なぜ評論家・川本三郎は台湾で愛されるのか?

文化

米果 【Profile】

日本の評論家の著作が外国語に翻訳されることは滅多にない。しかしながら、川本三郎の作品は台湾で5冊も翻訳されている。なぜ、それほどまでに川本作品は台湾で支持されているのか?

川本三郎が出会った唯一の他言語の読者、台湾

葉美瑤氏によると、川本作品の台湾の読者層は日本の読者層より若く、日本への思い入れがある読者であればあるほど、川本作品を面白いと感じる傾向にあるという。

「出版社の立場からすると、川本三郎という作家はすぐに売れはしないかもしれませんが、面白いものをたくさん持った人物だと思います。私は川本先生の作品を読んで『男はつらいよ』を観始めました」

新型コロナウイルスの流行前、川本氏は雑誌「東京人」、新潮社の編集者と聞文堂の黄碧君と共に定期的に台湾を訪れては、川本氏が好きな台湾映画の「聖地巡礼」をしていたそうだ。また、何度か小規模書店によるセミナーに登壇したこともある。これが川本氏にとって最も慣れた読者との交流の方法だ。2019年末に屏東で行われた大型イベント「南国漫読節」のステージでは、川本氏は緊張しっぱなしだったという。

2019年の屏東で開催された「南国漫読節」での対談をする川本氏と李明璁氏(台湾新経典文化提供)
2019年の屏東で開催された「南国漫読節」での対談をする川本氏と李明璁氏(台湾新経典文化提供)

葉美瑤氏は川本氏は台湾に特別な感情を抱いていると感じている。

「川本先生の作品は他の国や他の言語では翻訳されていません。川本作品が出会った他言語の読者は台湾だけなのです。数字だけを気にする出版社や作家もいますが、川本先生は別のところを気にかけてくれます。たとえばみんなと育んだ友情です。きっとそんな川本先生のふるまいが、彼を『外国人作家』と思わせない、私達の仲間だと思わせてくれるのだと思います」

バナー写真=台北・大稻埕「青鳥居所書店」で映画『男はつらいよ』を語る川本三郎氏(台湾新経典文化提供)

この記事につけられたキーワード

小説 台湾 村上春樹 川本三郎

米果CHEN Sumi経歴・執筆一覧を見る

コラムニスト。台湾台南出身。かつて日本で過ごした経験があり、現在は多くの雑誌で連載を持つ人気コラムニストとして活躍中。日本の小説やドラマ、映画の大ファンでもある。

このシリーズの他の記事