乾物を災害時の備蓄に加えよう : 包丁いらずで野菜たっぷり料理をプラス
防災 食 社会- English
- 日本語
- 简体字
- 繁體字
- Français
- Español
- العربية
- Русский
乾物は「フェーズフリー」
ここ数年、フェーズフリーという言葉が聞かれるようになった。平常時と非常時を分けるのではなく、そのどちらでも使える商品やサービスが増えることがもしもの時への備えになるという考え方だ。私は、乾物はまさにフェーズフリーと考えている。
乾物は、食品を乾燥させて水分を少なくすることで、常温長期保存が可能になり、無駄なく使うことができる。私たちは、日々、乾物のお世話になっている。和食に欠かせない出汁(だし)の旨みも、昆布やかつお節、煮干しなどみな乾物由来である。
非常食は、もしもに備えて、何年も長期保存できることが必要だと考えられてきた。しかし、3年、5年ともつことが油断を生み、賞味期限切れで廃棄した経験がある人も少なくないのではないだろうか。
乾物は半年以上日持ちし、中には何年も保存できるものもある。「それだけ保存できるなら乾物も備蓄食材として使える」という認識が、防災関係者の間でも広まってきている。2020年に農林水産省が作成した『災害時に備えた食品ストックガイド』でも乾物が取り上げられ、その執筆を担当させていただいた。
乾物を備蓄に加えるメリットと課題
「乾物さえあれば安心」と言いたいのではない。缶詰やレトルト、市販の非常食などに「加えて」乾物を常備することを提案したい。乾物を備蓄することのメリットを以下に挙げる。
◆普段の食事に使えるので、ローリングストックがしやすい◆
日常食としての乾物は、普段の食事に使うものを多めに買って備蓄し、使った分だけ補充する「ローリングストック」に向いている。「いざというときに賞味期限が切れていた」「食べ慣れず、おいしく思えなかった」などの問題を避けることができる。近所のスーパーで買え、軽いので持ち運びの負担がないのも長所だ。
問題は、若い世代を中心に、「料理に使ったことがない」という人が少なからずいること。「しょうゆ味の煮物ばかり、地味だし、面倒くさそう」といった乾物への先入観を払拭するレシピや、現代のライフスタイルにあった活用法が広まることが必要だ。
◆食材の種類が豊富で栄養バランスが取りやすい◆
切り干し大根や干し椎茸などの野菜類、煮干しや桜エビ、かつお節などの魚介類、わかめやひじきなど海藻類、豆類、ドライフルーツ、ナッツなど、乾物は種類が豊富だ。味や風味、栄養のバリエーションも広がる。
非常時、備蓄品や救援物資の食材は炭水化物に偏りがちで、「野菜が食べたかった」という声を多く耳にする。乾物はそうしたニーズにも対応できる。
また、被災時のトイレ事情や緊張から、便秘になりがちとはよく聞く話だ。乾物は全般的に食物繊維が豊富だが、特に海藻類には便秘に効果的な水溶性食物繊維が多く含まれる。その手軽な食べ方を知っていれば役に立つはずだ。
◆生ごみが出ない◆
乾物は、皮をむいたり、切ったりしたうえで乾燥させたものが多く、調理の際にごみが出ないことも大きなメリットと言える。
災害時は、ごみ収集にも支障が生じる可能性がある。避難所など多くの人が生活を共にする空間では、臭いの原因は極力減らしたい。普段の生活でも生ごみが少ないのは助かるはず。乾物を使った料理教室では、参加者は、ごみの少なさに皆驚く。
ここからはそんな乾物を、「いつも」も「もしも」も美味しく食べるレシピをご紹介しよう。
「いつも」も「もしも」も美味しく食べる乾物レシピ&アイデア
≪缶汁で戻す!切り干し大根とツナ缶の梅風味あえ≫
[材料]
切り干し大根15g / ツナ缶ノンオイル無塩1缶(70g) / 塩昆布2g / 梅干し1個(粒状の乾燥梅干しも市販されている)、白いりごま適量
