台湾出身の歯科医が目撃した新型コロナワクチン接種の舞台裏

暮らし 健康・医療

一青 妙 【Profile】

作家・女優として活躍する筆者は、歯科医の国家資格も持つ。新型コロナウイルスのワクチン接種において、東京都港区の東京アメリカンクラブを使用した接種会場で7月から「打ち手」として奮闘している。日本政府が脱コロナのための「切り札」と位置付けるワクチン。その接種の最前線で目撃した現実と問題点を、家族のルーツである台湾のワクチン接種状況とも比較しながら紹介する。

日本は人材配置をもっと効率的に

米国では、スーパーや薬局でもワクチン接種を受けられ、医師や看護師だけでなく、医療系の学生や獣医師も打ち手となっている。おかげで、2021年8月14日時点の米国での部分接種率(少なくとも1回は接種した人)は約60%となり、世界でも高い水準だ。同時期の日本は約49%となっている。

私の故郷でもある台湾では、2021年3月からワクチン接種が始まったが、新型コロナが抑え込まれていたため、部分接種率はわずか1%未満だった。ところが、5月に感染爆発が起き、強い危機感が広がった。日本をはじめとした世界各国からのワクチン供給もあり、6月以降の部分接種率は急激な右肩上がりで8月14日時点で約38%だという。台湾には「国民身分証」があるので行政が一元管理しやすく、予約システムの開発も素早い。部分接種率は日本に追いつき、追い抜かす勢いだ。

筆者が使ったネームカード(筆者撮影)
筆者が使ったネームカード(筆者撮影)

日本の接種率は、大規模接種センターが設置された6月くらいから急激な角度で上がっているが、打ち手となった私から見ると、まだまだ問題点はある。

周囲で私と同じように講習と実技研修を受け、「東京都新型コロナウイルスワクチン接種人材バンク」に登録した知人もいるが、打ち手としての要請がほとんど来ない状況だ。TACの会場では、東京から相当な距離のある他府県から来ている医師や看護師もかなり見かけた。会場があっても、そこから先の人材の配置については、十分に効率化が図られていないように感じた。

政府をはじめ、市町村、医療関係者、日本医師会や日本歯科医師会のような各団体の連携がうまく取れておらず、手を挙げている数多くの人材をうまく活用しきれていないのではないだろうか。また、最近では、医師会や歯科医師会に入会していない医師も多い。未入会の医師・歯科医に情報はあまり届けられていない。人材派遣会社も、調整役としての役割を十分に果たせていないように思えた。

TACで1日に平均200人以上のワクチンを接種した。人生で最も多くの注射を打つ夏となった。ようやく、新型コロナ感染の拡大抑止の一翼を担えたことは喜ばしいことだが、もっと他の会場でも、私のような歯科医師に活躍の場を与えてほしいと思う。新型コロナの発生から1年半以上の時間が経過した。日本人の真面目で几帳面な性格を生かし、もっとワクチン接種のスピードが速まれば、日本政府が目指している「安全・安心な社会」に早く近づけるはずだ。

バナー写真=ワクチン接種会場の筆者(サム・ローガン氏提供)

この記事につけられたキーワード

台湾 ワクチン 新型コロナウイルス 新型コロナ 治療薬・ワクチン ワクチン接種

一青 妙HITOTO Tae経歴・執筆一覧を見る

女優・歯科医・作家。台湾人の父と、日本人の母との間に生まれる。幼少期を台湾で過ごし11歳から日本で生活。家族や台湾をテーマにエッセイを多数執筆し、著書に『ママ、ごはんまだ?』『私の箱子』『私の台南』『環島〜ぐるっと台湾一周の旅』などがある。台南市親善大使、石川県中能登町観光大使。『ママ、ごはんまだ?』を原作にした同名の日台合作映画が上映され、2019年3月、『私の箱子』を原作にした舞台が台湾で上演、本人も出演した。ブログ「妙的日記」やX(旧ツイッター)からも発信中。

このシリーズの他の記事