「台湾ロス」の記事が大反響、コロナの往来断絶で喪失感を共有

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nippon.comの繁体字版が7月10日に発信した「好想快點去臺灣!日本哈臺族的『台灣ロス』」 の記事が、記録的なアクセス数を計上し、台湾・民進党政権の林佳龍氏や鄭文燦氏ら有力政治家が相次いで言及するなど、大きな反響を呼んだ。新型コロナウイルスによって相互交流が制約される日台間で、お互い「ロス」を悲しむ気持ちが高まっており、記事がその人々の心情と捉えた形だ。

台湾の交通部長、桃園市長がツイート

「ロス」とは、本来、ペットを失った人々が悲しみで精神的な打撃を受けることから「ペットロス症候群」という言葉が流行語となり、そこから派生していろいろなものに「ロス」をつける習慣が広がった。台湾ロスは、いうまでもなく、台湾に行くことができなくなった人々の喪失感を表現するものだ。

日本人の台湾愛好家は、若者から高齢者まで幅広く、以前は台北中心の観光が多かったが、最近は台湾南部や東海岸へ足を伸ばす人も増えており、年に2回、3回と訪れるリピーターも多い。仕事もビザなしで訪問できて、フライト便数も多い台湾は最も行きやすい外国のひとつだ。筆者も、自分の取材や自著に関する講演などで年に10回は訪れており、ほとんど日本と変わらない感覚であった。コロナによる日台の「断絶」という状況にはなかなかなじむことが難しい。

台湾ロスの記事は、自由時報の東京特派員である林翠儀さんが、台湾ロスを抱えた日本の台湾ファンがいかに喪失感を癒しているかを、熱烈な台湾ファンである安村美佐子さんのケースを通して詳しく紹介している。7月10日に繁体字版が発信されてから、数日で10万PVを超えるアクセスを記録した。アクセスだけではなく、台湾の多くのサイトなどに転載され、台湾の民進党政権のリーダーたちも相次いで言及した。

台湾で観光政策を司る交通部のトップ、林佳龍交通部長(大臣)が、記事が公開された翌日のツイッターで「二十年前、安村美佐子さんは娘どともに、初めて台湾にやって来た。山奥に迷ってた時、ある運転手のおかげで目的にたどり着いた、帰り道の車まで用意してくれた。「実に親切な人々!」と思って、安村さんが台湾にハマた。貴方が台湾にどんな出会いでしたが?良ければ話してください。」とつぶやき、中国語でも同じ内容を発信した。林佳龍部長は、日本留学経験があり、日本語にも通じている。

桃園国際空港のある台湾の玄関口、桃園市の鄭文燦市長は公式ツイッターで「台湾旅行ができず台湾グルメも食べられず、人情味あふれる台湾が恋しいと「台湾ロス」になっている日本の方が増えていると聞いています。コロナ終息後、台湾の玄関である桃園を訪れ、大渓で遊び、客家粄條(米製麺料理)を食べ、桃園人の情熱を存分に味わってくださいね。#台湾ロス の方いますか」と呼びかけると、200以上のリツイートがあり、多くの賛同や感謝のコメントが寄せられた。

この2人とも、台湾の次世代リーダーとして蔡英文総統の次を狙う可能性のある人材として名前が挙がっている民進党の有力政治家だ。

台湾の動画を提供

台湾の日本人社会にも、台湾ロスの記事の反響は広がった。台湾在住の日本人が運営する「台湾チャレンジ」というユーチューブチャンネルでは、今回の記事を受けてと思われる動画を配信した。タイトルは「台湾ロスの方へ 台湾で待っています」。台湾各地の風景や名所、グルメの様子をおよそ7分間の映像にまとめて紹介し、日本の台湾ロスの人々を癒そうとしてくれている。

管理人の言葉として「台湾ロスの方へ、宝島台湾の動画をお届けします。いつになるかわかりませんが、また安全に海外旅行ができるようになったら、ぜひ台湾に遊びに来てくださいね。台湾で待っています。飛行機に乗ることが電車やバスに乗るようなとても身軽なことだったあの頃。天佑台灣。天佑日本。いつでもすぐに行けると思っていたあの頃。ある日突然飛行機は飛ばなくなり、恋人、家族、友達、大切な人々と突然会えなくなった。おいしいモノたち。観光もできなくなった。懐かしいあの風景。台湾は変わらずあなた方を待っています。この現実を受け止めることができず、心の中にぽっかりと空いた空洞をいまだに埋めることができない。いつの日にかまた自由に空を飛び、お互いの国に行き来できる日が来ることを心から願う」と書かれている。

一方、台湾の側にも逆に「日本ロス」の声はネット上にあふれている。今回の記事に対する書き込みでも「日本の温泉、ラーメンが恋しい。今年は紅葉を見られないだろうな」「北海道に毎年スキーに行っているけれど、今年は無理だろうか」などの悲しみのコメントがあった。台湾で哈日族という言葉の創始者である哈日杏子さんはフェイスブックに「日本に行きたいよ(好想去日本)」というイラストを載せている。

哈日杏子さん提供
哈日杏子さん提供

台湾でも深刻な日本ロス

台湾人の日本旅行好きは、日本人以上と言えるだろう。その多くが自分でチケットとホテルをアレンジする海外個人旅行型だ。JTBが2019年に行った調査では、過去の滞在回数は「6回以上」が37.3%と最も多く、滞在日数も「4~6日」が66.8%、「7~13日」が25.3%にのぼり、日本ロスは台湾社会でも相当に深刻だと見られる。

現在、日本から台湾には、観光や就学目的では入国はできず、ビジネスなどの特別な理由があれば搭乗3日前のPCR検査の陰性証明と台湾到着後の7日間の在宅検疫が求められる厳しい規制下に置かれている。台湾は一部の国に規制緩和を計画しており、日本も緩和対象に入っているが、最近の日本の感染状況の悪化で、引き続き緩和対象に含まれるかどうかは微妙な情勢だ。一方、日本は現在、原則として全ての外国人の入国を拒んでおり、台湾人が日本に旅行や仕事で来ることは不可能に近い。

対中関係の悪化で中国人旅行客の減少に悩んでいる台湾にとっても、この事態は大きな痛手となったことも、リーダーたちの「台湾ロス」の記事への反応の背景にある。日本の台湾ファンは重要な誘致ターゲットになっていたからだ。往来が元の状態に戻るまで時間がかかりそうで、日台間でお互いの「ロス」をどうやって解決するか、お互いが知恵を出し合っていくことが求められる。

バナー写真=新型コロナの流行前は日本各地で台湾の物産や文化を楽しむ「台湾フェア」が開催され、日本の哈台族を楽しませていた(筆者撮影)

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