東京2020オリンピック展望「ゴルフ」:地元の利を生かし、男女とも日本代表はメダル候補

スポーツ 東京2020

前回のリオデジャネイロ五輪で112年ぶりに競技種目となったゴルフ。リオ五輪では、日本勢は男子が池田勇太の21位、女子は野村敏京の4位が最高だった。今大会は、2021年、マスターズを制した松山英樹(29歳)、米ツアーで2年ぶりの優勝を果たした畑岡奈紗(22歳)、そして好調を維持する星野陸也(25歳)、稲見萌寧(21歳)と勢いのある若手がそろい、しかも地元開催で地の利もある。一方、海外勢も世界ランクのトップ選手が数多く出場するなど前回大会以上にハイレベルな戦いになり、注目度が高くなることが予想される。

男子の金メダル候補筆頭はモリカワ

前回のリオデジャネイロ五輪に比べると、東京五輪に出場する選手は男女ともに好選手がそろった印象だ。特に顕著なのが7月29日~8月1日の日程で行われる男子。リオの時は、ジカ熱の流行や治安への不安などを理由に多くの有力選手が出場を回避した。そのため参加選手の世界ランキングはバッバ・ワトソン(米国)の5位(出場決定時)が最高だった。

しかし、今回は2021年7月の全英オープンでメジャー2勝目をマークした世界ランキング3位のコリン・モリカワ(米国)や2017年の全米プロなど米ツアー通算14勝を挙げている同4位のジャスティン・トーマス(米国)、メジャー4勝のローリー・マキロイ(アイルランド)らスター選手が初参戦する。

当初は世界NO.1のジョン・ラーム(スペイン)に、米ツアーきっての飛ばし屋ブライソン・デシャンボー(米国)の2人も母国に金メダルを持ち帰ろうと出場に意欲を示していたが、来日前の新型コロナウイルスの検査で陽性反応が出たため、残念ながら欠場を余儀なくされた。

今回集まった顔ぶれの中で、有力な金メダル候補と見られているのがモリカワだ。父親が日系米国人で、2019年にカリフォルニア大バークレー校を卒業した後にプロ転向。翌年の全米プロで初出場Vを果たし、一躍脚光を浴びた。パワー自慢がそろう米ツアー選手の中で身長1m75cm、体重73㎏の体は細身に映る。

ティーショットの平均飛距離も294・3ヤードでランク114位と下位。だが、ショットの精度を示すストーク・ゲインド・ティー・トウ・グリーンは2・044で米ツアートップ。パッティングも右手の甲を上に向けて構えるクローグリップに変えてから安定感が増し、東京五輪前の最後のメジャー大会となった全英オープンでは隙のないゴルフで逆転勝ちした。

一方、期待の日本勢も充実したメンバー。エースの松山英樹は7月初めに新型コロナウイルスに感染し、全英オープンの出場を取りやめて、回復と調整に努めてきたが、コンディションさえ整えば、金メダル争いに割って入る力は十分過ぎるほどある。

会場は松山の慣れ親しんだコース

会場の霞ケ関カンツリー倶楽部(埼玉県川越市)は東コースと西コースがあり、松山にとってはジュニア時代から何度もプレーした慣れ親しんだ場所。五輪は東コースで行われるが、2010年に西コースで開催されたアジア・パシフィックアマチュア選手権では2位に5打差をつける圧勝で、翌年のマスターズの出場権を獲得。世界に羽ばたくきっかけをつかんだ。

東コースは15年から約1年かけて改修が行われ、世界基準のゴルフ場に生まれ変わった。ニつあったグリーンを一つに統一。それにより面積が広くなり、うねりのあるタフなグリーンになった。全長も484ヤード伸びて7466ヤードに。フェアウェーは起伏があり、要所要所にバンカーを配置。グリーンの周囲には深いガードバンカーが口を開けて待っており、ショットの精度が求められる戦略性の高いコースに仕上がっている。

オーガスタを制した松山の武器はショット力。そのクオリティーの高さを東京五輪日本代表の丸山茂樹ヘッドコーチは「世界トップレベル」と評価する。切れ味鋭いアイアンショットでバーディーチャンスを量産し、グリーン上で確実にそれをモノにするのが松山の必勝パターン。今季は自身初めてとなる専属コーチの目澤秀憲氏をチーム松山に迎え入れ、パット力も向上した。地の利に恵まれた今大会は松山にとって、表彰台を狙ううってつけの舞台とも言える。

丸山ヘッドコーチも「マスターズが終わった後に1カ月くらい休んで、好不調の波はありますけど、ちょうど7月の終わりくらいの頃がバイオリズム的にもいいんじゃないかなと思っています。(松山と星野陸也は)飛距離も申し分ないし、非常に期待したいなと思っています」と話す。

