総選挙圧勝のスー・チー氏が笹川政府代表と会見:ミャンマー和平交渉に強い意欲
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ミャンマーの総選挙は5年に1度。四半世紀ぶりに行われた2015年総選挙でNLDが改選議席の8割に当たる390議席を獲得したが、今回はそれを上回る396議席を手中に収めた。
ミャンマーでは、選挙において対抗政党を直接批判できないルールがあるため、政策論争などはあまりなく、国民が事実上の最高指導者スー・チー氏のかじ取りを再信任するかどうかの選挙だった。
事前の予想では、過去5年間の内戦終結交渉の停滞や経済成長の鈍化もあり、与党NLDの議席減を予想する声が多かったが、今回の圧勝によって国民のスー・チー氏への信望と民主化継続への期待が改めて証明された形になった。国軍と近い連邦団結発展党(USDP)や少数民族政党は伸び悩み、軍に割り当てられる25%の議席を含めても、NLDは単独過半数で今後5年間の安定的な政権運営基盤が確保された。投票率も7割を超える高さだった。
スー・チー氏と10日、首都ネビドーの同氏自宅で会見した笹川代表は「スー・チー氏は非常に冷静に勝利を受け止めていた」と振り返った。
NLD政権の過去5年間、少数民族勢力との和解交渉に対して消極的とみられる姿勢が目立った。席上、笹川代表は「ラカイン州にアラカン軍という少数民族の武装勢力集団が現れ、独立を志向している。これが他の民族に波及することを考えると非常に危険な状態であり、(スー・チー氏の父である)アウン・サン将軍の夢見た国民和平が複雑な方向に進む可能性がある。これからの5年間は民族和解を最大のテーマとしてぜひ実現していただきたい」と訴えた。さらに「私の説得で国軍は11カ月間の一方的停戦を実現したが、それでも停戦協議が進まなかったのは非常に残念なことだった。政府と国軍との間の情報共有、対話の促進を早急に進めてほしい」と、和平への一層の努力を求め、スー・チー氏も同意したという。
また、ミャンマー政府の発表によれば、スー・チー氏は笹川代表に対して、「和平プロセスを精力的に努力して取り組む」と述べた。
現在、ミャンマー情勢で最も注目されるのは、ロヒンギャ問題で揺れ続けた西部・ラカイン州の治安問題で、分離独立を唱える少数民族アラカン族の過激派がつくるアラカン軍の勢力拡大が懸念されている。NLD候補が誘拐されるなどトラブルが頻発し、同州では総選挙での投票も一部地域で中止になった。
笹川代表は、選挙に先立つ6日に国軍のミン・アウン・フライン最高司令官とも会談し、ラカイン情勢についても意見を交わした。
中国は一帯一路政策の一環としてインド洋から大陸への資源ルート確保を目指し、ラカイン州のチャウピュー港と中国を結ぶ石油パイプラインを建設している。さらに中国・ミャンマー間の鉄道建設計画を打ち出すなど、ロヒンギャ問題への不満やアラカン軍の台頭によるラカイン州の不安定化で欧米企業などが進出に二の足を踏むなか、この地域への影響力拡大を試みている。
現状では、ミャンマーで中国の進出に対抗できる国は事実上、日本だけという状況になっている。日本とミャンマーの関係について、笹川代表は「スー・チー氏の日本に対する期待は高い。日本は5000億円の借款を免除し、来年は12億米ドル(約1250億円)から13億米ドル(約1350億円)の経済協力をする予定もある。諸外国の中で突出した支援国であり、日本のプレゼンスは大きい。スー・チー氏もそのことをよく知っており、『日本はあらゆる面で援助、協力してくれている。民族和解や経済開発について、引き続いて日本の支援をお願いしたい』という話があった」と述べた。
今回の総選挙について、一部で投票の公正性を疑わせる意見が出ていたが、選挙監視のためにヤンゴンで複数の投票所を訪問した笹川代表は「選挙は非常に公正に行われ、国軍も結果を受け入れている」と語った。選挙では、日本政府が提供した二重投票防止のためのインクが活用された。
バナー写真:笹川陽平ミャンマー国民和解担当日本政府代表(左)とアウン・サン・スー・チー国家顧問=2020年11月10日、ネピドーで(日本財団提供)