お弁当名店・崎陽軒の台湾進出:日台弁当文化のこれだけの違い

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このほど台北駅に、シウマイ弁当でおなじみ、100年以上の歴史を持つ横浜の老舗『崎陽軒』の海外進出1号店が誕生した。日本の駅弁専門店の台湾初進出は現地でどう受け止められているのだろうか。また、崎陽軒は台湾の食習慣をどのように反映させたのだろうか? 日本と台湾の弁当文化の違いとは一体何なのだろう?

台湾式弁当の「満腹感」

台湾式弁当にとって重要なのは、できたての温度を保つことだ。そしてその「温かい弁当」のおかずは大体決まっている。主菜の代表格は台湾式トンカツ「炸排骨(ジャーパイグー)」、台湾式フライドチキン「炸雞腿(ジャージートゥイ)」、そして台湾式豚の角煮「焢肉(コンロウ、爌肉と表記することも)」の3種類だ。台湾人は肉が好きだ。特に豚肉を好んで食べる。弁当を開けて肉が入っていなかったら、とてもガッカリしてしまうだろう。一方、副菜については、主菜ほどは関心を寄せない。

買ってきた弁当に、たとえば肉と魚の2種類の主菜が入っていたら、嬉しくて小躍りしてしまうほどである。台湾人は弁当を買うとき、主菜で選んでいると言っていい。また、主菜とご飯だけを食べて、野菜のおかずを食べずに捨ててしまう人をよく見かける。肉がなければ用はない、これは台湾人の食事の好みを最も分かりやすく表現した言葉かもしれない(ベジタリアン用の「素食弁当」はまた別の話である)。

台湾の外食文化はとても豊かだ。加えて共働きの家庭が多く、仕事を持つ母親に食事を作る時間がなければ、買ってきた弁当を夕食にすることも珍しくない。自炊よりコストパフォーマンスが良く、何と言っても時間を節約できることがポイントだ。そのため夕食時、ビュッフェ式の店は食事を買いに来た女性でごったがえしているのである。

日本の主婦が総菜を買うのは、スーパーやデパ地下だろうか。台湾の主婦が行くのは、セルフビュッフェ式の店だ。「セルフビュッフェの店」とは、ずばり台湾の昔ながらの弁当店のことだ。店内には出来たての主菜や副菜が並び、客は自分で好きなおかずを選んでカウンターに持って行き、精算する。すべてセルフなので「セルフビュッフェ(自助餐)」と呼ばれている。野菜炒め、ゆで卵、魚の唐揚げ、炸雞腿、炸排骨、滷味(ルーウェイ / 台湾式煮込み)、野菜のあえ物、チャーハン、焼きそば……全て料理人による手作りだ。若干、味の濃いものもあるが、とてもおいしい。

台湾の弁当は主菜1つに3種の副菜が入って、たったの80元(約295円)前後、100元(約368円)でおつりがくる。弁当の価格は主菜によって決まる。興味深いのは、魚が牛肉や豚肉より高いということだ。魚は比較的ヘルシーだが、肉の方が食感も良く、満足感もある。だから台湾では肉の弁当の方が人気がある。さらにイートインならご飯、スープ、飲み物、スイーツ的な甘いスープも、おかわり自由である。外食する人にとって弁当店は満腹天国だと言えるだろう。

台湾の弁当は安い、うまい、速い、便利。弁当は家族の食事を準備する母親や祖母たちのニーズを満たすだけでない。単身者も、肉体労働者も、フリーターも、会社員も弁当を買う。日常の外食では、みんなレストランより、セルフビュッフェの店に行くのである。

台湾式の「お弁当食堂」、自由に総菜を選ぶことができて、種類が豊富で満腹感もある。(筆者撮影)
台湾式の「お弁当食堂」、自由に総菜を選ぶことができて、種類が豊富で満腹感もある。(筆者撮影)

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