「台湾ロス」の記事が大反響、コロナの往来断絶で喪失感を共有

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野嶋 剛 【Profile】

nippon.comの繁体字版が7月10日に発信した「好想快點去臺灣!日本哈臺族的『台灣ロス』」 の記事が、記録的なアクセス数を計上し、台湾・民進党政権の林佳龍氏や鄭文燦氏ら有力政治家が相次いで言及するなど、大きな反響を呼んだ。新型コロナウイルスによって相互交流が制約される日台間で、お互い「ロス」を悲しむ気持ちが高まっており、記事がその人々の心情と捉えた形だ。

台湾でも深刻な日本ロス

台湾人の日本旅行好きは、日本人以上と言えるだろう。その多くが自分でチケットとホテルをアレンジする海外個人旅行型だ。JTBが2019年に行った調査では、過去の滞在回数は「6回以上」が37.3%と最も多く、滞在日数も「4~6日」が66.8%、「7~13日」が25.3%にのぼり、日本ロスは台湾社会でも相当に深刻だと見られる。

現在、日本から台湾には、観光や就学目的では入国はできず、ビジネスなどの特別な理由があれば搭乗3日前のPCR検査の陰性証明と台湾到着後の7日間の在宅検疫が求められる厳しい規制下に置かれている。台湾は一部の国に規制緩和を計画しており、日本も緩和対象に入っているが、最近の日本の感染状況の悪化で、引き続き緩和対象に含まれるかどうかは微妙な情勢だ。一方、日本は現在、原則として全ての外国人の入国を拒んでおり、台湾人が日本に旅行や仕事で来ることは不可能に近い。

対中関係の悪化で中国人旅行客の減少に悩んでいる台湾にとっても、この事態は大きな痛手となったことも、リーダーたちの「台湾ロス」の記事への反応の背景にある。日本の台湾ファンは重要な誘致ターゲットになっていたからだ。往来が元の状態に戻るまで時間がかかりそうで、日台間でお互いの「ロス」をどうやって解決するか、お互いが知恵を出し合っていくことが求められる。

バナー写真=新型コロナの流行前は日本各地で台湾の物産や文化を楽しむ「台湾フェア」が開催され、日本の哈台族を楽しませていた(筆者撮影)

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野嶋 剛NOJIMA Tsuyoshi経歴・執筆一覧を見る

ジャーナリスト。大東文化大学教授。1968年生まれ。上智大学新聞学科卒。在学中に、香港中文大学、台湾師範大学に留学する。92年、朝日新聞社入社。入社後は、中国アモイ大学に留学。シンガポール支局長、台北支局長、国際編集部次長などを歴任。「朝日新聞中文網」立ち上げ人兼元編集長。2016年4月からフリーに。現代中華圏に関する政治や文化に関する報道だけでなく、歴史問題での徹底した取材で知られる。著書に『認識・TAIWAN・電影 映画で知る台湾』(明石書店)、『台湾とは何か』(ちくま新書)、『故宮物語』(勉誠出版)、『台湾はなぜ新型コロナウイルスを防げたのか』(扶桑社新書)『香港とは何か』(ちくま新書)『蒋介石を救った帝国軍人 台湾軍事顧問団・白団の真相』(ちくま文庫)『新中国論 台湾・香港と習近平体制』(平凡社新書)など。オフィシャルウェブサイト:野嶋 剛

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