日米野球の融合と集大成:千葉ロッテ左腕チェン・ウェイン

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李 弘斌 【Profile】

9年ぶりに彼が日本プロ野球に帰って来た。2020年、千葉ロッテマリーンズに途中加入した台湾人左腕チェン・ウェイン(陳偉殷)だ。10月以降、4試合に先発出場。打線の援護に恵まれず、白星こそ挙げられなかったものの、1年以上もペナントレースに出場していない投手が4試合連続クオリティ・スタート(6回以上投げて、自責点3以内)を達成し、防御率2.42は上出来だ。米メジャーリーグに渡ったチェン・ウェインを5年にわたり、取材してきた筆者はチェンをどう見ているのか。

日米野球の違い その2:百科事典vsオーダーメイド

メジャーリーグのコーチはブルペンの様子を見て個別指導を行う(李弘斌撮影)
メジャーリーグのコーチはブルペンの様子を見て個別に指導する(李弘斌撮影)

2019年までにチェン・ウェインはMLBで通算59勝を挙げた。これは歴代アジア人投手の中で第8位という成績だ。チェンのメジャー移籍は成功だったと言えよう。実際にMLBでの経験を通して、チェンの投球は新たなステージに上がったと言える。それはMLBが重視する「オーダーメイド・トレーニング」によるものだ。MLBでは伸び悩んでいる選手に対し、個別に診断とアドバイスを行い、課題を解決していく。日本の「百科事典」的なトレーニングとは大きく異なる。

具体例として「スカウティング・リポート」が挙げられる。スカウティング・リポートとは相手チームの打者を分析したデータだ。先発投手は試合前にリポートに目を通し、配球の参考にする。チェンによると、MLBでは3連戦の2試合目に先発する場合、コーチ陣は登板する2試合目のスカウティング・リポートだけを渡すという。しかし日本では3連戦分のリポートが渡される。

先発するのは1試合だけなのに、なぜ3試合全てのリポートが必要なのだろうか? それは日本の野球は「細かい」からだ。細部までのこだわりはまるで全てを網羅した百科事典のようだ。事典にはどんな知識も網羅されている。

一方、事典の読み手である選手にとっては大きな負担だ。自身にとって必要な情報が事典の一体どこに書かれているか、分からないからだ。適切な指導がなければ、砂浜で1本の針を探すような作業になる。自身に最適な情報が入手しづらい状況では、選手1人1人が抱える問題に適した解決法を採ることができない。

日米の文化の違いから見ると、日本は団体行動を重視し、米国は個人主義で英雄主義という印象がある。ただ米国での考えは必ずしも「自分勝手」という意味ではない。言い方を変えれば、個々の違いを重視し、「オーダーメイド」の対応をとっていくということだ。

チェンを例にとると、MLBで投球に調整が必要だと感じた場合、彼はまずコーチ陣に伝える。するとチームはチェンにブルペンでの練習をアレンジし、そこで投手コーチやブルペン担当コーチからのアドバイスを受けることができる。アドバイスの方法も選手を枠の中にはめ込むのではなく、選手本来の動きを試してみて、その結果に応じて最適な解決策を提案するというものだ。

2013年、ブルペンでチェンの投球練習を後ろから細かくチェックするコーチ(李弘斌撮影)
2013年、ブルペンでチェンの投球練習を後ろから細かくチェックするコーチ(李弘斌撮影)

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スポーツ記者。台湾中国時報スポーツ部主任。FOXスポーツチャンネル、イレブンスポーツチャンネル、エリートアスリート賞選考委員(台湾体育署主催)、アジアゴールデングローブ賞選考委員(体壇週報主催)。中時電子報助理副編集長、中華サッカー協会メディア連絡員、麗台運動報記者等を歴任。

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