魔除けで溢れる台湾と日本――爆竹とアマビエ

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大洞 敦史 【Profile】

古来、人々は病気や自然災害などが人格をもった存在によって引き起こされると考え、それを遠ざける力を持つとされる物や儀式を生活の中に取り入れてきた。日本のしめ飾り、豆まき、台湾の爆竹や春聯などはその典型だ。2012年から台湾で暮らす筆者が、体験を交えて日台の魔除けの比較を試みた。

「赤」がもつ二面性

赤い色が悪いものを遠ざける呪力を持つと昔から考えられてきた点は、日本も同じだ。台湾ほどではないが、今も年中行事や食べ物の中にその思想を反映したものがある。

お祝いの膳に欠かせない赤飯がその一例だ。その原型は小豆を入れた粥(かゆ)で、平安時代の宮中では邪気を払うために正月15日に食べる習慣があった。10世紀の書物『土佐日記』や『枕草子』にも言及されている。当時は赤米という、赤みを帯びた米が一般的だった。時は下って江戸時代、麻疹(はしか)が大流行した年に描かれた「麻疹送出しの図」にも、人々が赤い鏡餅を麻疹の神に供え、棒で担いで送り出す様子が描かれている。

「麻疹送出しの図」(東京都立中央図書館特別文庫室所蔵)
「麻疹送出しの図」(東京都立中央図書館特別文庫室所蔵)

興味深いのは、日本において、赤は「鬼」の典型的な肌の色でもあることだ。「桃太郎」の絵本などでもおなじみだろう。他にも青鬼、黄鬼、緑鬼、黒鬼などがおり、これらはそれぞれ仏教思想における煩悩を象徴しているとするのが定説だ。赤は欲望、青は憎悪、黄色は執着、緑は怠惰、黒は疑いを表す。

日本の節分(立春の前日)の豆まきも魔除けの儀式だ。子どもの頃は「鬼は外、福は内!」と豆をまき、後日、部屋の隅に落ちている豆を見付けては、ほこりを払って食べるがひそかな楽しみだった。

豆まきの起源も古い。15世紀に書かれた瑞渓周鳳という僧の日記『臥雲日件録』にも「家毎散敖豆、因唱鬼外福内」という記載がある。日本人には大変なじみ深い風習だが、鬼すなわち煩悩と考えると、これは自らの心を浄化させるための儀式だとも解釈できるだろう。

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大洞 敦史DAIDO Atsushi経歴・執筆一覧を見る

1984年東京生まれ、明治大学理工学研究科修士課程修了。2012年台湾台南市へ移住、そば店「洞蕎麦」を5年間経営。現在「鶴恩翻訳社」代表。著書『台湾環島南風のスケッチ』『遊步台南』、共著『旅する台湾 屏東』、翻訳書『フォルモサに吹く風』『君の心に刻んだ名前』『台湾和製マジョリカタイルの記憶』等。

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