[作り方]
- ごま以外の材料をポリ袋に入れてよく混ぜる。この時、梅干しは袋の中でちぎるようにして細かくする。混ざったら、15分ほどおく
- 器に盛って、ごまを振る。梅干しの塩分によってはしょうゆなどで味の調整をする
[ポイント]
- 切り干し大根は、加熱せずに水分で戻すだけで食べられる
- ツナ缶は「ノンオイル」の方が乾物の戻りが早く、「無塩」の方が味の調節をしやすい
- ツナ缶に残った水分は、切り干し大根でふき取るなどして、臭いの元を断つ工夫を
≪加熱不要!ポテトフレークで簡単ポテサラ≫
[材料]
乾燥わかめ1g / サケ水煮缶1缶(90g) / 水150ml、A [ポテトフレーク 50g、玉ねぎ薄切り 1/8個分 / マヨネーズ大さじ3 / プレーンヨーグルト大さじ2 / わさび・塩各少々]
[作り方]
- 乾燥わかめとサケ水煮缶を混ぜ、わかめが柔らかくなるまで5分ほどおく
- 空になったサケ缶に水を入れてすすぐようにして1に加え、さらにAも加えてよく混ぜる
[ポイント]
- 災害時は包丁やまな板が必要となる玉ねぎは省略し、要冷蔵のヨーグルトは使わずにマヨネーズの量を増やして調整。ボウルを使わず、ポリ袋で混ぜれば洗い物を減らせる
- ポテトフレークは長期保存可能なパック入りの牛乳や豆乳で戻しても良い
- サケ缶の内側はわかめでふき取り、臭いの元を断つ
- ポテトフレークは、加熱済みのジャガイモをフレーク状に乾燥させたもの。水を加えるだけで食べることができるので、コロッケやビシソワーズ、ニョッキなどにも活用できる。水分量で硬さを調節できるので、離乳食や介護食としても利用しやすい
≪捨てる水無し、包丁いらず!トマトジュースで作るスピードパスタ≫
[材料]
A [ショートパスタ100g / スライス干し椎茸2g / さきいか10g / 花切り大根(なければ切り干し大根でも)2g / 切り昆布1g / 赤唐辛子1本 / 無塩トマトジュース200ml]、塩・こしょう各少々
[作り方]
- 鍋にAを入れ、かぶる程度の水(分量外)を加え、ふたをして火にかける
- 沸騰したら弱火にして、指定のゆで時間を目安にパスタが柔らかくなるまで加熱。ふたをとり、水分を飛ばすようにかき混ぜる
- 塩・こしょうで味を調え、器に盛る。あれば、パセリとチーズをふる
[ポイント]
- トマトジュースは無塩・濃いめがおススメ。有塩は塩分に注意
- ホタテ缶やアサリ缶などを加えるとぜいたく感がアップする
- 乾燥パセリや粉チーズは常温保存できるので、常備しておけば普段使いにも便利
≪便利な「粉もの」を使いこなそう≫
米粉や小麦粉は、水やスープで溶いて汁物に落とせばすいとんになる
すいとんに野菜パウダーを混ぜれば色が美しく、野菜嫌いな子供にも食べやすい。
野菜パウダーはパンケーキやお菓子作りにも使え、離乳食や介護食にもなり便利だ
≪戻すだけで食べられる棒寒天で食物繊維を手軽に補給≫
棒寒天には便秘に良いとされる水溶性食物繊維が多い。ちぎって味噌汁やスープにトッピングするのもオススメだ。写真のようにフルーツ缶詰に入れるだけでも栄養がアップする。
平時から乾物を使いこなそう!
乾物があれば、「もしも」の時に従来の備蓄品に足りない栄養や風味、旨みを加えることができる。そして、乾物を普段から使い慣れていれば、どんなものが使いやすいか、自分の家族のニーズに合っているかを把握できるだろう。
「いつも」の食卓でも、和食に限らず、さまざまな料理に活かすことができる乾物。これを機に、乾物を見直してもらいたい。
興味を持っていただけたら、乾物に関する役立つ情報をお伝えする無料のメルマガをお読みいただけたら嬉しい。「乾物って、こんなに簡単!日々の料理を手軽に美味しく」
バナー写真 : 災害用のストックとして活用できる乾物ラインナップ