風鈴が1年中売れる商品に!? “越境ECの可能性”をBEENOS直井聖太代表に聞く
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大手ECサイトの商品が、海外から手軽に購入できる
BEENOS(本社・東京都品川区)は、ITを活用して海外消費者に向けて販売する越境ECの取扱額で国内トップの企業グループ。海外向けの事業がメインのため、国内での知名度はそれほど高くないが、中古ブランド品を扱う「ブランディア」(運営:デファクトスタンダード)などを連結子会社が運営する。実は同グループの「Buyee(バイイー)」(運営:tenso)を通じ、日本の大手ECサイトやオークションサイトに並ぶ商品が、海外からも購入されていることをご存じだろうか?
Buyeeの提携先にはYahoo!ショッピングやZOZOTOWN、楽天、amazon、ヤフオク!、メルカリと有名サイトがずらりと並ぶ。各サイトと商品データ(海外転送が可能なものに限る)を共有し、英語やスペイン語、中国語の簡体字と繁体字、韓国語など10言語で展開している。
海外ユーザーが欲しい商品を代理で購入し、まずは国内にあるBuyeeの倉庫で受け取る。そこで海外発送手続きを行い、現地配送業者を通じてユーザーの手元に届けている。決済方法や配送手段は世界118の国と地域に対応。会員数は海外転送サービス「転送コム」(運営:tenso)との合計で330万人を超えるという。
BEENOSの直井聖太代表は「日本の企業、特に中小企業には、もっと積極的に越境ECに挑戦してほしい。まずはやってみましょう。国内市場だけでは気付けない商品の価値が、グローバルコマースで発見されることが多々あるので」と語る。その好例として紹介してくれたのが、会津漆器店の風鈴だ。
喜多方の風鈴が中東で人気、海外売り上げ100倍に
風が吹くと、涼し気な音色をかなでる風鈴。日本の夏の風物詩だが、福島県喜多方市にある「木之本漆器店」の工房では、11月に入っても風鈴の制作を続けていた。会津地方は冬の訪れが早く、ダウンベストを着込んだ職人が清涼感のある絵柄を描いており、なんとも不思議な光景である。
「うちの店の風鈴が中東で人気だと知ったのは、つい最近なんです。今月も数百個単位で注文が入っています。風鈴の音色に涼しさを感じるのは日本人だけじゃなく、万国共通なんですかね?」と、代表の遠藤久美さんも首をかしげていた。
木之本漆器店が、会津漆器の蒔絵(まきえ)の技法で絵付けした「ぎやまん(ガラス)風鈴」の販売を始めたのは35年ほど前。生活スタイルの西洋化で、漆器の販売が右肩下がりとなったため、打ち出した新機軸だった。今でも店の看板商品の一つだが、風鈴は夏に向けた商品で、時季外れの売り上げは見込めない。それが昨年あたりから急に、夏を過ぎても注文が続いた。年末年始に売れる干支(えと)の縁起物と制作時期が重なることもあり、うれしい悲鳴を上げている。
「今まで通り、国内の問屋やショップに卸しているだけなので、当初は全く状況がつかめなかった。BEENOSさんと連絡を取って初めて、海外での売り上げが100倍近く増えていると知ったのです」(遠藤さん)
越境ECに挑戦しない方がリスク
直井さんは「日本では夏向けの風鈴が、越境ECによって1年中売れる商品に生まれ変わった」と説明する。
海外ユーザーがBuyeeを通して購入するため、販売元ですら「なんかBuyeeって送り先の注文が多いな?」と思う程度で、越境ECだとは気付かない場合が多い。木之本漆器店の商品は、卸先を通じてYahoo!や楽天に出品されているのでなおさらだ。2020年から21年にかけて、ぎやまん風鈴がBuyeeの人気商品ベスト10にランクイン。テレビや雑誌の取材が入ったことで、直接連絡を取り合うようになり、サウジアラビアなど中東地域で人気があることや、海外での販売数を伝えたという。
遠藤さんは「うちの店だけでは海外通販なんて考える余裕はありません。すごい時代になったし、本当にありがたいこと」と、季節外れの忙しさを喜んでいた。
直井さんは「Buyeeのようなサービスの登場で、越境ECに参入するハードルは非常に低くなった。海外展開のリスクを恐れるより、挑戦せずにチャンスを失うことの方がリスクだと伝えたい」と力説する。
Buyeeでは大手サイトと連携するだけでなく、一企業やショップのECサイトに対してもサービスを提供。大きなカスタマイズの要望がなければ、専用のタグを埋め込むだけで導入可能で、初期費用やランニングコストも少額な上に、カスタマーサポートも担当してくれる。現地への輸送料などの実費に加え、海外ユーザーには1点当たり300円の手数料を課金する。それでも、取扱量が多いBuyeeは物流コストを抑えられるため、ユーザー側は個人輸入より安くなる場合が多く、煩わしい手続きも簡略化できるのだ。
