
最も身近な野鳥カラス:人間に寄り添って暮らす知恵者
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雑食性と発達した脳により人間の近くに生息
カラスは、森の生き物と言うよりも古くから人間の暮らしの中にいた。その証しとしてノアの箱舟の神話、旧約聖書、コーランなど人類の創生史の記述にもたびたび登場する。日本において祭事に祭られたりするのもそのためだろう。いずれにしろ彼らにとっては、ヒトのそばで暮らすことに利点があった。今でこそイノシシやクマがヒトの生産する農作物に寄って来るが、カラスはいち早くヒトの営みからの利益に気付いていた。人間の近くに生息した生物学的要因は、雑食性と発達した脳にある。つまり、餌として農作物あるいは廃棄された食材や食べ残しを全て利用できること。そして葬儀の後はお供えとして食材が出てくるというヒトの営みと食物の因果関係を読み解く知的能力があったのである。
このようにカラスはわれわれと生活圏をともにする「隣人」ならぬ「隣鳥」となっている。しかし、しょせん人間と鳥、人間同士の隣人愛とは程遠い感情を私たちが抱かざるを得ないのも事実である。日本で今起きているカラスと人間の軋轢の具体例を紹介する。
無視できない広範囲で甚大な被害
カラスはあらゆる場所で問題を引き起こす。なにせ、人間のいる所にはカラスもいる。主な被害現場は以下の通りである。
畜舎:ハシブトガラスは牛舎を好む。牛の餌に含まれるトウモロコシやムギの粒が大好物である。また、隣接する堆肥場にはミミズなどの昆虫も豊富で餌の宝庫だ。これらを食べるだけならいいが、カラスの頭の高さとウシの乳頭の高さがほぼ同じ位置にあるため、牛舎で乳頭を突くことがある。そのかみ傷が乳房炎を発症させ、重症化し廃牛として処分に至る場合もある。さらに傷口を執拗(しつよう)に突くあまり太い血管を突き破り失血死させることもある。また、病気の持ち込みも考えられ、畜産農家には敬遠される存在だ。
動物園:畜舎と同じくハシブトガラスは動物園を好む。多くの動物園では肉食動物から草食動物まで多様な動物を飼育しているので、餌も種類が豊富である。雑食のカラスには格好の餌場となる。いわゆる盗食である。さらには、幼獣をつついて傷める事故もあるので厄介者として嫌われている。
電力会社:一般的には知られていないが、電力会社の被害は深刻である。電柱や送電鉄塔への営巣が送電障害の原因となる場合が多い。カラスの営巣素材が電柱や鉄塔にある電線と電線の接続部に触れて、何千世帯もの停電を招くこともある。北陸電力は何万本とある電柱を巡回パトロールし、停電を起こしそうな巣を毎年撤去している。2018年、営巣期にあたる2〜5月に撤去した巣は1万5880個に及んだ。このような問題は全国の電力会社でも生じていて、各社とも巡回や撤去、営巣防止装置の設置などのコストは数億円に上ると言われる。
都市部:カラスが生ゴミをあさりゴミ収集所周辺を汚くするばかりでなく、鳴き声による騒音、繁殖期の人への攻撃などが問題になっている。秋から冬にかけては、都市部の電線や街路樹に大集団でねぐらを形成し、騒音・糞害で住民を悩ます。中には、1万羽ほどの集団が市街地の電線に数珠(じゅず)つなぎに止まり、その下は糞だらけで衛生面でも心配である。ここ数年、大陸からやってくるミヤマガラスが九州の都市部で同様の問題を起こしている。
カラスに荒らされたごみ集積所。カラス対策用のネット脇の隙間からごみ袋を引き出し、破って食べられるごみを探す
カラスによる被害
被害の現場 | 被害の実態 | |
---|---|---|
1 | 畜舎 | 家畜への攻撃 乳牛の乳頭へのつつき(乳房炎) 病気の持ち込み |
2 | 鉄道 | 置き石 高架線への営巣 |
3 | ビル | 屋上エアコン室外機配管の断熱材破損 屋上緑化植物の食害 糞害 |
4 | 田畑 | 農作物の食害 |
5 | 電力会社 | 変電所送電トラブル 鉄塔への営巣 碍子(がいし)の破損 ケーブル被覆の破損 糞害 騒音 |
6 | 市民の居住エリア | ごみ集積場あらし 人への攻撃 街路樹のねぐら化 糞害 騒音 |
7 | 運送会社 | 倉庫の段ボール箱破壊 糞害 |
8 | 動物園 | 餌の横取り 小動物への危害 営巣 |
9 | ゴルフ場 | 芝の掘り返し ゴルフボールの持ち去り |
10 | ソーラーパネル | 上空から石を落下させパネルを破壊 |
11 | 学校 | 児童への襲来(営巣・子育て時により凶暴化) |
12 | カーポート | 車のパッキン部分やワイパー・ゴムの損傷 糞害 |