日本のメディアは李登輝の死をどう報じたか

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野嶋 剛 【Profile】

台湾の李登輝元総統の死去について、日本のメディアはこぞって速報で報じ、翌日以降もすべての主要全国紙が一面、国際面などで大きく記事を展開した上で、社説を掲載した。台湾を除けば、日本が最も李登輝の死に注目した国だったはずだ。すでに長く第一線から退いている海外の政治指導者の死去が、どうしてこれほど日本で注目され、どのように報じられたのかを検証した。

評伝では対日関係や「台湾の悲哀」に言及

一面に李登輝の生前の功績を整理した「評伝」を載せたのは産経新聞だけだった。評伝の筆者は元台北支局長の河崎眞澄記者。産経新聞では昨年から今年にかけて「李登輝秘録」の長期連載を掲載し、7月末にちょうど書籍として刊行されるというタイミングにぶつかったが、河崎記者はそのシリーズの主要筆者でもあった。

産経新聞の評伝では、李登輝と日本というテーマを中心に取り上げており、李登輝が総統就任後、かつて国民党が行ってきた「反日教育」を改めさせ、「若い世代が公平な目で日本を見て判断し、親しみを感じる傾向が強まったという。反日教育を90年代から加速させた中国や韓国と台湾の差がここにある」と述べているのは、保守的な論調を売りにする産経らしい内容だと言えるだろう。

一方、一面以外の場所で各紙掲載した評伝の中で、バランスの良い読後感を与えたのは朝日新聞だった。筆者は現在、台北支局長を務める西本秀記者。司馬遼太郎との対談で李登輝が語った「台湾人に生まれた悲哀」という言葉を取り上げた。オランダ、清朝、日本、国民党などの「外来政権」に支配されてきた歴史の「悲哀」を背負っているという意識を持ちながら、台湾生まれの本省人として初めての総統として登場した李登輝が「民主化を進める原動力となった」と指摘した。

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野嶋 剛NOJIMA Tsuyoshi経歴・執筆一覧を見る

ジャーナリスト。大東文化大学教授。1968年生まれ。上智大学新聞学科卒。在学中に、香港中文大学、台湾師範大学に留学する。92年、朝日新聞社入社。入社後は、中国アモイ大学に留学。シンガポール支局長、台北支局長、国際編集部次長などを歴任。「朝日新聞中文網」立ち上げ人兼元編集長。2016年4月からフリーに。現代中華圏に関する政治や文化に関する報道だけでなく、歴史問題での徹底した取材で知られる。著書に『認識・TAIWAN・電影 映画で知る台湾』(明石書店)、『台湾とは何か』(ちくま新書)、『故宮物語』(勉誠出版)、『台湾はなぜ新型コロナウイルスを防げたのか』(扶桑社新書)『香港とは何か』(ちくま新書)『蒋介石を救った帝国軍人 台湾軍事顧問団・白団の真相』(ちくま文庫)『新中国論 台湾・香港と習近平体制』(平凡社新書)など。オフィシャルウェブサイト:野嶋 剛

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