「いずれは手数料を企業側に負担してほしいが、今は越境ECに参入する企業を増やすことを優先したい。コストやリスクが少ない分、現地でのプロモーションなどに力を注いでほしいとも考えている」
国内だけでなく、成長する市場を見るべき
BEENOSがグローバルコマースに力を入れ始めたのは、直井さんが入社してから。それが現在はグループの中核事業となり、海外向けのサービスは13にも及ぶ。直井さん自身、メディアやイベントでも積極的に情報発信しており、今や日本の越境ECにおいて伝道師的存在。その経歴や発想は、とてもユニークだ。
父親と祖父がそれぞれ会社を経営していたという直井さんは、幼い頃から漠然と「経営者になりたい」と考えていた。バックパッカーとしてアジアの国々を渡り歩いた大学時代、急成長する上海を訪れたのが海外市場に目を向けるきっかけとなる。
「小学生の頃にバブル時代を見て、記憶に残っている。かりそめの好景気だったのかもしれないが、みんな楽しそうに働いていた。僕の就職時期にはITバブルが崩壊し、日本の人口の成長も頭打ち。国内だけを見ていたら夢が小さくなりそうだったが、上海のように成長著しい地域も同じ市場と考えられれば、絶対に楽しく働けるはずだと思った」
大学卒業後は、さまざまな会社の経営に触れたいとコンサルティング会社に就職。2年間勤めて、「そろそろ自分で起業するぞ」と考えていた時に出会ったのが、BEENOSの創業者・佐藤輝英氏だった。
「佐藤さんは『経営者になりたいなら、自分の仕事を近くで見ればいい』と、僕を社長室に入れてくれた。どんなに重要な会議でも同席できたおかげで、IT事業というものを短期間で吸収し、半年後には『転送コム』を立ち上げた」
2008年設立の転送コムは、海外ユーザーが日本のECサイトで購入した商品を国内の倉庫で受け取り、海外発送手続きなどを代行するサービス。つまり、転送コムにECサイトとの連携や、決済サポートなどを付加したのがBuyeeである。
「転送コムの立ち上げ時期は、本当に苦労した。現地での手続きや交渉は困難の連続で、発注が一気に来て倉庫がパンクしたこともある。正直、『こんなに大変なら海外進出なんかしないで、国内に専念した方がいいのでは』と思うほど。だからこそ、越境ECに挑戦する企業が同じ苦労をしないようにと、転送コム、そしてBuyeeのサービスを充実させていった」
2012年のBuyeeの立ち上げと同時にヤフオク!、15年にはZOZOTOWNや楽天と提携するなど、越境EC事業は徐々に軌道に乗った。直井氏自身は12年にtensoの社長、14年にBEENOSグループ全体のCEOに就任。自分の会社を起業するはずが、2代目代表を引き継いでいた。
現地でのプロモーションが重要
SDGsが重要視されていることもあり、越境ECにおいてリユースの存在感も増している。
国ごとに商品の価値は変わるが、中古商品の値段には顕著に表れる。直井さんはその理由を「新品はメーカーが値段を決めるが、リユース商品は一点物で、購入者が値段を決める」と説明。ブランド品の場合、日本では限定アイテムの販売数が多かったため、中古市場にもよく出回るが、中国などではかなりのプレミアが付く。国内では10万円が相場のバッグが、20万円以上で落札されることも珍しくない。つまりオークションの場合、越境ECによって一番高く買ってくれる市場に商品を届けられるのだ。
では新品では、どんな商品が海外でウケるのか。直井さんも「それは予想できない」としつつ、「まずは、越境ECに挑戦すること。以前はSNSで日本の商品がバズッたとき、海外では手に入らない場合が多かった。チャンスを逃がさないように、すぐに買えるようにしておくことがとても重要」と話す。さらに、「やはりプロモーションが大切」と繰り返す。中古品とは違い、ブランドイメージや商品の魅力をしっかりと伝え続ける必要がある。
2020年12月に、BEENOSグループは青森県庁と連携し、Buyee内に繁体字の「青森特集ページ」を開設。青森はインバウンド誘致で苦戦しているため、直井さんも「正直厳しいのでは」と少し心配したが、県庁側が台湾のテレビ局とタイアップするなど、積極的にプロモーションを展開。予想以上の売り上げを記録した。
「うれしい誤算だったし、今後に向けて力をもらった。コロナ禍でインバウンドが減り、全国で海外から忘れられないかと心配している。しっかりプロモーションをして、日本の製品や名産品を販売すれば、忘れられることはない。僕らはもっとインフラ側を整えて、一緒に日本の越境ECを盛り上げていきたい」
写真=ニッポンドットコム編集部
バナー写真:木之本漆器店に飾られていた蒔絵の風鈴