レトロから進化系まで「自動販売機よ、永遠なれ」―“自販機愛”が止まらない人たち

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板倉 君枝(ニッポンドットコム) 【Profile】

設置台数は減少傾向だが、多様化・多機能化する自動販売機は根強い人気を誇る。自販機探訪や昭和時代の自販機の修理・復活に情熱を燃やす人たちに話を聞き、コロナ禍で転機を迎えている自販機の魅力とさらなる進化の可能性を探る。

逆風を乗り越えて多様化・多機能化

2000年の560万台をピークに、自販機の設置台数は減少傾向が続き、20年末時点で404万台。アルコール類の屋外自販機、タバコ自販機の激減やコンビニの台頭が大きな要因だ。また、東日本大震災後には、当時の石原慎太郎都知事が「大きな電力を使う自動販売機はなくても生きていける」と発言、大きな逆風となった。「震災の前から自販機業界は涙ぐましい省エネ化の努力をしていたのに、電力を無駄に使っているぞと言われて腹がたちました」と野村誠さんは振り返る。

震災の経験を機に、大手飲料メーカーは「災害対応自販機」に力を入れるようになった。自然災害などで停電になった際に、簡単な操作で自販機に必要な電力を供給し、飲料製品を被災者に無償提供することができる。また、売り上げの一部を福祉団体に寄付する仕組みや、防犯カメラを内蔵した「見守り」機能を備えるなど、さまざまな「社会貢献型」自販機の開発・設置も進む。中でも、伊藤園は「ポケモンGO!」とタイアップしてポケモンの捕獲に必要な道具等を入手できる「ポケストップ」や、他のプレーヤーのポケモンと戦うことができる「ジム」として登録することで、災害対応型の設置台数を2011年当時の4倍まで伸ばした。4月からは、各自治体の「推しポケモン」がデザインされた自販機の設置を進めている。

「北海道お取り寄せグルメ」自販機(埼玉県川口市)
「北海道お取り寄せグルメ」自販機(埼玉県川口市)

数では全盛期を過ぎたとはいえ、ネットやSNSでは日々新種自販機の情報が飛び交う。中には、食品サンプル、仏像、昆虫食からドローンまで、変わり種の商品を扱う“珍自販機”もある。「結婚指輪も自販機で買えますよ」と野村さんが教えてくれた。「千駄ヶ谷の宝飾店が設置しています。24時間いつでもプロポーズできるように、ということらしいです」。コロナ禍では、「冷感マスク」やPCR検査キット自販機も登場した。

地方の特産品が購入できる自販機では、富山県のホタルイカ加工食品など、7県の特産品が買える羽田空港第2ターミナルビル内の「ご当地自販機」が人気だが、意外な場所で「発見」することもある。「最近、運転中に川口市でたまたま見つけたのが『北海道お取り寄せグルメ』自販機。メロンゼリーからカマンベールチーズ、ほたての塩辛まで、品ぞろえが豊富です」(野村)

コロナ禍から生まれる新機軸

コロナ禍で、自販機は新たな転機を迎えている。観光地や駅、オフィスに設置された自販機販売は落ち込んでいるが、非対面で省スペースという利点に注目した、新機軸を模索する動きが目立つ。

ラーメン業界では、ミシュラン掲載店を含む人気店のラーメンの味を楽しめる冷凍ラーメン自販機が登場。地元で人気のイタリアンレストランがオリジナルドレッシングを、また人気ハンバーガー店が冷蔵バーガーの自販機を設置したなどの報道もあった。店内の密を避けて、自宅でお店の味を楽しんでほしいという試みだ。

2020年12月には、広島のカキ養殖会社「ファームスズキ」が東京・虎ノ門ヒルズに「カキフライ自販機」を設置した。冷凍なのでお土産として購入もできるし、併設の電子レンジで加熱して、イートインスペースでアツアツを食べることもできる。

冷凍商品大手のニチレイは、NTT西日本とコラボで、オフィスに冷凍弁当自販機を設置する実証実験を始めている。コロナ禍による在宅勤務の広がりで社員食堂を廃止した企業などに売り込む予定だ。

AIの活用も進む。JR東日本ウォータービジネスは、5月から「AI多機能」飲料自販機の実証実験を新宿駅、上野駅・東京駅・品川駅・秋葉原駅で開始した。タッチパネルに表示されたAIキャラクター「さくらさん」とじゃんけんやおみくじゲームが楽しめる。結果に応じてお勧め商品が表示されたり、クーポンがプレゼントされたりする。

上野駅に設置された「AIさくらさん」(左)/メインメニュー画面(右上)とエンタメ機能画面。タッチパネルは非接触で操作可能。日本語、英語・中国語(簡体字・繫体字)・韓国語に対応する(タッチパネル画像提供:JR東日本クロスステーション ウォータービジネスカンパニー)
上野駅に設置された「AIさくらさん」(左)/メインメニュー画面(右上)とエンタメ機能画面。タッチパネルは非接触で操作可能。日本語、英語・中国語(簡体字・繁体字)・韓国語に対応する(タッチパネル画像提供:JR東日本クロスステーション ウォータービジネスカンパニー)

「自販機はどんどん進化して、もうすぐ、動く自販機の時代が来るのではないかな」と野村さんは言う。「例えば、自立移動で商品を補充して、元の場所に戻るくらいのことはできそうです。街を歩き回る自販機ロボットが登場する日も、そんなに遠くないかもしれません」

バナー:昭和世代には懐かしい「ボンカレーライス」自販機(右)と「北海道お取り寄せグルメ」自販機(バナーおよび本文中写真は出処を明示したもの以外、野村誠さん提供)

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出版社、新聞社勤務を経て、現在はニッポンドットコム編集部スタッフライター/エディター。

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