日本でお化けになった私!
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日本に来てほぼ10年。日本で生活すれば、当然のように日本語もうまくなるだろうと思っていた。たくさんの人とコミュニケーションを取り、日本文化や習慣などへの理解も深まると思っていたのに…。
しかし、そんなのはただの妄想だ! 日本で暮らすうちに自分の母国語であるアラビア語を少し忘れてもしょうがないけれど、せっかく勉強した日本語も忘れるぐらい、日常生活で人としゃべる機会がない!
日本で暮らしていると、あらゆるところが機械化されていて、ほとんど会話しないでも生活ができる。コンビニ、スーパー、ドラッグストアなどに行っても、お店の人がバーコードでピッと値段を読み取り、総額はディスプレイに表示される。ヘッドホン付けたままで口をきかなくても支払い完了。一日中、誰とも話さずに終わることが多い国だ。なんだか、お化けになったような気分。もしかして、みんなから見えていないのかも? 自分の存在を疑ってしまう時もある。
昔、勤めていた会社では、すぐ隣の席の人から何も言わずにメールで連絡があることがよくあった。もちろん、メールは履歴が残るので、確かに便利だと思う。でも、その時に、「八山さん、さっき来週の会議の案内を送ったよ。よろしく!」みたいに、一言声をかけてほしい。逆に、その場にいるなら、「メール見たよ」「了解」と一言で済ませたっていいと思う。
コロナ禍に見舞われてから、外出自粛が求められ、企業も在宅勤務を推奨するようになった。人とのコミュニケーションもメールやSNSばかり。社会とのつながりを感じられず孤独な気持ちになってしまった。
目の前にいないのでメールに返信があっても、その人が本当に元気なのかどうか分からない。せめて声を聞きたいと思うので、在宅勤務になってからメールの後に電話もするようにしている。同僚とコミュニケーションを取ると、不安な気持ちが少し落ち着いてくる。今こそ大変な時期だからお互いに応援しあったりするのが大事だと考えてる。
人間のGPS
エジプトで暮らしていた頃は、ナビが付いている車はほとんどなかった。カイロ空港まで初めて車で行ったときに、高速道路からの出口が分からなくなってしまい、運転しながら車の窓を開けて、バスに手を振って大きな声で「道が分からないんだけど、カイロ空港まで行くにはどうすればいい?」と叫ぶと、バスのドライバーは「このバスは空港まで行くので、後ろから付いてきて」と言ってくれた。これはエジプトのGPSだ。機械ではなく人間とコミュニケーションで何でもやる国だ。
日本でも同じことやってみたいけどどんな反応になるだろう。
カオナシだらけの世界
2020年の年明けとともに始まったコロナ禍は、いまだに終わりが見えない。ワクチン接種が本格化して一息つけるのかと思いきや、8月は変異株のデルタ株が猛威を振るい、感染者が激増している。さらに、ペルー由来のラムダ株が確認されているという。まるで、目の覚めない悪夢だ。いったいいつ終わるのか、そもそも終わりってあるか、半信半疑だ。
もちろん自分を守るために、皆マスクをしている。マスク無しでの会話はほとんどのところで許されていない。残っていた1割ぐらいのコミュニケーションがコロナに奪われてしまった。
人間は言葉がなくても表情などで相手の言いたいこと、感じていることがわかることが多い。しかし、みんなマスクしているから、スタジオジブリの映画『千と千尋の神隠し』のキャラクターであるカオナシのようになった。うれしいのか、悲しいのか、笑っているのか、怒っているのか、全く分からず、みんなの顔が一つになってしまった。
エジプトはもともとマスクをする習慣がなかったが、コロナ流行以降、マスクの着用が義務化された。官公庁、銀行、商業施設、交通機関など公共性の高い場所に加えて、屋外であっても社会的距離が取れない場所でマスク無しでいると、その場で罰金が徴収されるようになった。
ところが、コロナ禍が長引くつれ、コロナ慣れしてしまったためか、最近ではマスクをしている人が減っているらしい。つい先日、エジプトで暮らす兄に電話して、「デルタ株がはやっているみたいだから気を付けて」と言うと、「マスクはいつもポケットに入れて持ち歩いてから大丈夫だよ」と答えが返ってきた。ポケットにあるだけで感染しないのかエジプトでは?
因みに、エジプトのこれまでの累計感染者数は28万9000人で、1日当たりの新規感染は100人程度。日本と比べてもワクチン接種は遅れているというのに、本当に恵まれた国だ。今はマスクをする人がほとんどおらず、マスクをすると逆に変な目で見られてしまうらしい。家族や友人が集まって結婚式やパーティーも開かれているし、コンサートではマスクなしで観客も熱狂している!
エンドレスな緊急事態宣言下の生活をしているのは私たちだけ?
マスクとアイデンティティ
コロナ禍以前は、もちろん、日本でもマスクをすることはほとんどなかった。私が外国出身であることは一目で分かるので、日本語を間違っていても平気だし、買い物などの時にみんな親切で暖かい。
しかし、コロナでマスクをするとみんなと同じようになった。顔の半分以上マスクで隠し、日本語で話すと日本人だと思われたことも何度もあった。帰化してから100%日本人扱い。帰化人ではなく、日本人。とても嬉しいけど緊張している。
ある日、明治神宮前駅の改札で、お年寄りから「すみません、山手線はどの辺ですか」と尋ねられた。マスクをしているので外国出身者だと分からなかったのだろう。初めてのことで、驚いたけれどうれしかった。一瞬考えてから、うまく答えられたと思う。You just made my day!
人間は社会的動物だと言われている。言葉を持っていることが他の動物との違い。コロナ禍で言葉とコミュニケーションの大切さを感じるようになった人も多いのではないだろうか。
これまでの日本社会は、機械に頼りすぎて、他者の存在を忘れてしまうケースが多くなっていた。コロナ禍は友人や家族との絆を深めるチャンスだ。
コロナとの闘いはまだまだ終わりそうもないので、気持ちを強く持っていないと簡単に乗りきることはできない。何とかみんなで一丸となって頑張りたいと思う。
トンネルの先から光が見えてくるまで希望を捨てずに頑張りましょう!
バナー写真 :PIXTA