星野は伸びしろと勢いに期待

松山と共に日の丸を背負う星野も、楽しみなプレーヤーだ。2021年に入って国内ツアーで2勝を挙げ、一気に世界ランキングを上げて出場権を手にした。6月には五輪出場を確実なものにするため、全米オープンにも挑戦。米国で行われた予選会を勝ち上がって本大会に進み、26位タイと健闘した。

同大会のテレビ中継のゲスト解説を務めた元選手会長の深堀圭一郎は、星野のストロングポイントについて「ドライバーがうまい。飛ぶし、ブレが少ない」と語る。その言葉通り、全米オープンの3日目には平均飛距離324.70ヤードをマーク。これは全体の10位となる数値で、フェアウェーキープ率も64.29%で8位と全選手の平均を大きく上回っていた。

「陸也のドライバーショットは中弾道のドロー。高弾道の人は左肩が上がることが多いけど、彼の場合はきれいに体が回転していく。下からあおって打つことがないから、左右の球のズレも起こりにくい。それに、彼は思い切りのいいプレーをする。パットもしっかり打ち抜いて、ちゅうちょしてミスすることがない」

もちろん、課題もある。グリーン周りのアプローチなどは経験がものを言うだけに、世界のトップ選手と比べればまだ安定感を欠く。それでも元選手会長は「すごく前向きで気持ちが強い選手だから、トップ選手のプレーを見て勉強して、どんどん吸収していくはずです」と、25歳の勢いと“伸びしろ”に期待を寄せる。

トップ10が勢ぞろいの女子

一方、8月4日~7日に行われる女子は、6月の全米女子プロでメジャー初優勝を決めた世界ランキング1位のネリー・コルダ(米国)を始め、トップ10内の選手が全員出場する。メダル争いは男子以上に激戦になりそうなムードだ。

だが、日本勢も頼もしい顔ぶれ。米ツアーを主戦場とする畑岡奈紗は今年の序盤こそ調子が上がらなかったものの、フック気味に握っていたグリップをスクエアに変えてからショットが安定。6月の全米女子オープンは笹生優花とのプレーオフで敗れ、惜しくも悲願のメジャー制覇はならなかったが、大舞台で復調をアピールした。さらに、五輪前の自身最後のストローク戦となった7月のマラソン・クラシックでは、初日に10アンダーの61を出して2年ぶりの米ツアー優勝を飾り、五輪本番へ大きな弾みをつけた。

「(春先は)ずっと調子が良くなくて、彼女自身、自分の感覚と合っていないと言っていました。でも(全米女子オープン前の)マッチプレーの時にきっかけをつかんで、良い方向に(プレーが)かみ合うようになった。ショットが良くなるとパットもアプローチも目線が合ってくるようになり、攻め方も研ぎ澄まされていきます。(霞ケ関CCには)いい状態で臨めるのではないでしょうか。あとは体調だけだと思います」と東京五輪女子日本代表の服部道子コーチも仕上がりに太鼓判を押す。

もう一人の稲見萌寧も勢いでは負けない。今年のツアーが始まる前の世界ランキングは、日本人5番手の63位と五輪を意識するような位置ではなかった。ところが、3月から5月までの13試合で何と5勝を挙げ、短期間で畑岡に次ぐ2番手まで躍進し、大逆転でメンバー入りを決めている。

服部コーチはそんな稲見の急成長の要因を「一番はパットだと思います」と指摘する。

「(奥嶋誠昭)コーチのアドバイスで右脇に余裕を持たせて打つようになり、ストロークが良くなったと聞いています。もともとショットは素晴らしかった。それに加えてパットが入るようになると、最後の最後で勝ち切れるようになります」

日本の蒸し暑さはどう影響するか?

女子はコルダ姉妹ら米国勢4人と、世界ランキング2位のコ・ジンヨンらを擁する韓国勢4人が、メダル争いのライバルになりそうだ。ただ、今回はフィリピン代表で出場する笹生やタイのパティ・タバタナキットら、今季メジャーで初優勝した伸び盛りの若手も好調をキープしており、侮れない存在だ。

服部コーチは「米国勢は日本の蒸し暑さに慣れていないので、それがどうかというのはあります。コースはグリーンのアンジュレーション(起伏)がきつく、周りにアメリカンタイプの深いバンカーがあって、セカンドショットの精度がとても大事になります。でも畑岡選手と稲見選手は日本が誇るショットメーカー。すごく合っていると思います」と期待感を高める。

ゴルフ競技の開幕まであとわずか。表彰式で日の丸が掲げられるシーンを楽しみに待ちたいが、いずれにしろ世界のトップランカーによる白熱した戦いになるのは間違いだろう。

バナー写真:(左から)松山英樹(AFP=時事)、星野陸也(時事)、畑岡奈紗(AFP=時事)、稲見萌寧(時事)

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