日本の食卓に隠れた台湾:「岩下の新生姜」誕生にみる台湾食材の魅力

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大岡 響子 【Profile】

「岩下の新生姜」(岩下食品)には、台湾のみで栽培される特産品の生姜「本島姜(ペンタオジャン)」が使用されていることはご存知だろうか。日本の漬物文化は台湾食材に支えられていたのだ。

「岩下の新生姜」と聞けば、多くの日本人はあの印象的なコマーシャルを思い浮かべるのではないだろうか。

1世帯あたりの漬物消費量が減少傾向にある中、栃木市に本社を置く岩下食品は、ツイッターを介して直接消費者とつながったことをきっかけに、主力商品である“岩下の新生姜しばり”のレシピブック『We Love 岩下の新生姜 ツイッターから生まれたFANBOOK』を刊行したり、2015年には本社近くに「岩下の新生姜ミュージアム」をオープンしたりと食卓の外でも話題をふりまいている。ミュージアムには年間14、5万人も訪れるほど。そのミュージアムでひときわ目を引くのが、原材料の生姜についての展示だ。実は、原材料の生姜は、全て台湾からやってきている。

「本島姜」の漬物

1978年、当時社長だった岩下邦夫氏は台湾出張の道中、機内食で台湾の生姜漬けに出会った。この運命的な出会いをきっかけに、87年の発売以来のロングセラー商品「岩下の新生姜」は生まれた。台湾で栽培されてきた本島姜(ペンタオジャン)の爽やかな香りとシャキッとした歯応えに惚れ込んだのだ。

原料となる本島姜は、現在も南投県南投・埔里、嘉義県梅山の契約農家約30軒が栽培、機械に頼らず、手作業で丁寧に収穫している。日本で栽培することも試みたが、「本島姜」の名前にもあるように「本島(台湾)」中部の、湿度が高く、粘土質な赤土があってこそ美味しく育つことが再確認された。毎年6月から7月にかけて収穫され、洗浄された後に日本へと送られる。薄ピンク色のパッケージを裏返すと、「しょうが(台湾)」が原材料名の先頭に表示されている。

台湾での栽培の様子(岩下食品提供)
台湾での栽培の様子(岩下食品提供)

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明治学院大学兼任講師。国際基督教大学アジア文化研究所研究員。専攻は文化人類学。植民地期台湾における日本語の習得と実践のあり方とともに、現在も続く日本語を用いての創作活動について関心を持つ。「植民地台湾の知識人が綴った日記」が『日記文化から近代日本を問う』(笠間書院、2017年)に収録されている。

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