横浜市大の学生がSDGs弁当をプロデュース:マグロやサーモンの端材活用、容器にもこだわり
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環境問題に取り組む水産卸会社が学生とタッグ
横浜南部市場(横浜市金沢区)で横濱屋本舗食堂などを運営する水産卸会社「横浜食品サービス」は、2021年春から地元・横浜市立大学の学生らとタッグを組み、新たな商品の開発を始めた。
同社は今年10月、水産資源を持続的に利用する活動を評価する一般社団法人「マリン・エコラベル・ジャパン」(MEL)の流通加工段階認証を取得するなど、環境問題に積極的に取り組んでいる。
食品ロスを減らすことで、SDGsへの貢献も目指す。まず着目したのが、マグロやサーモンを加工する際に出る端材。例えばマグロなら、刺し身用の「さく」や「切り落とし」用にさばいた場合、商品として使えない端材が大量に発生する。その量は、年間20トン以上に及ぶ。これまで骨などを除き、大半を専門の業者に1キロ当たり17円ほどで販売していた。
端材とは言っても、マグロ、サーモンともに身が付いた部分が多い。同社の瀬戸清社長は「もっと有効利用できないか」と考え、マーケティングを中心に研究する横浜市立大学国際商学部の柴田典子准教授に協力を要請。ゼミの学生らに、新商品を共同開発してもらうことにした。
食の研究発表で実績を持つ横浜市大・柴田ゼミ
柴田ゼミはこれまで、食に関連する研究発表の場で大活躍。2021年はアグリカルチャーコンペティションで優秀賞、132チームが参加した日本学生経済ゼミナール主催のインナー大会では見事優勝に輝いた。
そうした実績を持つ柴田ゼミは、横浜食品サービスとの連携を機に「魚食拡大プロジェクト」をスタート。コロナ禍で変化する食生活を背景に、若者を中心とした魚離れという社会的な課題に着目しながら、SDGsを視野に入れた魚食拡大への取り組みを進めている。
横浜食品サービス側は連携に先駆け、マグロとサーモンの端材をミンチ状にしたハンバーグを開発し、横濱屋本舗食堂で販売していた。ただ、端材を使用すれば安価にできるわけではない。骨の間からすき身をかき出すには、手間と時間が掛かり、その分はコストとなる。ましてやSDGsをアピールするのにも工夫が必要。そこで、学生らの出番となった。魚臭さを抑えておいしく食べてもらうため、「学生さんたちのアイデアで、ごま油で焼くことをお薦めしている」と瀬戸社長は語る。
若者目線で「SDGs弁当」5種類
柴田ゼミでは、魚肉ハンバーグなど、魚の端材を生かした弁当作りに着手。横浜食品サービスとのミーティングや試作を重ね、半年で5種類を完成させた。「からだにも環境にもやさしい」とうたった『おさかなお弁当(横浜市立大学 柴田ゼミ共同開発)』は、いわば魚版「SDGs弁当」だ。
マグロとサーモンのハンバーグは、それぞれハワイの郷土料理「ロコモコ丼」風に仕上げた。ハンバーグにはデミグラスソースをかけ、ご飯は五穀米。目玉焼きにパプリカ、アボカド、ミニトマトなど野菜も豊富で食べ応え十分だ。
「三色サーモンそぼろ重」も、彩り鮮やか。甘辛に味付けした端材のサーモンのほぐし身に、ホウレンソウ、いり玉子が白ご飯の上に。具材が斜めに盛り付けることで、見た目も斬新で美しい。女子学生は「SNSで“お弁当でSDGs”を広めてもらえるように、インスタ映えは強く意識した」と言い、瀬戸社長は「ロコモコ丼の発想はなかったし、見た目へのこだわりも若者ならでは」と感心しきりだ。
「おさかな御膳」は、「ちょっぴりぜいたくに」(学生)と5種類のうち最も値は張るものの、中身は値段以上に充実。端材が原料のサーモンハンバーグ、アジフライやマグロの西京焼き、ちくわ天にかまぼこ、揚げ出し豆腐、玉子焼きなど、幕の内弁当のような品ぞろえ。男子学生は「おさかな御膳は、魚食拡大を重視。焼き魚やフライ、練り物に天ぷらと魚料理を詰め込み、おなかいっぱいになることは間違いなし」と、出来栄えに胸を張る。
中身だけじゃなく容器もSDGs
塩サケや唐揚げ、ちくわ天、赤ウインナーなどが入った「レトロお弁当」も含め、全ての弁当容器が環境への負荷を抑制できる「部分的バイオマス原料プラスチック」。植物由来の原料が3割ほど含まれており、こちらも「食材でSDGsにこだわっても、容器が普通のプラスチックでは意味がない」という学生からの提案だった。
5種類の弁当は、学生お手製のPR用ポップとともに12月1日、横浜市内のスーパーでお披露目。地元客を中心に好評となったようで、今後も年末・年始を除き定期的に店頭に並ぶ予定という。
学生らは「SDGsを実践するというと、ちょっと荷が重い気がしたが、気軽な取り組みとして小さなことから始めることが大事だと思った」と振り返る。さらに「私たちのお弁当を食べれば、きっと“SDGsしちゃった”と気分が上がるのではないか」とアピール。
横浜食品サービスの担当者も「堅苦しい考えを消費者に押し付けるのではなく、若い感性で伝えていくことが大切だと分かった。魚食文化の復権も、若者に魚好きになってもらうことから。これからも学生との共同開発を続けていきたい」と、手ごたえを感じている。
別の学生は「これまでは肉派だったけど、魚を使った弁当作りに関わったことで、そのおいしさや栄養を改めて知った。これからも魚食の魅力と、SDGsの必要性を発信していく」と意欲を燃やしていた。
写真=ニッポンドットコム編集部