揚してもらえるとうれしい」と話す。
ウクライナの国歌「ウクライナは滅びず」が作曲されたのは1863年。同国の運命と同じように複雑な流れをたどった。18世紀にロシア帝国に組み入れられ、長く弾圧を受けたウクライナは1917年のロシア革命でようやく独立。その際にこの曲が初めて国歌として採用された。ところが20世紀に入ってソビエト連邦に併合されたことで国歌を禁じられ、ソ連が崩壊し独立した後の92年にようやく国歌として復活したという経緯がある。
歌詞には「同胞よ、戦場であろうとも……我らは認めぬ よそ者による支配を」とか「魂と身体を捧げよう 我らの自由にために」といった苦難の歴史を歌ったくだりが目を引く。MAHOさんはウクライナ語で歌った時の感想を「大地を馬で駆け抜ける疾走感のようなものを感じる」と表現する。
「他の国の国歌は豊かな自然などを歌っているものが多いのに、ウクライナ国歌には『自由』という言葉がたくさん登場し、一致団結して戦って自由を勝ち取るという力強さがある。古い曲なのに、まるで今の状況を表しているようにも聞こえてならない」と話す。
5000件にのぼるウクライナの人々からのメッセージ
横濱シスターズのユーチューブ動画は、姉妹提携都市オデッサの公式サイトにも紹介されている。また、ユーチューブのコメント欄には、すでに約5000件にのぼるメッセージが書き込まれている。大半がウクライナの人々が寄せたものとみられるという。いくつかを紹介すると――。
アンドレイ・カシェンコ 「私たち家族は赤ん坊を抱えて爆弾の下に座っているのですが、日本にいても私たちのことを知ってくれていることがとてもうれしいです」
ユリア・マニファソヴァ 「想像を絶する応援の気持ちが世界中の何百万人もの人々から私たちに送られている。驚きさえしている...涙が出そうだ、あたりには警報のサイレンが鳴っている、ありがとう!!!!」
オクサーナ 「リスペクトです。驚くほどすばらしい声です。あなた方の演奏を楽しんでいます。応援ありがとうございました!!!! ウクライナに栄光あれ!!!」
エフゲニーG 「ありがとうございました。ウクライナは勝つ! ウクライナに栄光あれ」
彼女たちのもとには、ウクライナからツイッターなど他のSNSを通じてもメッセージや動画などが届けられている。その内容は1週間前にロシアの軍事侵攻が始まって以降、「生々しいコメントが増えた」という。
「停電の中であなた方の歌声を聞いていると、まるで光が差してくるようだ」とか「地獄のような5日間を過ごして緊張のあまり泣くこともできなかったのに、あなたたちの歌を聞いて初めて涙が流れてきた」といった内容が増えている。
現地から寄せられたSNSのメッセージ中には、「ウクライナ軍は7機の飛行機、2機のヘリコプター、複数の戦車、200人以上のロシア占領者を破壊しました。私たちは死ぬために立ち上がります!」といった勇ましいものも。
一方、ウクライナ侵攻に反対するロシア人からのものもあったという。
「自分がここ(コメント欄)に書くのはふさわしくないけれども、今回の戦争は間違っていると思う。とても悲しみを感じている」と書かれていて、MAHOさんは「憎むべきは戦争であって、その国民を憎むというのは違うと考えさせられた」と話す。
現地のニュースに接し、心を痛めているMAHOさんに救いとなっているのは、メッセージの中に前向きなくだりが散見できること。
「私たちの動画を、みんなで停電した地下室の暗闇の中で聞いているという報告もある。悲惨な状況の中で、できるだけ子どもたちに恐怖心を与えないよう気を配り、みなさんが結束して希望を捨てずに愛唱歌のように国歌を歌ってがんばっている様子が伝わってきます」
横濱シスターズの3人は、現地の反響の大きさに応えるために、3月6日(日)の夜、新たに古くからのウクライナ民謡「コサックはドナウを越えて」などを収録し、国歌や他のレパートリーなども交えてユーチューブでライブ配信する予定だ。この民謡は戦場に赴くコサック兵士と残された恋人とのつらい別れを描いた18世紀の人気曲という。
横濱シスターズ オフィシャルサイト:https://www.yokohamasisters.com/
バナー写真:ウクライナ国歌を歌う横濱シスターズ 横濱シスターズ提供