平野歩夢:夏冬五輪連続出場を経て、ハーフパイプの第一人者が挑む「3度目の正直」【北京五輪を彩る主役たち】

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松原 孝臣 【Profile】

スノーボード・ハーフパイプを語るとき、この人を外すわけにはいかない。平野歩夢(あゆむ)は数々の国際大会で活躍、五輪では2大会連続銀メダルと世界のトップスノーボーダーとして名を馳(は)せてきた。昨夏は東京五輪スケートボードに出場し、秘めたる才能を改めてアピール。冬季3度目の五輪出場となる北京では悲願の金メダルを狙う。

日本史上最年少の冬季五輪メダリスト

まだ23歳の平野歩夢が残してきた実績は、すでに数知れない。オリンピックは2014年のソチ大会が初出場。15歳74日で銀メダルを獲得し、冬季五輪では日本史上最年少のメダリストとなった。

続く18年の平昌大会でも銀メダルだったが、ライバルで世界的スターのショーン・ホワイト(米国)と好勝負を演じ、平野の存在感はより高まった。また、プロスノーボーダーにとってオリンピックと並ぶ大舞台となる「Xゲーム」では、16年と18年に優勝している。

平野の名を知らしめたのはスノーボードだけではない。スケートボードでもパーク種目の日本代表として昨夏の東京五輪に出場。子供の頃からスノーボードとともにスケートボードにも親しんでいたことが、挑戦する理由だった。平昌五輪後の18年秋にチャレンジを表明した際、平野はこう語っている。

「オリンピックの正式種目となった以上、スルーするわけにはいかないです。(本大会に)出るとか出ないとかは考えてないけれど、一つの挑戦として自分の成長のために頑張ろうと思います」

その後、本格的に練習に取り組み、代表入りを果たした。大会では決勝進出は逃したものの、そもそもが「一見似ているようでまったく異なる競技」とスケートボード、スノーボードそれぞれの選手が語る両競技。五輪出場自体が成功と呼べるもので、だからこそ強烈なインパクトを与えた。

進化したトップスノーボーダーの帰還

その挑戦は、ある意味、リスクをもたらすことにもなった。東京五輪が1年延期されたことで、北京五輪までの準備期間が1年半から半年に大きく縮んだからだ。

「(スノーボードから)離れている期間が長かったので、どれだけできるか」

準備期間の短さに対する戸惑いを言葉にした。それでもネガティブには捉えなかった。

「スノーボードにないことをいろいろ吸収できたと思っています。スケートボードでの足が固定されていない感覚や、言葉で表せない、いろいろ細かい部分です」

スノーボードのワールドカップが開幕すると、1月8日の第2戦と1月15日の最終戦で連続優勝。平野健在を示すとともに、懸念を吹き飛ばすパフォーマンスを見せた。

北京五輪男子ハーフパイプ予選は2月9日、決勝は11日に行われる。目標は過去2度の大会で届かなかった表彰台の真ん中だ。

長く第一線で戦ってきた経験に異例の挑戦で得た進化を加え、平野歩夢が北京で舞う。

東京五輪のスケートボード男子パーク予選で滑走する平野。決勝進出はならなかった(2021年8月5日、東京・有明アーバンスポーツパーク)共同
東京五輪のスケートボード男子パーク予選で滑走する平野。決勝進出はならなかった(2021年8月5日、東京・有明アーバンスポーツパーク)共同

バナー写真:スノーボードW杯の今季開幕戦でブランクを感じさせない演技を披露した平野(2021年12月9日、アメリカ・コッパーマウンテン)AFP=時事

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    松原 孝臣MATSUBARA Takaomi経歴・執筆一覧を見る

    1967年、東京都生まれ。早稲田大学を卒業後、出版社勤務を経て雑誌『Sports Graphic Number』の編集に10年携わりフリーに。スポーツでは五輪競技を中心に取材活動を続け、夏季は2004年アテネ以降、冬季は02年ソルトレイクシティ以降すべての大会で現地取材にあたる。著書に『高齢者は社会資源だ』(ハリウコミュニケーションズ)、『フライングガールズ−高梨沙羅と女子ジャンプの挑戦−』(文藝春秋)、『メダリストに学ぶ 前人未到の結果を出す力』(クロスメディア・パブリッシング)など。

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